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感想ブログ~演芸(落語・浪曲・講談)etc.~

立川談春三十周年記念落語会『もとのその一』-THE FINAL-

2015年8月2日
立川談春三十周年記念落語会『もとのその一』
-THE FINAL-
 @シアターコクーン(渋谷Bunkamura)

『たがや』
『小猿七之助
~仲入り~
居残り佐平次




昨年から全国で開催された、談春師三十周年記念落語会、
その最終回は渋谷シアターコクーンにて。
歌舞伎はあれど、落語会が催されるのは初めて、とのこと。
毎度のことながら、渋谷に行くのは辛い。
とても言葉が通じるとは思えない異星人とも見紛う人々が、
大量に犇めき、まるで違う惑星に行くかのごとくに疲れて
しまう。
その日は35℃の猛暑に加え、未成年を主体としたデモが
行われていた。
混沌(カオス)。
人(特に若者)はいつからこんなに牛歩になったのか。
スマホを弄りながら歩くからだろうか。



何故か志ん朝の「居残り」を聴きながら会場に到着。
今回、チケットは買えないかもしれない、と思っていた
が、奇蹟的に買えた。都内近郊で行われる談春師の独演
会に通うようになり(勿論すべてではない)、苦節約5年。
ようやく「居残り」が聴ける!


マクラは今回の記念落語会に際し、談志や勘三郎丈の墓
参りをした時のこと、等ややセンチメンタルな様相。


『たがや』。少々時代背景の説明がくどい。
そこまで説明しないと駄目な人々が、談春師の独演会を
聴きに来るようになった、ということだろうか(私とて江
戸時代の研究者じゃないので詳らかにはしないが)。
原版はたがやの首が切られて飛ぶのだが、いつの間にか
侍の首が飛ぶ下剋上なオチに変えられた。


師匠談志が原版のオチを使っていたからかどうか分から
ないが、談春師はたがやの首を飛ばした。
こちらのオチを使うとカタルシスを得られない人がいる、
とのことだが、それが妙齢のおじさんと聞くと、さもあ
りなん、という気がしてしまう。


『小猿七之助』。太田そのさんの三味線と端唄が良かった。
しかし落語でこれを演じるには、やや中途半端感が否めない。
時間が短か過ぎるような気がした。
談春師の『乳房榎』を聴いてみたい。もっと軽いところで
『もう半分』でもよい。故中村勘三郎丈が平成中村座で催し
た、立川談志追悼落語会で演じた『鈴ヶ森』(『白井権八』)
は素晴らしかった(少々理性を失う程に 笑)…


居残り佐平次』。約1時間弱。期待度が高過ぎたためか、
感動は平板だった。談春師の「いのさん」は、単に狡猾な
人物、としか映らなかった。


落語家・立川談春と「いのさん」の生き方(在り様)を、無理
矢理重ねようとしても、詮無きこと。しかし絶望的に深く、
暗い存在の「淵」を、どうしてもそこに見て(見たくなって)
しまう。


ネット上における今回の記念落語会での「居残り」の評価は、
概ね高評価で、以前より進化している、との感想が多かった。
進化していく「いのさん」。
是非もう一度聴いてみたい。


最後は三本締め。
幕が下りる前、「○○(自粛)な志らくの三十周年を、どうか
祝ってやってください」
と仰る談春師。志らく師への強い愛を感じました。
今年は志らく師の三十周年記念落語会が催されるようです。


帰りは異星人(老若男女その他別なく)の群れの合間を、談志の
『小猿七之助』を聴きながら帰った。
この素晴らしさ、共感出来る人はこの中にいるだろうか、と
いう孤独感を噛みしめつつ。


さて談春師の『包丁』『らくだ』は、一体いつ聴けるのであり
ましょうか…