立川らく兵 真打昇進披露落語会 第二夜
2024年10月9日(水)
「立川らく兵 真打昇進披露落語会 第二夜」
@渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール
立川談春『棒鱈』
柳亭市馬『締め込み』
立川志らく『火焔太鼓』
~仲入り~
口上:(下手より)らく次(司会)/談春/らく兵/志らく/市馬
立川らく兵『茶の湯』
今年5月に真打に昇進された立川らく兵師匠は立川志らく師匠
のお弟子さんである。初めて高座を拝聴したのは志らく師の独
演会で、前座の身分だった10年以上前のことだ。独特の雰囲気
と前座ながら達者な口跡が印象に残っている(その頃は自分自身
がへらへらのニワカだったので、ど素人の覚束ない感想の域を
出ず申し訳ない)。
師匠の高評価によるものか、志らく師の独演会に行くと前座が
らく兵師のことが多くなり、自然に応援する気持ちが芽生えた。
同じく5月に逝去された橋本席亭の道楽亭に行ったのはらく兵師
の会が最初で、2012年12月、「立川らく兵ひとりだけの落語会
新宿解放戦線(その2)」という名称の独演会だった。
らく兵師には徐々に固定客がつき始めていたが、私は志らく師
に落語以外への「迷い」が見えたように思ったこととと家庭の
影の濃さが辛くなってきたので(この辺の事情はこの↓記事に詳
述した)、
https://vidroid-y.hatenablog.com/entry/2023/12/24/091414
談春師匠の会に行く回数が増えていき、志らく師の弟子である
らく兵師の会にも足が遠のいてしまった。
と同時にらく兵師には落語家としての危機が何度も訪れた。
破門、亭号剥奪、謹慎、前座降格…自業自得と言えばそれまで
だが。破門しても落語家としての評価は崩さない志らく師に他
の師匠を紹介すると言われても決して受け入れず、志らく師の
弟子であることを望んだらく兵師を、陰ながら見守るしかなかっ
た卑怯な(?)客の私だが、昨年9月に行われた立川流独自の昇進
制度「真打トライアル」前・後編には駆け付けた。
長講を二席ずつ拝聴したが、若木が青々と茂る大木に成長した
様を仰ぎ見るような感慨を覚え、素で落語を楽しんだ。
そして志らく師から真打昇進合格の太鼓判を押された瞬間の嬉し
さは、言葉では言い尽くせない。
後日、こんな薄情な末端客にも真打昇進披露宴に御声掛け頂いた
が、あまりにもおこがましいので辞退申し上げた。
立川流一門会での真打昇進披露興行にも伺えなかった。
そして今日、やっと二日間開催の真打披露興行落語会に一日だけ
だが伺うことができた。
ゲストは志らく師と懇意の柳亭市馬師匠と談春師匠で、主役への
優しくも厳しいマクラとともに、落語二席を至極楽しく拝聴した。
そして志らく師は「二日間来て頂いたお客さんに、師弟比べても
らう意味で」と前置きして、前日にらく兵師がトリで演じた『火
焔太鼓』。志らく師の持ちネタのなかでも特に好きなネタで久し
振りに拝聴したが、疾走するギャグ(クスグリ)はまったく衰えを感
じさせなかった。
そして口上。市馬師の素晴らしい相撲甚句に感動した後(市馬師の
本寸法の浪曲を是非拝聴したい)、らく兵師を挟んで繰り広げられ
た志らく談春両師の口論(?)には度肝を抜かれた。
詳述は避けるが、談志家元にまつわる牽制合戦ともいえる言葉に
よる決闘か芸談を主題とする一幕の舞台を観ているようで、客席
が呆気に取られ、置いてきぼりになった市馬師が気の毒だった。
新規のファンや談志家元及び談春志らく両師の著作を読んで思想
に触れることまではしない客にとっては何のこっちゃ分からず、
何口上のお目出度い場で喧嘩してんの?と訝しんだかもしれない。
しかし私は衝撃を受け、動悸が激しくなるのを自覚した。
どこまでが(主に談春師による)演出なのだろう、と思う程壮絶で
濃密な、通常の口上では有り得ない展開だったが、志らく師から
らく兵師の真打に至るまでの艱難辛苦の「赦し」の道程を聞き、
昨日のらく兵師の『火焔太鼓』の方が時代に即しているし勢いが
ある、という言葉で、肉親以上といわれる師弟間の「情」を実感
した。それは談志家元から伝わる「芸/情」の血脈でもあった。
トリのらく兵師は『茶の湯』。今席のすべてを収斂する比類なき
楽しさの一席を心ゆくまで堪能した。
14年前に初めて自分の意志で落語会に行って以来、最も感情を揺
さぶられ、心に残る落語会だった。
追記:厳密に言うと最も感情を揺さぶられた落語会は、談志家元
の『子別れ』上下(上:強飯の女郎買い、下:子は鎹で、中は抜い
てしまっていた)を最後に聴いた立川談志一門会(2011年1月、練
馬文化センター大ホール)だが、この会は特別で、別次元にある。
芸歴40周年記念興行 立川談春独演会2024
2024年8月24日(土)
「芸歴40周年記念興行 立川談春独演会2024」
今年1月から始まった立川談春師匠の芸歴40周年記念
興行は、9月と10月を残すのみとなった。
丸40周年を迎えられたのは4月である。残念ながらす
べてに通えるほど甲斐性がある客ではない。
当初一席目は前座噺だったが、後半ぐらいからトーク
になった。とは言え談春師匠であるから、長講一席に
近い濃い内容だ。
今席も同様で詳述はしないが、まず初めに
「昼夜やるんじゃなかった。何のために落語やってる
のか分からないもうやめたい」
「…と思っていたけどヨガ?フォロワー?(←いまいち
分からず)なので10分前ぐらいにやっぱりやろうと思い
ました」(客拍手)というやや不可解な場面があった。
どなたか懇意な客が来たのだろうか?
この日のネタ出し二席を見て、ぼんやりと
三代目桂三木助トリビュートっぽいなと思っていたら
やはりそうだった。
『へっつい幽霊』は落語らしい落語だが面白くはない。
その謂いは、談志家元の教え「落語はリズムとメロディ
で覚えろ」にある。「(最初は)客に笑う隙を与えるな」。
トークで話していたこと(上述したこととは違う)がしっ
かり反映されていて、その意味でとても面白く拝聴した。
談春師匠は落語を覚える際、大概の落語家とは違いノー
トに書き写して覚えることはせず、「音」で覚えるとの
ことだが、エクリチュールécriture(書き言葉)ならぬパロー
ルparole(話し言葉)の技巧が話芸ゆえ、常に抜き身で闘っ
ている緊張感があり、それも談春師匠の魅力のひとつだ
と思っている。
『ねずみ』は浪曲師二代目広沢菊春の浪曲を三代目桂三
木助が『加賀の千代』と交換して持ちネタにしたことは
有名な逸話だ。そしてこの一席にもリズムとメロディの
話は生きていて、昼席にあったという不思議なグルーヴ
感が夜席にもあった。元が浪曲だったというのがミソで、
落語家さんによって演じ方は様々だろうけれど、談春師
匠は今席ではそれ(リズム、曲)を意識して演じたのでは
ないだろうかと想像した。
今席は終演後にもやや長いトークと客席とのやり取りが
あって、カタカナ語が飛び交ったことに倣えばホスピタ
リティに溢れていた。
趣味がネガティヴ(マイナス)思考なのは変わらないご様
子で、終わらないネガティヴ(マイナス)思考地獄からの
脱出がゆえのオチ(サゲ)がある落語希求なのだろうかと
勝手に想像した。落語にはオチ(サゲ)があるのがデフォ
ルトですから(笑)。
予想していたより至極楽しい一夜になった。
次回は9月の『火事息子』『三軒長屋』の回だが、2010
年から緩く談春師匠の独演会に通い始めて以来、『火事
息子』を拝聴したことは一度もない。
期待するな、と言われても無理な話である。
撮影タイムあり。後方席かつスマホのカメラの性能が悪く、残念
太福たっぷり独演会(2024.8.23)
2024年8月23日(金)
「太福たっぷり独演会」
わ太/さと『青龍刀権次第一話「発端」』
太福/鈴『フジロックで唸ってきました物語』
~仲入り~
太福 テーマトーク「前座制度がない!?浪曲の
楽屋修業編」
太福/みね子『天保水滸伝「平手造酒の最期」』
オフィス10様主催の玉川太福さん独演会、今回で
初回から何回目になるのだろうか。
5年前の2019年7月が初参加だった。
現在は浪曲師太福さん一門、曲師みね子師匠一門
の合同会の様相を呈している。
開口一番のわ太さんは太福さんの一番弟子、さと
さんはみね子師匠の二番弟子だ。
わ太さんの長所は声の大きさと大師匠なみの高調
子で、『青龍刀権次』はその福太郎師匠の得意ネ
タだった。自分なりのクスグリを入れて、啖呵も
シャキシャキしているのでどんどん聴き易くなっ
てきているし最終話の大団円までどうなっていく
のか楽しみだ。
大師匠、師匠、弟子、と玉川の節が様々なかたち
で受け継がれていくのが客の立場としてとても嬉
しい。
太福さんの一席目は三度目くらいだが、途中で演
題が『清水次郎長伝』の「石松三十石船道中」を
もじった『フジロック唸り道中』になったので、
なるほど、曲師と一緒に石松よろしく敵陣(?)に
乗り込む道中記、となれば視点が定まって面白い
と思ったのだが、元の演題に戻ったのは何故だろ
う。「行って来ました物語」シリーズの一席とし
て統一したかったのだろうか。
出演されたのは例年鈴々舎馬るこ師匠がレギュラー
でご出演の「ところ天国」という青空寄席で、敵
陣というよりはロックフェスにおけるアジールAsile
(自由領域、避難所)のような場所だと思わされた。
今年のフジロックフェスはクラフトワークが来て
いたこともあり、行きたい気持ちはあったがやは
り無理だった。
仲入り後のテーマトークは太福さんの修業時代の話。
詳述は避けるが、落語や講談と異なり前座制度がな
い浪曲では定席に前座として通う習慣がなかったの
で、ほぼ同期の東家一太郎さんとともに自ら志願し
て木馬亭定席に毎日前座として入るようになったと
いうお話は以前どこかで伺った記憶があるが、賢明
なお二人ゆえ、浪曲師曲師の大看板大御所にリアル
に接して、苦労はあっただろうけれども芸事に大い
に有益な様々なことを吸収したに相違ない。
国本武春師匠もご存命だったのだから。
師匠のお着換え中、わ太き太のお弟子さん二人によ
る楽屋修業トーク。メインテーマはサウナ(笑)。
太福さん二席目は、事前にX(Twitter)で仰っていた、
「今日この日だから」のネタだが何だろう、と思っ
ていたが、会の冒頭で「今日はお見送りできません」
という言葉であっ!と察した。
そうだ「大利根河原の決闘の日」だ。史実では6日
のようだが。
浪曲版『天保水滸伝』は正岡容の脚色で玉川派のお
家芸。「平手造酒の最期」(駆け付け)は前段が講談
の「潮来の遊び」の段、ということは落語の『明烏』
のような場面から、さらに『文七元結』のような場
面を経て決闘へ、という流れだ。
太福さんはカン違いの節(ふし)を使われるが、激し
い戦闘場面の前だと嵐の前の静けさのような効果を
もたらして実に沁みてくる。啖呵のキレと格好良さ
は比類なく、最後に柝が打たれて決まった瞬間涙腺
が決壊した。
最近福太郎師匠の「平手の駆け付け」の音源を聴い
たこととテーマトークが影響したのかもしれない。
実に節と唸りは情を操る魔法だ。
余韻を引きずったまま帰りの電車でもまだ涙が止ま
らなかった。そして落ち着いてから考えた。ご本人
はネタおろし続きで多忙だし特別なことはやってま
せんが?という意識だったかもしれない。しかし今、
太福さんの唸りでみね子師匠の三味線で『天保水滸
伝』を聴けることの幸福を噛みしめた。
数十年後、この玉川のお家芸はどうなっているだろう。
太福さんの楽屋修業時代に現役だった大看板大御所
の浪曲師はほとんどの方が物故されてしまった。
今は落語の寄席で前座修行が出来るようになったと
は言え、それは浪曲の未来を考えるとき、避けられ
ない厳しい現実だと考える。
とっくの昔にいないお前などには関係ない、と言わ
れそうだが、その時、現役浪曲師が活躍する木馬亭
では、歴々たる浪曲師の残留思念ならぬ残留思”唸”
が渦巻いているのだろうか。
神代の薔薇
調布市にある神代植物公園は1961年10月20日に開園した広大な
植物園で、開園当初からある噴水付き沈床庭園(サンクンガーデ
ン)の薔薇園はとても好きな場所だ。
アミューズメント性とは別に神聖さを伴う場所で、春薔薇の5月、
秋薔薇の10~11月の時期には遊びに行くというよりは「詣でる」
感覚で訪れる。
ウンベルト・エーコ『薔薇の名前』(Il nome della rosa)を引くまで
もなく、薔薇は単なる植物を超越した記号的存在だ。
名前はなくとも美しさに変わりはない。しかし名前があることに
より美の記号としての証明書が付くわけである。
AI時代到来により昨今では、
◉「バラノナ」→スマホを薔薇にかざすとAIで自動判定した品種を
表示するアプリ
◉「神代バラコレ」→自分で撮影した薔薇の写真を品種別にコレク
ションできるアプリ。各品種の解説も閲覧できる
などのアプリケーションが用意されているが、極私的な薔薇アルバ
ムを作りたいと考え実行したものの、400種類あるという春薔薇の
91種類しか把握できなかった。
<薔薇の品種>
HP…ハイブリッド・パーペチュアル。オールド・ローズの完成形。
庚申バラ等返り咲きのバラを交配に用いて生まれた新系統同士
を掛け合わせ、ティー・ローズを交配に用いることによって生
まれた。
HT…ハイブリッド・ティー。四季咲き大輪一輪咲き。1867年にフラ
ンスのギヨー(Jean-Baptiste Guillot)が作出した”ラ・フランス”
La Franceが第1号とされる。これより前をオールド・ローズ、
後をモダン・ローズと呼ぶ。
Pоl…ポリアンサ・ローズ。ノイバラ系統を引く改良バラ。小花を
連続的に房咲きにつける。ギリシャ語で「たくさんの花」の
意。
F…フロリバンダ。アメリカで名付けられた系統名で、「花束」の意。
ハイブリッド・ティー種とポリアンサ種の交配により生まれた。
四季咲き中輪種。
Gr…グランディ・フローラ。ハイブリッド・ティー種とフロリバン
ダ種の交配によりアメリカで生まれた系統。最初の品種は1954
年生のクイーン・エリザベスとされるが、従来のハイブリッド・
ティー種と区別がつきにくいので、本種を認めない国もあると
いう。
B…ブルボン系統。19c初期にインド洋のブルボン島(現在のレユニオン
島)で発見された。オータム・ダマスクとチャイナ系統の自然交雑
により育成された系統。つる性としての性質が強い。芳香性多。
P…ポートランド・ローズ。西洋バラと東洋(庚申)バラの交配により最
初に出来た品種とされたが、近年では返り咲き性が庚申バラ由来
ではないという研究結果が出ている。
Cl…クライミング・ローズ。つるバラ。2つの成立系統がある。
●元々つる性として作出された品種
●四季咲き木立ち性バラからの枝変わり(突然変異)により生じた
品種。つる〇〇と四季咲き時の名前が引き継がれる。
S…シュラブ・ローズ。どの系統にも属さないつる性の品種。開花特性
が様々。
R…ランブラー・ローズ。オールド・ローズのつるバラ。ノイバラ(ロ
サ・ムルティフローラ)や照葉ノイバラ(ロサ・ルキアエ)他ロサ・
モスカータやロサ・セティゲラ等を交配親とする品種群。原種か
らの影響で小輪房咲き、春のみの開花。
Lcl…ラージフラワードクライマー。ランブラー系のつるバラにHT
系やF系を交配して作出された大輪のつるバラ。
Мin…ミニチュア・ローズ。四季咲きバラすべての親ロサ・キネンシ
ス(庚申バラ)のうち、ロサ・キネンシス・ミニマという特に小
さい原種を交配親として発展した品種。19世紀前半からミニマ
の派生種「ルーレッティ」が知られていたが、行方不明になっ
たため、再発見された20世紀に入ってから実際に交配されるよ
うになった。
アイルランド産リキュールの名
アンソニーは作出者メイアンの息子の名か
イギリスの女優(1898-1983)の名前
イスラエル出身の女性歌手(1941-)の名
神代植物公園開園50周年記念に公募で命名
14世紀後半の北海・バルト海に実在した、ドイツでは有名な海賊の名前
伝説的なバラ園芸家の名
昔日のドイツの王国の名
ドイツ海軍の階級名。准将
信頼。「ピース」を作出したフランスのバラ大育種家フランシス・メイアン作出
フロリバンダの父(パパ フロリバンダ)と言われた名作出家ブーナー晩年の傑作品種。
作出者本人の名
「ピース」の枝変わり品種
イタリアの女優、フォト・ジャーナリストの名
「ピース」と「コンフィダンス」の交配種
別名「トロピカーナ」(Tropicana)
プロスペル・メリメの小説のタイトルか
別名フレグラント・ゴールド(香る黄金)
作出者アラン・メイアンの祖父アントワーヌ・メイアンの愛称
最初の名は作出者の母の名「アントワーヌ・メイアン」だったが、
後に戦争のない世界を願って名付けられた
ファラオン=ファラオ。エジプトの王の名
ベートーヴェン作オペラの題名
ドイツバラ協会会長夫人の名。和名「不二」。
日本の著名なバラ育種研究家、岡本勘治郎氏作出
秩父宮勢津子妃に捧げられた
後のモナコ公国妃グレース・ケリーに捧げられた
bajou=不明
ドイツ語「陽気な、活発な、楽しさ」
アメリカのオペラ歌手の名
「ポンポンのような」
アメリカのカスケード山脈の南部にある火山
オペラ歌手マリア・カラスに捧げられた
第16代アメリカ合衆国大統領の名
「お伽噺の女王」
ドイツのファッションデザイナー、クロード・モンタナに捧げられた
パリ市内の地区名
ベルサイユ宮殿の庭師を務めたフランスのバラ育種家の名門「ゴジャール」の名作
著名なバラ育種家、鈴木省三作出の「かがやき」の子供品種
鈴木省三氏作出
鈴木省三氏作出
鈴木省三氏作出。国際コンクールで最高点を受賞した最初のバラ
栃木県佐野市のバラ育種家、小林森治作出。青バラのなかでも最も青いとされる
鈴木省三氏作出
2023年の演芸その他と私
2023年の演芸その他と私
2023年は演芸以外でもあまりにも印象的な出来事が多かった
ので、時系列で書き留めることにした。
2023年に拝聴した演芸(1高座単位で配信は入れていない)
浪曲:304(そのうち138は玉川太福師匠)
落語:171
講談:72
色物:28
昨年に続き浪曲師玉川太福師匠を緩く追った。
以下、拝聴した演目の内訳を記す(丸数字は聴いた回数)。
☆は特に印象深かった演目。
<古典>(57)
◎天保水滸伝「繁蔵売り出す」②
◎天保水滸伝「鹿島の棒祭り」②
◎天保水滸伝「笹川の花会」➂
◎天保水滸伝「蛇園村斬り込み」②☆
◎天保水滸伝「平手の駆け付け」①
◎天保水滸伝「繁蔵の最期」①
◎清水次郎長伝「秋葉の火祭り」①
◎清水次郎長伝「石松三十石船」④
◎清水次郎長伝「石松代参」④
◎清水次郎長伝「石松と身受山」①
◎清水次郎長伝「お民の度胸」①
◎清水次郎長伝「追分宿の仇討」①☆
◎清水次郎長外伝「清水の三下奴」①☆
◎清水次郎長外伝「善助の首取り」②☆
◎青龍刀権次「発端」①
◎青龍刀権次「召し捕り」②
◎青龍刀権次「爆裂お玉」①
◎誉れの三百石➂☆
◎死神(脚本:稲田和浩)①
◎陸奥間違い➂☆
◎祐天吉松「飛鳥山 親子対面の場」①
◎梅ヶ谷江戸日記➂
◎阿武松①
◎長短槍試合①
◎明石の夜嵐①
◎忠治山形屋➂
◎茶碗屋敷②
◎中村仲蔵②
◎松坂城の月②
◎大石東下りより「武林の粗忽」①
◎紺屋高尾➂
<新作>(81)
◉地べたの二人「おかず交換」➂
◉地べたの二人「おかずの初日」②
◉地べたの二人「湯船の二人」①
◉地べたの二人「道案内」①
◉男はつらいよ第1作「恋する寅さん」①
◉男はつらいよ第11作「寅次郎忘れな草」②
◉男はつらいよ第14作「寅次郎子守唄」①
◉男はつらいよ第17作「寅次郎夕焼け小焼け」②
◉男はつらいよ第20作「寅次郎頑張れ!」⑦
◉男はつらいよ第23作「翔んでる寅次郎」➂
◉男はつらいよ第24作「寅次郎春の夢」④
◉男はつらいよ第25作「寅次郎ハイビスカスの花」②
◉男はつらいよ第26作「寅次郎かもめ歌」①
◉男はつらいよ第27作「浪花の恋の寅次郎」➂☆
◉任侠流れの豚次伝(作:三遊亭白鳥(以下同))(一)
「豚次誕生秩父でブー!」②
◉任侠流れの豚次伝(二)「上野掛け取り動物園」①
◉任侠流れの豚次伝(三)「流山の決闘」①
◉任侠流れの豚次伝(四)「雨のベルサイユ」②
◉任侠流れの豚次伝(五)「天王寺代官斬り」①
◉任侠流れの豚次伝(六)「男旅牛太郎」①
◉任侠流れの豚次伝(七)「悲恋かみなり山」➂☆
◉任侠流れの豚次伝(八)「チャボ子絶唱」①
◉任侠流れの豚次伝(九)「人生鳴門劇場」①
◉任侠流れの豚次伝(十)「金比羅ワンニャン獣の花道」①
◉サカナ手本忠臣蔵(一)「刃傷サンゴの廊下」②
◉サカナ手本忠臣蔵(二)「赤穂城明け渡し~山科閑ギョ」①
◉サカナ手本忠臣蔵(三)「オオイカ東下り」①
◉サカナ手本忠臣蔵(四)「赤エイ源蔵徳利の別れ」①
◉サカナ手本忠臣蔵(五)「岡野キンキ門絵図面取り」①
◉サカナ手本忠臣蔵(六)「大団円~魚士討入り」①
◉豆腐屋ジョニー(作:三遊亭白鳥)①
◉自転車水滸伝 ペダルとサドル②
◉浪花節爺さん(作:稲田和浩)②
◉続・名寄に行ってきました物語①
◉北の国へ’23①
◉サウナ探訪#2①
◉祐子のスマホ➂
◉祐子のセーター④
◉祐子の笑点④☆
◉祐子のスマホと笑点②
◉浪曲偉人伝①
◉うーる①☆
◉ベランダの母④☆
《1月》
3日:「浪曲定席木馬亭」@浅草木馬亭
イエス玉川師匠がフリーになった理由が判明し、驚愕する
(完全自粛)。
4日:史上初の「雲助三三二人会」@日本橋社会教育会館8階ホール
雲助『初天神』『幾代餅』三三『五貫裁き』『道具や』
6日:大利根勝子師匠の誕生日、玉川太福師匠の「第59回”月例”
木馬亭独演会」にゲストとしてご登場。『五郎正宗少年時
代』。勝子師匠の大ファンという宝井梅湯さんも太福師の
リクエストで「梅花の誉れ」を一席。
9日:①玉川祐子師匠の聞き書き自伝『100歳で現役!~女性曲
の波乱万丈人生』(光文社2022)読了。
②インド映画『RRR』@立川シネマシティで魂を解放。
10日:①「しのばず寄席初席」@お江戸上野広小路亭
トリは三遊亭兼好師匠『天狗裁き』。特急の面白さ。
②世界的ギタリストジェフ・ベックの訃報。享年78歳。
11日:YMO高橋幸宏氏逝去。茫然自失。享年70歳。
12日:XTCのオリジナルメンバーでドラマーのテリー・チェン
バースが在籍するトリビュートバンドEXTCが奇跡の来日。
@下北沢シャングリラ。参加できて至福、ライヴ中何度
か気絶しそうになる程感動した。さらにチェンバース氏
と誕生日が同じことが判明(当然生年は違う)。
※SET LIST(1月13日付の記事)
https://vidroid-y.hatenablog.com/entry/2023/01/13/013338
14日:①ガラス工芸学会のオンライン研究会。「一乗谷朝倉氏遺
跡博物館について」。
②柄谷行人氏が多摩ニュータウン住と知り、やや驚く。
15日:「立川談春独演会2023」@戸田市文化会館
『粗忽の使者』『妾馬』。懐かしのお目出度い噺二題。
17日:「春風亭百栄独演会」@ミュージック・テイト西新宿店
今は無きミュージック・テイトにて、レアな「桃太郎」
コンボ。
21日:「こがねい落語特選 新春達士鳴動の会」
@小金井宮地楽器大ホール
鯉昇→権太楼(仲)太福→雲助、という色々と偲ばれる番組。
配布パンフレットの執筆者が長井好弘先生で、独自の視点
で書かれていて面白かった。
26日:「玉川太福独演会」@ミュージック・テイト西新宿店
今となっては複雑な思いしかないクラファンの一日席亭コー
スのリクエストで次郎長伝三席。前読みはわ太さん。
みね子師匠がミュージック・テイトに来るのはすごく久し振
りとのことで、そう言えば「浪曲入門」の曲師は美舟さんだっ
たな、と懐かしく思い出した。
28日:①「田辺凌鶴独演会 これも凌鶴あれも凌鶴(第二十四回)
@道楽亭
※1月28日付の記事あり(同タイトル)
https://vidroid-y.hatenablog.com/entry/2023/01/28/234500
田辺凌鶴先生の独演会、創作講談二席がとても素晴らしい。
一記『甕割典膳』
凌鶴『大山団地の自治会』
~仲入り~
凌鶴『名刀捨丸』『いとしの洗濯機』
②「白鳥の巣(第24回)」@スタジオフォー
感性の即興性が際立つ『お魚天国』、何度拝聴しても伏線回
収の鮮やかさと廃棄(笑)が潔い『ふたりの豊志賀』。まさに
”白鳥天国”。
➂元テレヴィジョンのトム・ヴァ―レインの訃報。享年73歳。
29日:シーナ&ロケッツの鮎川誠氏の訃報。享年74歳。
《2月》
4日:①「浪曲定席木馬亭」@浅草木馬亭
大利根勝子師匠、最後のトリ興行に辛うじて間に合った。
『雪の夜噺』。曲師は玉川みね子師匠。
②「第60回玉川太福”月例”木馬亭独演会」@浅草木馬亭
わ太さんが浪曲師として初めて芸協の寄席の前座に入ったと
のこと、お目出度い。赤穂義士が切腹を命じられたのが元禄
16(1703)年2月4日、故の『誉れの三百石』(荒川十太夫)。
7日:「浪曲定席木馬亭」@浅草木馬亭
玉川太福師匠の一番弟子、わ太さんが木馬亭定席初舞台、『阿
漕ヶ浦』。講談は福太郎師匠と親しかった宝井琴柳先生、次郎
長伝「小政の生い立ち」が聴けた。
13日:松本零士氏の訃報。享年85歳。
14日:「第一回蜃気楼龍玉独演会」@日本橋社会教育会館8階ホール
オフィスマツバ主催による初の龍玉師独演会。
『山崎屋』『やんま久次』。
15日:①「太福たっぷり独演会」@なかの芸能小劇場
わ太さんの口演中演台が崩れるアクシデント発生。驚きつつ
爆笑。
②よしながふみの漫画『大奥』がNHKで実写ドラマ化。
18日:「三遊亭白鳥 玉川太福 二人会」@深川江戸資料館小劇場
『任侠流れの豚次伝』俥読みの会。白鳥師がスピンオフ、太福
師が第7話「悲恋かみなり山」をネタおろし。改めて「悲恋か
みなり山」のバカバカしい設定に隠れた尖鋭的異端性と物語の
ダイナミズムに痺れた。浪曲は更にそれらを特化する。凄い。
21日:「玉川太福独演会ウ・ナ・ラ・セテ東京」@内幸町ホール
鉄板の『豆腐屋ジョニー』『陸奥間違い』が聴けて、ゲストの
春風亭かけ橋さんは落語版「湯船の二人」。オチがすっきり決
まっていた。
23日:お江戸上野広小路亭に居続け。
①広小路講談会
②しのばず寄席 トリは三遊亭遊雀師匠の至福の『らくだ』。
24日:「玉川太福独演会 ~今回が八十八回目の出演です」@道楽亭
「石松三十石船」「爆裂お玉」「寅次郎子守唄」十四しばり。
25日:①「大利根勝子師匠引退興行」@浅草木馬亭
わ太/みね子『阿漕ヶ浦』
奈みほ/まみ『塩原多助~円次の死』
太福/みね子『自転車水滸伝~ペダルとサドル』
勝子、奈々福、太福「トーク」
~仲入り~
奈々福/豊子『浪花節更紗』
勝子/みね子『花売り娘』
参加できて至福、寂しいが幸福な結末。勝子師匠のボタン付き
の「唾掛け」を太福師匠が譲り受けたとのこと。初めて「唾掛
け」の存在を知った。
②「白鳥の巣 第26回」@スタジオフォー
18日の『チャボ子の初デート』再び、『落語の仮面』第10話
「走れ元犬 真打への架け橋」。実に”異化して”いた。
28日:「鍛耳會33」@ばばん場
わ太/みね子『阿漕ヶ浦』
太福/みね子『誉の三百石』
~仲入り~
太福/みね子『任侠流れの豚次伝第7話「悲恋かみなり山」』
唾掛けは勝子師匠譲り、『誉の三百石』の台本は五月一朗先生
から、「悲恋かみなり山」は白鳥師原作。節(ふし)はすべてを
浄化する。
《3月》
2日:「浪曲定席木馬亭」@浅草木馬亭
講談は神田伯山先生で、初聴きの「太閤記」(…)。天光軒満月
師匠からトリの天光軒雲月師匠の流れがザ・浪曲で最高だった。
”雲月バラシ”に陶酔。
3日:大江健三郎逝去。享年88歳。
5日:①「第61回玉川太福”月例”木馬亭独演会」@浅草木馬亭
『北の国へ’27』『サウナ探訪#2』のソーゾーシーネタ二席に
『祐天吉松「親子対面の場」』は福太郎師匠の得意ネタ。太福師
が福太郎師匠に入門したのはまさにこの日。わ太さんが浪曲中興
の祖ともいわれる桃中軒雲右衛門に似ている、という指摘に会場
色めき立つ。
②坂本龍一教授がパーソナリティーのJ-WAVE「RADIO SAKAMO
TO」が20年の幕を閉じた。
11日:①「講談貞橘会(第125回)」@らくごカフェ
久し振りの一龍齋貞橘先生の会。
②「玉川太福 宝井梅湯二人会(第15回)」@らくごカフェ
太福師の二人会で松鯉先生との二人会と同じくらい好きな会。
太福『清水次郎長伝「石松と見受山」』『紺屋高尾』
梅湯『太閤記「長短槍試合」』『天保六花撰「玉子の強請」』
14日:アンスティテュフランセ(日仏会館)で開催された「ジャン・コ
クトー映画祭」で初めて『詩人の血』をスクリーンで観た。震
えるほど美しく狂暴な映画だと再認識した。とても90年前の映
画とは思えない。画面の速度が架空の時間に沿いつつリアルな
ことに驚かされた。悪夢の具現化そのもの。
15日:「玉川太福 男はつらいよ全作浪曲化に挑戦!」
@日本橋社会教育会館8階ホール
第25作「寅次郎ハイビスカスの花」は浅丘ルリ子演じるリリー
がマドンナで最高傑作と言われている。男女の欲ならぬ情愛を
一人で表現する困難に節(ふし)が魔法のごとく効いていた。
初めて二番目のお弟子さんの名が「き太(だい)」さんだと知る。
18日:「花形特選講談会 神田松鯉 宝井琴調 二人会」
@日本橋社会教育会館8階ホール
近年この会場がよく使われるようになった気がする。尊い二人会。
松鯉『赤穂義士銘々伝「赤垣源蔵徳利の別れ」』『男の花道』
琴調『宇喜多秀家 配所の月』『浅妻船』
19日:「新宿田辺凌鶴の会(第81回)」@永谷新宿Fu+
創作講談『日野の移動図書館ひまわり号』はかつて住んで
いた土地に関する話で、懐かしくも親しかった。凌鶴先生
の創作講談は、古典と同じく面白くてためになる。
25日:「オペラ『THE SPEECH』」東京公演@シアター1010
玉川太福師が田中角栄役で客演主演の劇団ポラリスの公演。
二度目だが席運が悪くあまり集中して観られなかった。
26日:「白鳥の巣(第29回)」@スタジオフォー
談志家元のエピソードがメタ的に面白い『オオサンショウ
ウオの恩返し』、桜を散らす雨の日にふさわしい『ラーメ
ン千本桜』。
28日:坂本龍一教授逝去。享年71歳。死ぬまで塞がらない穴が心
奥に空いた。
※4月5日付の記事あり(「坂本龍一”教授”がいない世界にて」)
https://vidroid-y.hatenablog.com/entry/2023/04/05/014431
29日:「明治座創業150周年記念 高田文夫プロデュース 第三回立
川流三人の会」@明治座
※3月30日付の記事あり(「第三回 立川流三人の会」)
https://vidroid-y.hatenablog.com/entry/2023/03/30/224151
初・明治座にして伝説の三人会に初参加。まさに夢のよう。
ジャンケンで出番を決める趣向。談春『お花半七(宮戸川)』
志の輔『みどりの窓口』志らく『文七元結』。
私は夜の部で、昼の部では談春師がトリで「文七」をかけた
とのこと。とにかく高田先生の神がかりトークから、談春師
の前座時代のあまり聞いたことがないエピソードなど、耳が
豊かになり過ぎて重くなるほどだった。
30日:明治座の三人の会のトリの出囃子もそうだったが、立川志ら
く師のお弟子さんのらく兵さんの御教示により、ある出囃子
が「三下り中の舞」であることが判明した。これは能が出所
で、落語では真打、歌舞伎では位の高い人の出に使われるお
囃子だという。宝井琴調先生が鈴本主任の際に出囃子として
使われており、談志家元も十代目馬生も談春師も…というこ
とで混乱していたが、ようやく謎が解けて有難かった。
31日:①「第1回呼び鈴会~イエス玉川独演会篇」
@港区立伝統文化交流館
昭和10年建造の大変風趣がある会場にて、玉川みね子師匠の
御弟子さん鈴さんが主催する勉強会へ、招かれざる客と思い
つつも伺ったが、やはりこれがピリオドとなった。
客いじりも芸のうちと言われるが、ただの悪口は芸ではない。
指さして「ブス」と言われ、「鈴ちゃんはブスじゃないもん
ね」と言われてうれしそうに笑う様を見て一気に冷めた。ま
だ新人の、浪曲師でもない曲師が初手から客を選別するのも
不快だ。しかしイエス玉川師匠のゴシック調テーブル掛けは
心底カッコいいと思う。
②テレビ朝日の長寿番組「タモリ倶楽部」が40年の歴史の幕
を閉じた。喪失感が半端ない。これから金曜日の深夜は何を
観ればいいのか?空耳アワーよ永遠なれ(涙)。
《4月》
1日:玉川太福師匠が令和4年度彩の国落語大賞特別賞を受賞の報。
受賞したネタは『男はつらいよ第20作「寅次郎頑張れ!」』。
落語大賞受賞者は三遊亭わん丈さん。
2日:①「浪曲定席木馬亭」@浅草木馬亭
太福師初主任興行。一番弟子のわ太さんに始まり、浪曲師曲
師ともに若手勢揃い。講談は神田松麻呂さん。太福師トリネ
タは『紺屋高尾』で曲師はみね子師匠。
②夜は「第62回玉川太福”月例”木馬亭独演会」@浅草木馬亭
二番弟子き太さんの初舞台。眼鏡を外したらあらイケメン、
な少女漫画的展開に沸き立つ会場。太福師は彩の国落語大賞
特別賞受賞ネタ、「寅次郎頑張れ!」で締め。
3日:宝井梅湯さんが来春真打に昇進、宝井琴凌の名跡を継ぐとい
う吉報。
7日:国立近代美術館70周年記念の展示「重要文化財の秘宝」展へ。
展示物すべてが重要文化財。鏑木清方の『三遊亭圓朝像』と
44年振りに発見された『築地明石町』(女性像)に特に惹かれた。
8日:①植物学者牧野富太郎が主人公で演じるのが神木隆之介という
ことで、非常に久し振りに「朝ドラ」『らんまん』を毎週観る
ことになった。
②「第278回府中の森笑劇場 春うらら特選寄席」
@府中の森芸術劇場ふるさとホール
ついに太福師が顔付けされた。曲師は地元在の伊丹明師匠。
松平洋子先生以来、40年振りの浪曲師の出演、しかも仲入り
後トリ前の出番。「おかず交換」大ウケで、廻り舞台の転換
に拍手喝采。トリは柳家喬太郎師で『お若伊之助』。
15日:太福師客演主演の劇団ポラリス「ザ・スピーチ THE SPEECH」
長岡公演に遠征。初めて東北新幹線に乗った。個人的見解とし
て最後のまず、これまで~、のまず、で柝(き)が入ったら完璧、
といつも思う。
16日:「立川談春独演会2023」@ルネこだいら大ホール
※4月16日付の記事あり(同タイトル)
https://vidroid-y.hatenablog.com/entry/2023/04/16/114500
『替わり目』『包丁』。この日は「笑点」に太福師の曲師とし
て祐子師匠が出演されるので、リアルタイム視聴のために仲入
りで帰ろうと思っていた。しかしマクラからして動揺する内容
で、尚且つ『包丁』をかけると宣言されたので、帰れなくなっ
た。これに関しては記事を書いた
22日:「第26回西荻寄席 玉川太福浪曲会」@井荻會館
”月例”木馬亭独演会同様一門会の様相を呈してきた。わ太さん
はネタ下ろし(「梅花の誉れ」)。ゲストは近々真打に昇進され
る春風亭吉好さん。
23日:「白鳥の巣第31回」@スタジオフォー
『牛丼晴れ舞台』を合唱、SWAでのネタ『彼女は幽霊』。
SWAは参加できなかったので拝聴できて嬉しかった。
24日:「鍛耳會24」@ばばん場
太福師による浪曲協会員の試験を控えたき太さんの公開稽古。
とても興味深かった。
29日:「百栄てきぃーらvol.4」@スタジオフォー
『お血脈』『露出さん』『サヨナラ旅行社』。最後は10年来
の蔵出しネタ。ブラックな内容で、颯爽たるオチに驚く。
百栄師の真骨頂ネタ。
30日:「アルテリッカ演芸座 異種競演 お好み寄席」
@新百合トゥエンティワンホール
一玄亭米太朗師が座長のユニークな会。坂本頼光先生と玉川
太福師匠が顔付けされ、曲師は玉川祐子師匠。
《5月》
3日:「浪曲定席木馬亭 玉川福太郎十七回忌一門会」@浅草木馬亭
玉川御一門が一堂に会し壮観。講談は神田桜子さんで、自作
新作講談『ピクサーを創った男』、面白い。福太郎師匠の声
節が木馬亭に響き、感慨ひとしお。間に合わなかったことは
生涯悔やむことだろう。
4日:「新宿田辺凌鶴の会 五月連休の巻」@永谷新宿Fu+
ゲストは上方講談の旭堂南湖先生。凌鶴先生『黒雲のお辰』
には浪曲『唄入り観音経』に似た部分があると仰っていた
が、ネット検索したところ、幕末~明治の落語家三代目麗々
亭柳橋作の落語『正直安兵衛観音経』が元ネタだとしている
人がいた。
5日:①立川談春師匠の唯一のお弟子さん、立川こはるさんがこの
日付で真打に昇進し、立川小春志と改名された。
②フィリップ・ソレルス逝去。享年86歳。
6日:①「談春浅草の会 真打昇進予行演習」@浅草公会堂
立川こはるさんが苦節〇年ようやく真打に昇進、披露興行の
予行演習的な親子会。久し振りに談春師の『桑名船』を拝聴
して嬉しかった。最初に聴いた時は、まだ講談の知識ゼロだっ
たので、面白味が分からなかった。客も成長する、ということ。
②「第63回玉川太福”月例”木馬亭独演会」@浅草木馬亭
一門会として定着しつつある。入場者が5千人を突破した
とのこと、感慨深い。『任侠流れの豚次伝』、東京での連
続読み初回。第一話と第二話。太福師は本寸法の次郎長伝
と豚次伝をフルスイングで出来るわけで、両刀振るえるの
が素晴らしい。太福師匠にしか成し得ないことだ。
8日:「第695回紀伊國屋寄席」@紀伊國屋ホール
国本はる乃さん、宝井琴調先生、坂本頼光先生…目を見張
るような顔付け。トリの伯山先生『お紺殺し』はいつ拝聴
しても恐いより切ない。
9日:「第34回大演芸祭り 日本浪曲協会”感謝を込めて”」
@国立演芸場
七人の浪曲師/曲師による浪曲にどっぷり浸れた3時間。
業者の入札不成立のまま、国立劇場他改築閉場は尚早で
は?
10日:「松鯉・太福二人会」@お江戸上野広小路亭
玉川福太郎師匠と懇意だった人間国宝 神田松鯉先生が、
家族の会のようだと仰る素晴らし過ぎる二人会。
松鯉『天保六花撰「丸利の強請」』『名人小団次』
太福/みね子『長短槍試合』『祐子の笑点』
松鯉先生のトリネタ『名人小団次』は初めて拝聴した。
13日:「第10回五街道雲助独演会」
@日本橋社会教育会館8階ホール
『豆屋』→志ん生直伝。模写付き。
『粟餅』→超尾籠な噺が粋に転換、鮮やか。
『らくだ』→ルサンチマン皆無、明快。
18日:ヘルムート・バーガー逝去。享年78歳。
19日:元ザ・スミスのベーシスト、アンディ・ルーク逝去。
享年59歳の若さ。
22日:「玉川太福五夜連続独演会 天保水滸伝連続通し口演」
@道楽亭
※5月27日付の記事あり(「玉川太福五夜連続独演会2023」)
https://vidroid-y.hatenablog.com/entry/2023/05/27/233000
初日。毎年恒例の新宿道楽亭での五夜連続独演会は、
福太郎師匠のご命日を含む日程だが今年は十七回忌
で山形に帰られるためみね子師匠は3日間お休みで、
その間の曲師は弟子の鈴さんだった。
前読みはわ太・き太両お弟子さんがつとめ、太福師匠
は天保水滸伝から一席、他古典一席の侠客もの尽くし
の五夜。個人的に垂涎の番組である。
しかし何故か客席は五夜ともに贅沢過ぎる空間だった。
コロナウイルスとこの会場(失礼ながらお席亭?)も理由
の一つで、近くの末廣亭夜席の主任が鯉八師匠だったこ
とも要因だと想像する。
この状況から、太福師の道楽亭での五夜連続独演会は今
回が最後となったようだ。寂しい限りである。
わ太/鈴『阿漕ヶ浦』
太福/鈴『清水次郎長伝「石松代参」』
~仲入り~
太福/鈴『天保水滸伝「繁蔵売り出す」』
23日:第二夜。玉川福太郎師匠のご命日。今年は諸事情により
お墓参りに行けなかった。無念。
わ太/鈴『不破数右衛門の芝居見物』
太福/鈴『梅ヶ谷江戸日記』
~仲入り~
太福/鈴『天保水滸伝「鹿島の棒祭り」』
24日:①第三夜。曲師の鈴さん、わ太さんは最終日。仲入り中
の告知漫才が定着し、ウケていた。
わ太/鈴『寛永三馬術 愛宕山「梅花の誉れ」』
太福/鈴『明石の夜嵐』
~仲入り~
太福/鈴『天保水滸伝「笹川の花会」』
②ティナ・ターナー逝去。享年83歳。
25日:第四夜。今日から曲師はみね子師匠。この日はBS朝日の
「自分流」という「情熱大陸」に似たTV番組の密着取材
収録があった。もちろん極力映らない場所に座った。
カメラの影響もあったと想像するが、「蛇園村斬り込み」
が超絶素晴らしく痺れた。会場内のすべてが演者さんに
集中し、演者さんがそれをがっしりと受け止める、至福の
時空が存在していた。
き太/みね子『阿漕ヶ浦』
太福/みね子『国定忠治 山形屋』
~仲入り~
太福/みね子『天保水滸伝「蛇園村斬り込み」』
26日:第五夜千穐楽。き太さんはまだ持ちネタ一席で、6月の
浪曲協会理事会テストに合格すれば晴れて8月に定席デ
ビューとなる。濃密な五日間、大団円。
き太/みね子『阿漕ヶ浦』
太福/みね子『天保水滸伝「平手の駆け付け」』
~仲入り~
太福/みね子『天保水滸伝「繁蔵の最期」』
27日:①「吼えろ太福!浪曲太陽傳」@海雲寺
浪曲師や木馬亭のドキュメンタリー映画監督、伊勢 哲
さんご経営の映像制作会社「浪曲秀真(ホツマ)」主催の
新しい浪曲会の杮落し公演が二日間に亘って行われた。
”太陽傳”の由来は海雲寺が映画『幕末太陽傳』(1957)の
ロケ地だったからとのこと。
初めて知ったが、ここ品川の海雲寺は千躰荒神王を祀る
火・竈・台所の神として信奉され、江戸時代の火消組の
奉納札が多数残り、遊郭にも信奉者が多数いて源氏名の
奉納札も多数見られる。また、演芸話芸の聖地とも言え
る場所で、二代目廣澤虎造が奉納した扁額がある。
わ太/みね子『不破数右衛門の芝居見物』
綾那/博喜『ゆうれい奇談』
太福/みね子『清水次郎長伝「秋葉の火祭り」』
~仲入り~
太福/みね子『清水次郎長伝「石松三十石船道中」』
富士綾那さんを久し振りに拝聴できて嬉しかった。
『ゆうれい奇談』は曲師の博喜さん作とのこと、多才だ。
太福師匠は次郎長伝の発端と定番。
浪曲がお好きなカーネーションの大田さんが客席に!
②「白鳥の巣第33回」@スタジオフォー
三遊亭白鳥師匠は還暦になられたとのこと。
おめでとうございます。
ポスト・メルヘンな『シンデレラ伝説』、『船徳お初
徳兵衛』はサゲが爽快。
28日:「吼えろ太福!浪曲太陽傳」@海雲寺
二日目。
き太/みね子『阿漕ヶ浦』
綾/ノリ子『十辺舎一九とその娘』
太福/みね子『清水次郎長外伝「清水の三下奴」』
~仲入り~
太福/みね子『清水次郎長外伝「善助の首取り」』
来年2月に年明けの三門 綾さんの『十辺舎一九とその
娘』は軽快でとても楽しい。
玉川太福師匠は次郎長外伝のネタおろし!二席。特に
後席のみね子師匠との攻防(?)が素晴らしかった。諧謔
味が強く、太福師匠に嵌っている印象。
目に鮮やかな青色の座布団の、橙色の糸の縫い取り文
字「出入中」が気になっていたが、何と1970(昭和45)
年に閉場した人形町末廣(亭)で実際に使用していた座
布団と知り吃驚した。「出入中」は”今席を外していま
す”の意だという。納得。
30日:「太福たっぷり独演会」@なかの芸能小劇場
今回から玉川太福師匠が中野在住時代を語るトークコーナー
が設けられた。超絶面白く涙出るほど笑った。師匠お着換え
中のわ太き太兄弟弟子トークも実に面白かった。
き太/みね子『阿漕ヶ浦』
わ太/みね子『梅花の誉れ』
太福/鈴『清水次郎長外伝「善助の首取り」』
~仲入り~
太福/みね子『紺屋高尾』
一門会の様相だったが、『紺屋高尾』は三年振りの誰かを
慮ってかけられたのだろうか。出色の出来で涙腺が緩んだ。
《6月》
3日:「第64回玉川太福”月例”木馬亭独演会」@浅草木馬亭
『任侠流れの豚次伝』5ヶ月連続公演の第二回。
今席は第三話と四話。曲師が玉川みね子師匠と伊丹 明師匠
なのが新鮮だった。一門会の様相が定着した感あり。
7日:太福師匠の二番弟子き太さんが浪曲協会理事によるテストに
合格し、木馬亭定席デビューが決まった。
10日:玉川太福師匠に密着したTV番組BS朝日「自分流」放映。
自家のTVでは衛星放送が観られないと思い込んで(手続きすれ
ば観られる)、人生初のネカフェに行きリアルタイムで視聴。
録画は演芸関連の知人にお願いした。
17日:「吹きガラス」展@サントリー美術館
古代ローマの出土品から現代アート作品まで、吹きガラスに
特化した逸品の数々。レースガラスが極めて美しかった。
18日:「東家孝太郎独演会」@お江戸上野広小路亭
曲師は伊丹 明師匠。明師匠の三味線の音は勘が冴えていて滋
味深くてとても好きだ。
綾/明『吹雪に咲く花』
孝太郎/明『人情江戸っ子祭り』
~仲入り~
孝太郎/明『赤城しぐれ』
『人情江戸っ子祭り』は実際にあった永代橋崩落を題材とし
た話。人の情と数奇な縁が切なく響く。
『赤城しぐれ』は浪花家辰造先生の十八番で、国定忠治が花
会を開くのが発端の侠客もの。侠客ものがお好きだという、
孝太郎さんの真骨頂たる二席。
22日:「神田松鯉 玉川太福 二人会 其の二」@深川江戸資料館小劇場
こちらはミュージック・テイトが主催の尊い二人会。神田伯山
先生の一番弟子梅之丞さんを初めて拝聴した。
今席の白眉は松鯉先生の『無筆の出世』。「仇を恩で返す」人
の崇高に過ぎる心情を納得に導くのは松鯉先生の語りだからこ
そ。客席の張り詰めた水面のような静寂が、語りの引力の強さ
を如実に表していた。素晴らしい。
24日:第五回浪曲映画祭@渋谷ユーロライブ
Bプログラムは「天保水滸伝を味わう」と題した映画と浪曲公
演の日。天保水滸伝三昧だ。
①映画『月の出の決闘』(1947)監督・脚本:丸根賛太郎
”阪妻駆け付け”、満月を背にした殺陣シーンが美し過ぎて、眩
暈がした。
浪曲『紋三郎の秀』東家孝太郎/沢村まみ
東家楽浦の台本による天保水滸伝外伝。侠客ものの真髄。
②映画『血斗水滸伝 怒濤の対決』(1959)監督:佐々木康
東映オールスター総出演。笹川の花会、平手の駆け付けなど、
浪曲講談でお馴染みの場面が視覚的に観られることに感動した。
浪曲『天保水滸伝「笹川の花会」』玉川太福/玉川みね子
玉川のお家芸にして太福師匠の古典ネタベスト3に入ると目さ
れる「花会」。節(ふし)に手の振りが付いていたのが新鮮で、浪
曲らしさに満ちていてとても決まっていた。
➂映画『天保水滸伝(大原幽学)』(1976)監督:山本薩夫
主人公は天保の時代に利根川流域で初めて農民組織を結成した、
大原幽学(『月の出の決闘』にも登場)。そこに天保水滸伝がから
み、飯岡笹川が登場する。大原幽学を演じるのは平幹二朗。他、
平手造酒→高橋悦夫、飯岡助五郎→ハナ肇、たか→浅丘ルリ子(綺
麗すぎて浮いてる)、ノブ→大竹しのぶ、が印象深いキャストだっ
た。
25日:立川談春師匠がNHK大河ドラマ『どうする家康』に、佐久間信盛
役で出演中。
26日:「鍛耳會35」@ばばん場
き太/みね子『不破数右衛門の芝居見物』
太福/みね子『清水次郎長伝「追分宿の仇討ち」』
~仲入り~
太福/みね子『男はつらいよ第25作「寅次郎ハイビスカスの花」』
き太さんはネタおろし。4年振りに「追分宿の仇討ち」を聴けた喜
び。「ハイビスカスの花」はリリーの自立心が切ないすれ違いを
呼ぶ。カン違いの節が切なさを増幅する。すべてを一人で演じる
のはやはり驚異的だ。
《7月》
1日:「第65回玉川太福”月例”木馬亭独演会」@浅草木馬亭
『任侠流れの豚次伝』通し口演第三回。
き太/みね子『不破数右衛門の芝居見物』
わ太/鈴『寛永三馬術「梅花の誉れ」』
太福/鈴『任侠流れの豚次伝第五話「天王寺代官斬り」』
~仲入り~
太福/みね子『任侠流れの豚次伝第六話「男旅牛太郎」』
5日:①「浪曲定席木馬亭(5日目)」@浅草木馬亭
玉川太福師匠が通常バージョンの主任。広沢菊春先生を
久し振りに拝聴できた(破綻もなく)。演目は『神田松五郎』。
太福師匠のトリネタは名作『男はつらいよ第17作「寅次郎
夕焼け小焼け」』。
②川上アチカ監督、港家小そめさん主役の映画『絶唱浪曲
ストーリー』をユーロスペースで初めて観た。川上監督と
九龍ジョー氏のトークタイムがあり、興味深く拝聴した。
木馬亭定席に行った後だったので、臨場感が凄かった。
9日:「席亭和希 十を偲ぶ追悼寄席」@なかの芸能小劇場
2022年11月に亡くなられたオフィス10の席亭和希 十さんを
偲ぶ会。
演者さんが和希さんとの思い出を語る際、ほとんどの方が
挨拶ぐらいの思い出しかないと仰る。それを知り、演者さ
んと馴れ合うことなく距離を置いていた和希さんの席亭と
しての矜持を思い、尊敬の念を抱いた。
11日:ミラン・クンデラ逝去。享年94歳
15日:①「席亭和希 十を偲ぶ追悼寄席」@なかの芸能小劇場
9日に続き伺った。席亭の遺志を継いだ娘さんのお話を聴き、
10年前に亡くなった父のことを想った。
太福師匠は席亭に激しく怒られたエピソードを話し、「席亭
が映画『男はつらいよ』がとても好きで、一番好きなのは第
11作「寅次郎忘れな草」だと知りまして、と言いつつ何故か
第20作「寅次郎頑張れ!」をかけるという…
②「玉川太福『男はつらいよ』全作浪曲化に挑戦!」
@日本橋社会教育会館8階ホール
夜はその『男はつらいよ』浪曲化ネタおろし。
マドンナは伊藤蘭、旅先は江差と奥尻。江差は母方の親戚
が住む場所なので懐かしかった。
16日:①「第十三回泉岳寺浪曲会」@泉岳寺講堂
わ太/みね子『不破数右衛門の芝居見物』
実子/けい子『花の落武者 那須の与一』
~仲入り~
太福/みね子『誉の三百石』(講談の『荒川十太夫』)
眩暈がするほどの酷暑下、義士伝ものには最上の舞台。
掛け声多く、非常ベルまで(笑)。
②七月中席夜の部@浅草演芸ホール
素晴らし過ぎる番組。わ太さんが前座さんの一人だった。
『狼退治』梅之丞
『柳沢昇進録「お歌合せ」』鯉花
「漫才」新宿カウボーイ
『ちりとてちん』昇々
『石松三十石船』太福/みね子
「漫談」ねづっち
『宗論』夢丸
『堪忍袋』遊雀
「音曲」小すみ
『三方一両損』伯山
~仲入り~
『太閤記「間違いの婚礼」』阿久鯉
「漫謡」東京ボーイズ
『初天神』伸治
『たがや』笑遊
「太神楽」正二郎
『雁風呂由来』松鯉
➂ジェーン・バーキン逝去。享年76歳。
④ひとつ歳取る。
17日:寄席の開口一番として史上初めて浪曲師が高座に上がった。
玉川わ太さん@浅草演芸ホール。曲師は玉川みね子師匠、
演目は『阿漕ヶ浦』。立ち会える可能性があったが、叶わな
かった。無念。
21日:五街道雲助師匠が人間国宝として認定された。
22日:「柳家喬太郎みたか勉強会(夜の部)」
@三鷹市芸術文化センター星のホール
柳家喬太郎師匠の初のお弟子さん、おい太さんの高座を初め
て拝聴。昼の部が初高座だったらしい。
喬太郎師匠のトリネタ『わからない』が凄かった。当時ご存
命だった三遊亭円丈師匠主催の新作創作落語の会「実験落語
neo~シブヤ炎上まつり2018」でネタおろししたもので、この
会には玉川太福/みね子師匠も出演し、同じく円丈師匠作『宇
宙瞑想曲』を演じた。
23日:①『絶唱浪曲ストーリー』@ユーロスペース
裏を返す。今度はポイントを決めて観た。
②「小せん・太福二人会」@ばばん場
き太/みね子『阿漕ヶ浦』
小せん/みね子『清水次郎長外伝「追分三五郎」』
太福/みね子『阿武松』
~仲入り~
小じか『黄金の大黒』
太福『地べたの二人「おかずの初日」』
小せん『盃の殿様』
柳家小せん師匠が唸り、玉川太福師匠が『地べたの二人』を
落語化。懇親会には不参加。
25日:①新宿末廣亭に59年振りに広沢菊春の名跡が復活した。
②「SWAクリエイティブツアー2023」@新宿シアタートップス
共通テーマは「目玉焼き」。
『祭りのあと』昇太
『サニーサイド』喬太郎
『あの日へ帰りたい』彦いち
『神岩の呪い』白鳥 焙烙→ティファールに爆笑。
26日:①「玉川太福浪曲会その1」@横浜にぎわい座のげシャーレ
玉川福太郎師匠の十八番『青龍刀権次』に太福師匠が挑む会。
久し振りににぎわい座に行けたことからして嬉しい。
館長の布目英一氏が監修されている「にぎわい座芸人伝シリー
ズ第七弾 玉川福太郎」は初めて知るエピソード、写真満載で
至極興味深い。是非書籍化して頂きたい。
②シネイド・オコナー逝去。享年56歳。
29日:「田辺凌鶴独演会 これも凌鶴あれも凌鶴(第28回)」
@道楽亭
一記『鯉の御意見』
凌鶴『仙石騒動「神谷転 召し捕り」』
凌鶴『名刀捨丸』
~仲入り~
凌鶴『フォークボールの神様 杉下茂』
たっぷり四席。
30日:「七月下席 夜の部」@新宿末廣亭
神田伯山先生主任興行。わ太さんの末廣亭初舞台に立ち会えた
喜び。感動。末廣亭は元々浪曲席だったので負け惜しみでなく
嬉しい。マジ泣きしてしまった。浪曲師の出番を増やすきっか
けを作ってくれた伯山先生に感謝しなければいけない。初めて
本寸法の『中村仲蔵』を拝聴できたことも嬉しかった。
《8月》
1日:youtubeの神田伯山先生のチャンネル「伯山ティービィー」で
「新宿末廣亭7月下席密着#10」に玉川太福師匠、みね子師匠、
わ太さんが揃って出ているので何度も視聴してしまう。
4日:①「浪曲定席8月」@浅草木馬亭
玉川太福師匠の二番弟子き太さんがめでたく定席デビュー。曲
師はみね子師匠、演目は『阿漕ヶ浦』。しかしモタレの出番で
ある師匠は不在。一番弟子のデビューの時との差を長男次男の
待遇の差にたとえて嘆くき太さん、大いにウケていた。
トリは澤 順子先生で、前から面白い演題だと思って聴けずにい
た『素麺を煮る内蔵助』を拝聴できた。
②「蜃気楼龍玉 いぶし銀の会 その36」@らくごカフェ
『厩火事』『千両みかん』~仲入り~『牡丹燈籠「栗橋宿」』
この会に関していつも思うが、出囃子を他の噺家さんのでは
なく、龍玉師匠の出囃子にしてほしい。『千両みかん』の磔
のリアリティ、「栗橋宿」はただただ耽溺。
5日:「第66回玉川太福”月例”木馬亭独演会」@浅草木馬亭
『任侠流れの豚次伝』五ヶ月連続読み第四回。弟子の一人は
粗筋を述べよ、という師匠の無茶振り。わ太さんが『日吉丸』
をネタおろしするということで、き太さんが担当することに
なったが、気の毒なくらいボロボロで、次回リベンジを誓っ
ていた。
「悲恋かみなり山」は太福師匠がとりわけ好きな話とのこと。
柳家三三師匠の高座で拝聴したこともあるが、物語のアクロ
バティック度が凄くてSF人情噺とでも言いたくなる。「チャ
ボ子絶唱」は客参加型で終わるのがすこぶる愉しい。
8日:①「三遊亭兼好 玉川太福 ふたり会」@日本橋公会堂
『十徳』まんと
『だくだく』兼好
『茶碗屋敷』太福/みね子
~仲入り~
『男はつらいよ第1作「恋する寅さん」』太福/みね子
『あくび指南』兼好
楽しいことが確約された二人会。
②講談協会がクラウドファンディングを始めた
9日:「立川らく兵真打トライアル 前編」@北沢タウンホール
前座さんの頃から秘かに応援していたらく兵さんの真打
トライアルがいよいよ始まった。
『子別れ』~仲入り~『紺屋高尾』、立川志らく師匠の講評。
「お前には分かると思うからこういう言い方をする。他の
弟子には言わない」という言葉に師弟愛の深さを感じた。
15日:①「八月中席昼の部」@新宿末廣亭(途中入場)
春風亭昇太師匠主任興行。清水エスパルス寄贈の幟が鮮や
かにはためいていた。
昇々→ねづっち→太福/鈴→遊雀→小すみ→昇太。仲入り後
だけでも素晴らしい流れ。昇太師トリネタは『人生が二度
あれば』。
②「浪曲火曜亭」@日本浪曲協会広間
港家柳一/佐藤一貴『深川情話』
玉川太福/玉川鈴『男はつらいよ第11作「寅次郎忘れな草」』
久し振りの火曜亭。浪曲版『小猿七之助』を生で拝聴できた
喜び。トークの進行役はき太さん。やや覚束なかった。
16日:「葉月の独り看板 蜃気楼龍玉 怪談乳房榎 通し口演」
@国立演芸場
本田久作氏脚色による新解釈の「乳房榎」、四席通し。
人間の醜悪な欲望に審美的欲求が仇討するかのよう。四席
を一日で通しの驚異。耽溺。
19日:「新宿田辺凌鶴の会」@永谷フリースタジオFu+
ゲストは神田伊織さん。
『三方ヶ原軍記』凌々
『下郎の忠節』凌鶴
~仲入り~
『杉原千畝』伊織
『八丈島物語』凌鶴
外は灼熱の酷暑、静かな涼しい空間でじっくり講談を聴けた。
杉原千畝は言わずと知れた傑物で宝井琴星先生作。
気のせいであってほしいが東大仏文卒の伊織さんにいつも汚
いものを見るような目で見られている気がする。
23日:ミュージック・テイトが破産宣告を受けたというニュース。
クラウドファンディングの行方は?ぶらーり寄席の歴史が断
たれた。
25日:「甲斐荘楠音の全貌」@東京ステーションギャラリー
大正~昭和初期に活躍した画家の大々的な展覧会。時代考証
を担当した映画の衣装展示も圧巻。当該時代に咲いたモダニ
ズムの徒花か。楠音自身が女形に扮した写真、絵のモデルの
写真から、女性性(feminité)について改めて考えさせられた。
兄の楠香がモダニズムを象徴する”物”の一つである化粧品を
製造する高砂香料工業の創始者であることも興味深い。
八曲一隻の大作にして未完の『畜生塚』は眩暈を覚えるほど
凄まじい作品だが、『籐椅子に凭れる女』のような小品も良い。
26日:「第537回花形演芸会」@国立演芸場
かゑるさんは秋に真打に昇進、二代目柳家平和を襲名される
とのこと。鯉八師匠の『いちについて』は初聴き。隣席のご
夫妻が「たまには浪花節もいいね」「昔はよくラジオで聴い
てたね」と話していたのが印象的だった。
30日:①「森茉莉コレクション展」@文京区立森鴎外記念館
森鴎外記念館に行くのは初めてだった。やはり鴎外込みの展
示でボリュームが少なかった。
②「太福たっぷり独演会」@なかの芸能小劇場
テーマトークが滅法面白い。この会も木馬亭独演会同様
一門会の様相。「寅次郎忘れな草」は、映画『男はつら
いよ』でこの回が一番好きだったというオフィス10の亡
き席亭に捧げられた。精魂込めた唸りは天に届いたはず。
《9月》
1日:「九月上席夜の部」@鈴本演芸場
宝井琴調先生主任興行、仲入り後。
米粒写経「漫才」
貞橘『本能寺』
歌奴『片棒』
楽一「紙切り:琴調さん、米粒写経、君の名は」
琴調『度々平住み込み』
米粒写経お久しぶりで嬉しい。超絶ウケていた。琴調先生
トリネタは講談浪曲でお馴染みの「梅花の誉れ」(出世の春
駒)に比べ、あまり拝聴する機会がないので嬉しかった。
2日:①「浪曲定席木馬亭(2日目)」@浅草木馬亭
勝千代先生は鉄板の「善達箱根山」。講談は阿久鯉先生で
何と『畔倉重四郎「金兵衛殺し」』。そしてトリの雲月師匠
は大鉄板の『中山安兵衛婿入り』。曲師は澤村博喜さんが急
遽代演で出演とのことだがとてもぶっつけ本番とは思えない。
最後のバラシは起きて見る夢の如し。本当に木戸銭2400円は
安過ぎる。
②「第67回玉川太福"月例”木馬亭独演会」@浅草木馬亭
五ヶ月連続『任侠流れの豚次伝』連続公演千穐楽。
今席のわ太さんの曲師は佐藤一貴さん。良いコンビだった。
き太さんの粗筋語りは成果あり…?
大団円。独自のクスグリ、本家次郎長伝の入れ事によるせめ
ぎ合いと、みね子師匠の真剣な面持ちとのギャップの面白さ。
さらに節は究極のカタルシスをもたらす。素晴らしい。
3日:「牡丹燈籠~俺たちの圓朝を聴け!~」@有楽町朝日ホール
「ご挨拶」 談春・三三
『宮戸川』 三三
『お露と新三郎~三崎村まで~』 談春
~仲入り~
『三崎村からお札はがし~お米談判まで~』 三三
「ご挨拶」 談春・三三
東京でも始まった立川談春柳家三三両師匠による『牡丹燈籠』
リレー読みの会。至福の3時間強。
(何故かこの日だけ写真撮影タイムなし。意地悪だ…)
5日:①「『畔倉重四郎』俥読み」(二日目)@イイノホール
「金兵衛殺し」阿久鯉
「栗橋の焼き場殺し」伯山
~仲入り~
「大黒屋婿入り」阿久鯉
「三五郎の再会」伯山
神田阿久鯉、伯山先生姉弟による『畔倉重四郎』俥読みの会。
”殺し”が顕著な会に急遽一日だけ伺った。阿久鯉先生「金兵
衛殺し」は先日木馬亭定席で拝聴したときの方が高座が近い
分迫力が違った。伯山先生「栗橋の~」は殺しの場面に爽快
感さえ覚えた。フィクション万歳。講談の場合、設定のリア
リティが濃いのが味噌だ。
②霞が関官庁街内の法曹会館B1にある「マロニエ」という名
のレストランに初めて入った。ザ・昭和な感じでとても良い。
カレーライスが売り切れだったのでハヤシライスを食べたが、
サラダとコーヒー付で千円は素晴らしい。ハヤシライスは角
切り肉で美味だった。是非カレーライスを食べてみたい。
7日:「立川らく兵真打トライアル 後編」@北沢タウンホール
「ご挨拶」 らく兵
『らくだ』 らく兵
~仲入り~
『文七元結』 らく兵
「講評」 志らく
立川らく兵さん真打トライアル成功!実に目出度い。
本当に良かった(涙)。
志らく師匠の講評は明解明晰で客の立場としても納得がいく
内容だった。長講二席は純粋に引き込まれて楽しめた。
9日:①「ペニーレイン寄席」@原宿PENNY LANE
玉川太福/玉川鈴
『祐子のセーター』
『浪花節爺さん』(作:稲田和浩)
~仲入り~
『茶碗屋敷』
浪花節爺さんが本気で唸るメタ(浪曲内)浪曲は「笹川の花会」
だったが、今席も素晴らしかった。
②「虫めづる日本の人々」展@サントリー美術館
日本美術における「虫」に焦点を当て、主に江戸時代の絵画、
器物、着物などが展示されていた。入館前に少し逡巡してい
たら、思いがけず極めて親切な女性が「招待券が1枚余って
いるので良かったらどうぞ」とお声掛け下さった。滅多にな
い好事なので入る以外ない。薩摩切子と室町時代の掛け軸が
印象深かった。
➂「玉川太福 宝井梅湯 二人会」@らくごカフェ
梅湯『小松菜の由来』
太福/鈴『天保水滸伝「笹川の花会」』
~仲入り~
太福/鈴『(角栄演説~)祐子のセーター』
梅湯/鈴『本能寺の変』
玉川太福師匠の数多ある二人会のなかで、神田松鯉先生との
二人会と並んで一番好きな会。
昼席ではメタ浪曲だった「笹川の花会」本編、耳目釘付けで
聴き入るのみ。鈴さんの三味線付き梅湯さんの軍談『本能寺
の変』は途中唸りも入って情緒が加味され至極楽しかった。
三味線付きの軍談は「糸入り講談」ということを知ったが、
そう言えば桃中軒雲右衛門は美当一調の糸入り講談を取り入
れて自分の節を確立したのだった。つまり糸入り講談は浪曲
の源流の一つだということだ。梅湯さんの試みはとても面白
く興味深いものだった。
12日:「春風亭昇太独演会 滑稽魂」@本多劇場
『粗忽長屋』生志
『鮑のし』昇太
『幽霊の辻』(作:小佐田定雄)
~仲入り~
『宿屋の仇討』昇太
されど本多劇場の日々その①はお久し振りの昇太師匠「滑稽
魂」。レギュラーゲストの立川生志師匠、いつもの生着替え、
ネタおろしは小佐田定雄先生作『幽霊の辻』。大鉄板『宿屋
の仇討ち』、至福の帰ってきた”いつもの”。
14日:「玉川太福 新作浪曲独演会」@本多劇場
されど本多劇場の日々その②は演劇の聖地で玉川太福師匠初
独演会。ゲストは姉弟子奈々福師匠。昇太師匠がずっと舞台袖
で見守っていらしたとのこと。感動感涙。
17日:①「雲助浅草ボロ市」@浅草見番
開演時間を1時間勘違いしたうえ、浅草駅周辺がサンバカーニ
バルの影響で激込みのため進めず、仲入り少し前に着く失態。
しかし五街道雲助師匠の『九州吹き戻し』を拝聴できたのは望
外の喜びだった(後で5chのクソスレで悪口を書かれたことを知
る。ロクでもない腐れた輩だ)。
②「SWAクリエイティブツアー2023」@本多劇場
されど本多劇場の日々その➂はSWA。当初は最前列の席だった
が畏れ多いのでSNSで席を交換して頂ける人を募集し、見つかっ
て交換して頂けて有難かった。
白鳥『恋するヘビ女』
昇太『夫婦に乾杯』
彦いち『臼親父』
喬太郎『明日に架ける橋』
2007年の公演でのブレンドストーリーの再演。かなり進化して
いるらしい。
18日:「これどの龍玉第18回 蜃気楼龍玉独演会」
@COREDO室町3 橋楽亭
『親子酒』
~仲入り~
『四谷怪談』
会場を暗くしての「お岩誕生」の段。筆舌に尽くし難く、大命
題を突き付けられたかの如し。ご本人は打ち上げのために落語
をやっていると仰るが、某圓朝を聴け!な会と張り合えるので
はないかとすら思う。
20日:「THE SPEECH」劇団ポラリス@ザ・スズナリ
玉川太福師匠が田中角栄役で主演のオペラ劇千穐楽。4度目だ
が、観るごとに変化し、今回はその頂点とも言える素晴らしい
舞台だった。浪曲が演説に行かされ、人の心を動かすのは浪曲
が人を選ばず万人に届くという証左だ。
歌唱と浪曲、楽器ではピアノ、チェロ、ドラム、三味線の異質
なもの同志が互いに歩み寄り、感動的なポリフォニーとアンサ
ンブルを奏でていた。舞台映えの権化のような太福師匠は今回
も至極格好良かった。そしてしつこいようだが、最後に柝(き)
が入れば…と思うのだった。
22日:高田文夫先生の義理の妹さんが森茉莉のお孫さんに嫁いだと
いうことを知る(ラジオビバリー昼ズ)。
24日:「鍛耳會36」@ばばん場
わ太/みね子『阿漕ヶ浦』
太福/みね子『忠治山形屋』
~仲入り~
わ太&き太の㊙楽屋噺(楽しい!)
太福/みね子『中村仲蔵』
レアな古典オンリーの回。
「仲蔵」はいつ拝聴しても素晴らしい。
27日:「玉川太福『男はつらいよ』全作浪曲化に挑戦!」
@日本橋社会教育8階ホール
映画を事前に観て、マドンナの松坂慶子の美しさに目を奪われっ
ぱなしだったので、どう浪曲化されるのか期待大で臨んだ。
寅さんがラストで夫婦になった二人(マドンナと斎藤陽介)に会い
に遠い対馬まで行くのが 切ない。雷鳴轟く豪雨の場面も胸を締
め付けられる。浪曲を聴くとまた映画を観たくなるのは必定。
30日:①「白鳥の巣第37回」@スタジオフォー
三遊亭白鳥
「トーク」(ユーミンライブ初、SWA裏話)
『アジアそば』
~仲入り~
『任侠流れの豚次伝外伝「金瞳のマリー第3話 鬼首村子守唄」』
『任侠流れの豚次伝』の登場人(動)物で好きなキャラクター、
猫のマリーが主人公の外伝第3話は客席がどよめく意外な人(動)
物登場で今後の展開が待ち遠しい。
②玉川太福師匠が「雑学大好きDJ小黒茂」として出演していた
ラジオ番組「土曜日のエウレカ」(TOKYO FM、MC川島明氏)が
最終回。太福師匠がMCをつとめていた深夜ラジオ「ON THE
PLANET」とスタッフがかぶっていたこともあり、寂しさが深い。
これで太福師匠の声を毎週ラジオで聴けなくなってしまった。
《10月》
3日:①「浪曲定席木馬亭」@浅草木馬亭
1日に101歳になられた現役曲師玉川祐子師匠をお祝いする会。
トリに向けて寿ぐ浪曲師曲師の皆様すべて素晴らしく、いよい
よ最後、幕が開くと浪曲の演台が下手にずらされ、祐子師匠が
舞台の中心に!初めて見る設えに拍手喝采。
②「毎週通うは浪曲火曜亭!」@日本浪曲協会広間
三門綾さんのトークの内容は都市伝説、光、闇…茫然。『十辺
舎一九とその娘』は何度か拝聴しているが、諧謔味が濃く綾さ
んに嵌っている。
太福師匠の拝聴したかった『松坂城の月』を聴けて、トークも
充実していた。
そしてしつこいようだが、東京かわら版の「寄席演芸家名鑑」
にも玉川一門の紋は「剣片喰文」となっているが、この紋は剣
がないので「片喰文」だ。調べたら色々あってこれにしている、
とやや要領を得ない太福師匠のお答えだったが、どう見ても片
喰文でしかない。
4日:「第68回玉川太福”月例”木馬亭独演会」@浅草木馬亭
雨模様の夜、6周年記念の会は一門会の様相。
一周年のわ太さん、『日吉丸』の外題付けは今まで聴いたなかで
一番高いキイ(?)で驚いたが、師匠によれば調子を「本」と数える
単位で上げたとのこと。福太郎師匠よりも高いそうだ。
一年前がもはや懐かしい。終演後はハイタッチとサイン会。
さらなる変化、その方向は何処に向かうのか。
7日:立川談春師匠が突然X(旧Twitter)を始めたことで全世界が驚く。
Instagramも。
12日:「第4回神田松鯉を聴く会」@浅草見番
『畔倉重四郎「隠亡焼場殺し」』
~仲入り~
芸談随談
神田松鯉先生の極め付き講談と硬軟取り混ぜた芸談随談を拝聴で
きる貴重な会に今回もお声掛け頂き、伺った。
「隠亡焼場殺し」はお弟子さんが「栗橋の焼場殺し」としている
段。「隠亡」(御坊)とは、「火葬場で死者の遺体を荼毘に付し、
墓地を守ることを生業とする。元は下級僧侶の役目で”御坊”が転
じたとされる」。初めて知った。
激しさではなく厳かさで表現される残酷。芸談随談を含め拝聴でき
大変有難かった。『荒川十太夫』に続き『俵星玄蕃』の歌舞伎化に
協力されたとのこと、まさに講談伝播の立役者だ。
20日:「第56回豪華浪曲大会 夜の部」@日本橋公会堂
華々しく楽しい大会でバラエティに富む演目。まったく飽きなかっ
た。玉川太福師匠の要請により、客全員で「待ってました!」と
掛け声をかけた(「おかず交換」)。国本武春師匠の掛け声教室の踏
襲だろうか。
前座お披露目コーナーが初々しくてとても楽しかった。
トリの玉川奈々福師匠の『シン・忠臣蔵』の原作は柳家喬太郎師匠
の『カマ手本忠臣蔵』とのことだが、「おカマ」は既に古語の部類
に属し、設定そのものに時代が付いてしまっていると思わせられた。
義士伝の主人公が”ホモ”という設定の何が可笑しいのか理解できな
い。パロディではなく、シリアスな愛情劇なら受け入れられそうだ
が。
27日:「十月下席 夜の部」@鈴本演芸場
勝丸「太神楽曲芸」
百栄『寿司屋水滸伝』
楽一「紙切り:横綱、十三夜、舞妓さん」
白酒『明烏』
仲入り後入場。ガチャで演目を決める白酒師匠主任興行は大入り。
白酒師匠の高座は年単位で久し振りで楽しかった。白酒師匠の『明烏』
はやはりベースが古今亭なのだろうか。立川談春師匠は志ん朝を参照
していると言っていた記憶があり、基調が似ているような気がする。
『井戸の茶碗』も然り。
28日:「第27回西荻寄席 玉川太福浪曲会」@井荻会館
き太/みね子『寛永三馬術 梅花の誉れ』
わ太/みね子『日吉丸』
太福/鈴『浪曲偉人伝』
三可子/鈴『沼津の秋太郎』
~仲入り~
太福/みね子『男はつらいよ第20作「寅次郎頑張れ!」』
玉川太福師匠の後援会主催の会。こちらも一門会の様相を呈してきた。
き太さんはネタおろし、わ太さんは外題付けから難しそうだが聴く度
に良くなっている。マクラで印象的だったことは、わ太さんき太さん
共にひもじくなるとみね子師匠に稽古をお願いするそうで、するとみ
ね子師匠は夕飯用意しておくね、と仰って下さるとのこと。泣ける話
であると同時に羨ましいとも思った(わ太さんは既婚者じゃなかっただ
ろうか。単身東京に出て来たということ?)。
ゲストは東家三可子さん。外見も声も透き通るように美しいが、唸る
内容は「ドスより重い物を持ったことがない」だったりするので、
ギャップがとても魅力的だ。太福師匠の面白さと格好良さの両刀持ち
は今席も冴えていた。
29日:「第38回白鳥の巣」@スタジオフォー
三遊亭白鳥
オープニングトーク
『前島密伝』
~仲入り~
『金瞳のマリー第4話「奥羽山脈木枯らし道中」』
いつもながらの永遠に聴きたいトークから、まさかの人物伝。ご出身
の新潟高田の名士前島密伝!落語も時には為になる。
豚次伝外伝「金瞳のマリー」第4話はジェンダーSFなあの変身キャ
ラ登場で客席大喝采。時を忘れて怒濤の展開にのめり込んでいると、
ごく深い落とし穴のようなくだらないギャグ(褒め言葉)に落とされて
爆笑。人物伝豚次伝の振り幅の広さに「未来の圓朝」の称号は伊達じゃ
ない、と感心させられた。
31日:「十月余一会 太福・菊春・はる乃三人会~寄席の浪曲~」
@池袋演芸場
夜の部のみ伺った。寄席の余一会で浪曲は初?御三方それぞれの個性
が際立つ素晴らしい会だった。わ太さんは何と落語のネタおろし(何で
?)『子ほめ』は春風亭昇也師匠に教わったそうだ。
鼎談からマクラまで、広沢菊春先生の魅力的なフラが全開だったが、
トリの公演中に突然体調不良となり、高座を途中で降りる事態に(昼
は大丈夫だったらしい。正直菊春先生の万全な口演を拝聴したことが
ない。悪しき偶然だろうか)。しかし代わりに国本はる乃さんが私服で
急遽素晴らし過ぎる『散財競争』をかけてくれた。
《11月》
1日:「こはる改メ立川小春志真打昇進披露興行」@有楽町朝日ホール
千穐楽のみ伺うことができた。この日のゲストは春風亭昇太師匠。
『オヤジの王国』は初聴き、郷愁を伴う面白さ。口上ではなくゲ
ストに質問とトーク、という趣向が面白く、談春昇太両師匠の昔
話が至極興味深かった。
談春師匠の『桑名船』を拝聴できたのも嬉しかった。小春志師匠
の『宿屋の仇討ち』は渾身な様子がストレートに伝わってきた。
2日:立川志らく師匠『師匠』発刊。
※12月24日付の記事あり(『師匠』立川志らく(集英社2023))
https://vidroid-y.hatenablog.com/entry/2023/12/24/091414
3日:「浪曲定席木馬亭」@浅草木馬亭
寝坊してわ太さんの途中から。極上のエンターテインメントに耽溺
した4時間。常に思うが木戸銭2400円は良心的に過ぎる。
東家三可子さんの『馬子唄しぐれ』で妹が追分節を唄う場面で涙を
拭っている人が何人もいた(私も)。トリの天中軒雲月師匠で「夢に
なる」、至福の時間だった。
4日:「第69回玉川太福”月例”木馬亭独演会」@浅草木馬亭
6周年、7年目に突入の独演会は感慨より爆笑が勝った会だった。
一龍齋貞鏡先生の真打披露パーティーで披露した『一龍齋貞鏡半
世紀』を聴けて嬉しかった。当日の状況も加味され重層的に面白い。
昨日定席で拝聴した太福師匠の姉弟子福助先生の曲師はみね子師匠
の二番弟子の人で、さらに三番弟子の存在も明かされた。元々太福
師匠のファンだったそうだ(中略)。
ソーゾーシー発ネタの『うーる』は笑うなと言う方が無理。みね子
師匠の真剣な表情が相乗効果となり、息苦しくなる程笑った。
12日:「『牡丹燈籠』ー俺たちの圓朝を聴け!ー」@有楽町朝日ホール
東京での千穐楽に急遽参加。粋を極めた『牡丹燈籠』と、それぞ
れの段を反転させたかのような『紙入れ』と『粗忽の釘』。三三師匠
の「お峰殺し」の途中で、客の集中力が強すぎたのか「いや、そんな
に真剣に聴かなくても…」と仰り客席全体がふっ、と息を抜かれた。
以前『乳房榎』の公演でも同じ状況になったことを思い出した。
談春師匠「関口屋のゆすり」もかなり引き込まれた。談春師匠の言葉
で最も印象的だったのは「芝居になってはいけない。それなら落語で
ある必要はない」。穿った見識だ。
初めて写真を撮れた(喜)
14日:「文春落語オンライン 紀尾井町演芸館Vol.10
柳家喬太郎×玉川太福」@文芸春秋西館地下ホール
待望のゲスト故に初めて現地参加。同じ思いの人で大入り満席。
高座からトークまで、タイトルをもじれば「✕(かける)」効果抜群の
得難い会だった。初聴きの可憐な噺『九年母』、全身全霊が込められ
た「寅次郎頑張れ!」SWAネタ『明日に架ける橋』。創作ユニットの
先達と後進のコラボが現実味を帯びて語られた。演目表の寄席文字が
喬太郎師匠筆だと初めて知った。「浪曲にはカタルシスがありますよ
ね」と仰る喬太郎師匠が一番好きな浪曲師はどなたか知りたかった。
19日:一仕事終えた解放感で日帰り奈良の旅。
浪曲会開演まで時間があったので、奈良国立博物館内にある無料観覧日
の「なら仏像館」に入り、膨大な仏像群を鑑賞。奈良は中学校の修学旅
行以来。興福寺の五重塔は修復工事準備中で、仏頭も八部衆像(阿修羅像)
もお元気そうだった。
「第三回玉川太福浪曲会in奈良~奈良古々粋亭で太福笑い」
@落語喫茶古々粋亭
玉川太福/玉川みね子
『地べたの二人「おかず交換」』
『ベランダの母』
~仲入り~
『祐子のセーター』
『松坂城の月』
主催者はファンにはお馴染みのサトリデザイン様。
会場は雰囲気が良く、壁には演者さんのサイン色紙がびっしり。何故か
トイレが現代アート仕様でペーパーホルダーが10ある不思議。みね子師
匠に「あら、遠い所から有難うございます」と言って頂き畏まる。
ソーゾーシーと又吉直樹氏の短歌のコラボで生まれた『ベランダの母』
を初めて聴けて嬉しかった。最後は好きな古典ネタの一つ『松坂城の
月』で締められ、充実感で満たされた。
そして念願の「太福切手」をゲットした。ここまでの遠征は初めてだっ
たが伺った甲斐があった。久し振りにのぞみに乗り、初めて近鉄線に乗
れたのも嬉しかった。
21日:「立川談志追善 特別公演 談志まつり2023(昼の部)」
@よみうりホール
立川談志家元十三回忌当日に、この場にいられる幸福。トリは談春師匠。
13年の間に起こった変化を噛みしめた。
22日:「太福たっぷり独演会」@なかの芸能小劇場
き太さんは21日付けで芸協の正前座になったとのこと。
テーマトークでは村松利史氏の存在の大きさを再認識した。
『梅ヶ谷江戸日記』はいつ拝聴しても梅ヶ谷関の厚い思いが唸りと
呼応し、カタルシスを十二分に味わえる。
お使いの手拭いは一龍齋貞鏡先生のものと見た。
25日:「立川談春独演会」@三鷹市公会堂光のホール
充実の2時間50分。「どがちゃかどがちゃか」でお馴染みの『味噌蔵』
を最近よくかけておられるが、理由はケチ→持ち帰りの重箱→談志タッ
パーの連想からだろうか?(違
過激な内容に反し、マクラには不思議な安心感があった。6月に逝去
された映画監督の中島貞夫氏が義理の叔父であるということを知った。
『九州吹き戻し』も『御神酒徳利』も通好みの噺だと思うが、私には
難しい。サゲは圓生ではなく三代目三木助だろうか。
26日:①「浪曲広小路亭 玉川わ太 はじめての勉強会」
@お江戸上野広小路亭
わ太/鈴『日吉丸』
太福/鈴『豆腐屋ジョニー』
~仲入り~
わ太『子ほめ』
わ太/鈴『寛永三馬術「梅花の誉れ」』
木戸番が師匠でたじろぐ。
全編座り高座で落語も一席。しかし直球エイジズムは頂けないし、
少しも笑えない。まさに「生兵法は大怪我の基」。太福師匠の「暖か
いネタ」(いまいち意味不明)は『豆腐屋ジョニー』。
意外だったのは「梅花の誉れ」に福太郎師匠のクスグリが入っていた
こと。バイデンじゃないのですね。人情は、学べるものではないのだ
とつくづく思う。
②「雑司ヶ谷拝鈍亭 浪曲の夕べ」@雑司ヶ谷本浄寺
玉川太福/鈴
『地べたの二人「湯船の二人」』
『大石東下りより「武林の粗忽」』
~仲入り~
『男はつらいよ第27作「浪花の寅次郎」』
極めて音響にすぐれている会場はクラッシック音楽愛好家のお寺さん
(拝鈍=ハイドン)。太福師匠は三度目のご出演(皆勤です)、義士伝と寅
さんは席亭様のリクエストとのこと。
27日:「蜃気楼龍玉 いぶし銀の会」@らくごカフェ
『狸札』(狸の恩返し)
『もぐら泥』
~仲入り~
『大坂屋花鳥』
龍玉師匠の『狸札』は初聴き。手拭いを札に見立てるなどの可愛らしい
仕草が意外にはまっていた。
大師匠十代目馬生の十八番だった『大坂屋花鳥』はいつ拝聴しても現実
と虚構の狭間に落ちた気になる。架空の刀や道中刺しを持てば全身がそ
れらと化し、存在そのものが鋭利になる。素晴らしい。
28日:「Morrissey」@チームスマイル豊洲PIT
モリッシー、7年振りの来日。初めての会場入場はぎゅうぎゅう詰めの
家畜のごとし。恒例のMVタイムが40分もあったが(S・オコーナーとD・
ボウイに泣いた)、熱狂のライヴだった。衰えをまったく感じさせない声
と体躯、自らを省みず踊り歌った。最初から最後までスマホを掲げて録画
してる輩よ呪われろ。
バックにはオスカー・ワイルド、ラストはジャン・コクトー『詩人の血』!
The Smiths時代の曲は
『Stop Me If You Think You've Heard This One Before』
『How Soon Is Now?』
『Half A Person』
『Please, Please, Please Let Me What I Want』
『Girlfiend In A Coma』
『Sweet And Tender Hooligan』
だった。
《12月》
1日:映画の日、北野武監督構想30年という『首』を鑑賞。本能寺の変が
主題で副題は武士同士の恋情か。西島秀俊は最近は『きのう何食べ
た?』のシロさんのイメージが強いので、背徳感が倍増だった。
加瀬亮の信長は強烈苛烈。様々な日本映画へのトリビュート場面が
あり、特に大島渚監督へのそれを強く感じた。それにしても諧謔す
れすれのホモセクシュアル設定があまりにも濃過ぎた。
2日:①「浪曲定席木馬亭」@浅草木馬亭
義士伝特集の日。不調だった木馬亭のエアコンが新調されて快適に
なった。今席は鳳舞衣子先生が素晴らしく光っていた。
東家三可子さんがマクラで勝田新左衛門はリアルではイケメン独身
貴族(古語)だと仰っていたが、フィクションでは妻子がいる設定に
なるのはやはりその方がウケが良いからだろうか。
玉川太福師匠はお約束の『サカナ手本忠臣蔵』、トリは天中軒雲月
師匠、曲師は伊丹秀敏師匠の熟練コンビで鉄板中の鉄板『中山安兵
衛婿入り』。雲月バラシに陶然、まさに義士伝特集に相応しい幕切
れだった。
②「第70回玉川太福”月例”木馬亭独演会」@浅草木馬亭
新作テーブル掛けのお披露目あり。贈り主は栃木のお寺様、デザインは
ご存知サトリデザイン様。お目出度い鶴と亀に家紋(片喰文です)が強調
された仕様で裏地は無し、とのこと。
地べたの二人「道案内」はとても久し振りで、最近ファンになった人は
初めて聴くのではないだろうか。
き太さんとみね子師匠の三番弟子の人との間に生まれた物語にはまった
く興味がないので薄い反応しかできずすみません。『陸奥間違い』は先
代広沢菊春先生、福太郎師匠も勿論良いが、カン違いの節が入り、みね
子師匠の三味線が寄添う太福師匠の口演が一番好きだ。
4日:「浪曲定席木馬亭」@浅草木馬亭
玉川太福師匠、通常の主任公演。一番弟子わ太さんはネタおろし『長短
槍合戦』。玉川祐子、沢村豊子両師匠が寄添う義士伝もの二題は、あま
り聴く機会がない演目で、聴き応えがあった。
多彩な浪曲で情景が展開し切った後の寅さんは太福師匠を象徴する演目で、
ペーソス含みの笑いで幕。松村達雄(おいちゃん)もけっこう似てます。
16日:「玉川太福サカナ手本忠臣蔵 全段通し 前編」@紀尾井小ホール
各話磨きがかっていたが、やはり「オオイカ東下り」が最高に盛り上がった。
仲入り時に国本武春師匠の「サカナ尽くし」がかかって嬉しかった。
き太さんの開演前のアナウンスは三鷹のMさんばりだった笑。
忠臣蔵がサカナで、浪曲である必然性ぞここにあり。終始真剣な表情のみね
子師匠も「オオイカ東下り」では笑っておられた。サカナ屋!の掛け声指南
も楽しかった。
19日:「12月中席夜の部」@新宿末廣亭
リセールでチケットを入手できたので急遽参加した。
き太さんの『阿漕ヶ浦』を寄席で聴けて嬉しい。玉川太福師匠のお召し物
を見て「寅さん」かと思いきや、『ベランダの母』で意外だった。客筋を
見てネタを変更したのだろうか。色物の先生方(ぴろき、宮田陽・昇、ボン
ボンブラザース、ねづっちー敬称略)も流れの輝石で、大ウケの初・できた
くん先生の発砲スチロール芸は実にモダンな寄席芸で、客側にもやや緊張
感があるのが面白かった。作品のクオリティが高いので将来紙切りに並ぶ
寄席芸になりそうだ。主任の神田伯山先生はど下ネタ混じりのマクラの後、
『鍔屋宗伴』。義士外伝のなかでも特に好きな話で、やはり師匠松鯉先生
の高座が極上だ。
23日:①「玉川太福サカナ手本忠臣蔵 全段通し 後編」@紀尾井小ホール
当初と異なり四席目と五席目が入れ替わったが確かにその方が”オチ”つく。
国本武春師匠をリスペクトしつつ小ネタ満載。大団円は客席もエイエイ魚
(うぉ)ー!で討入りに参加して楽しい。芝居同様視覚的要素が重要で、魚
の姿を分かっていた方が楽しめる。魚介類のミニ知識が得られるので、ア
ニメ化すればウケそうな気がする。”タラバガニ玄蕃”、楽しみだ。
②紀尾井町の由来が紀伊徳川家、尾張徳川家、井伊家の頭文字を取った
ものと初めて知った。
24日:①好きな現役女優さんの一人木南晴夏さんが初めて主役を演じたドラ
マ、『セクシー田中さん』が最終回。何となく引っかかるものを感じ
たが、後日あのような痛ましい事態になるとは…
②国本武春師匠、29歳の若さで夭折したフジファブリックの志村正彦
さんのご命日。
25日:「暮の鈴本 琴調五夜」@鈴本演芸場
幕見券にて仲入り後途中入場。
扇辰『紫檀楼古木』
正楽「紙切り:相合傘、七福神、門松」
琴調『雪の夜ばなし』
琴調先生恒例鈴本主任興行、千穐楽。
入船亭扇辰師匠の好きなネタを聴けて、林家正楽師匠の至芸と”揺れ”
に酔い(リクエスト叶わず)、今日この日に聴く琴調先生の『雪の夜噺』
は格別だった。
27日:アキ・カウリスマキ監督の5年振りの映画『枯葉』を観た。新宿シネマ
カリテは初めてだ。満席だった。日常は尊い。しかし退屈だ。平穏に忍
び寄るのは愛か執着か。主人公の女性がある女性講談師に少し似ている
ような気がした。
30日:「第一回ミテ!演芸会 夜の部」@文化放送メディアプラスホール
今年の演芸納めは老舗落語会の名をもじったこちらへ。場所は今は
なき「浜松町かもめ亭」の会場だったことを思い出した。演目表の
字は寄席文字が特技だという金原亭駒平さんだろうか。『金明竹』
の言い立てが早くて正確で自然に拍手が起こっていた。
来年真打昇進の絶好調な三遊亭わん丈さんの『お見立て』はすこぶ
る楽しかった。今年は年間1500高座をつとめたとのこと、マジです
か?玉川太福師匠の『陸奥間違い』を暮に拝聴できて嬉しい。今席
はみね子師匠の笑顔がたくさん見られた。良い演芸納めだ。
2023年はとにかく人生に多大なる影響を与えたミュージシャンや作家が複数
亡くなり、思い出しても茫然となる。坂本龍一教授の逝去はいまだに現実的
ではなく、認めることができない。教授の座右の銘とも言うべき言葉、
Ars longa, vita brevis 芸術は長く、人生は短し
はそろそろ自分自身にも当てはめて考えなければならない。
残された時間は多くない。
『師匠』 立川志らく(集英社 2023)
立川志らく師が「小説すばる」で師匠立川談志との逸話をもとにした
エッセイを連載していることは寡聞にして知らなかった。
本書が出ることを知り、志らく師がテレビの朝のバラエティー番組に
MCとして出演すると知った時と同じくらい少し驚いた。
そして『雨ン中の、らくだ』(太田出版 2009)を想起せざるを得なかった。
本書は帯の言葉を引用すれば、
”志らくによる談志 落語をめぐる、壮絶なる師弟の物語”
であり、『師匠』の前駆的著作と言えるだろう。ただし、「まえがき」
にもあるように、第24回講談社エッセイ賞を受賞し、豪華キャストで
ドラマ化された兄弟子談春師の著作『赤めだか』(扶桑社 2008)を多分
に意識し、二匹目のドジョウを狙った感が濃厚な、下心が仄見える。
そのため『師匠』よりも本音が荒削りに生々しく出ており、志らく師
が好きな談志の持ちネタの章立てになっていて読み易く、今読んでも
十分に面白い。
では、師匠談志の逝去後メディアに大々的に露出し、「朝の顔」にま
でなった志らく師が、改めて披歴した師匠に対する意識は、どう発展
変化しているだろうか。
『雨ン中の、らくだ』は「『談志と志らくと、時々、高田文夫』が隠
れタイトル」とされ、実質ふたりの師匠を軸として書かれていた。
『師匠』では、やや粗い目の織物をほどき、談志家元、高田文夫先生
(一介の客が先生と呼ぶことをお許し願いたい)、談春師の糸が太く目立
つ色になりつつ繊細に織りなしている印象である。
師匠と弟子、その恋愛でも宗教でもない、甘辛い蜜の関係性の面白さ
は、芸に秀でた人間同士の情にまみれた駆け引きの面白さに等しい。
1993年の深夜にフジテレビで放映されていた「落語のピン」(検索して
エンディングが国本武春師匠の『ええじゃないか』だったことを知る。
まったく記憶にない)を観て、子供ながらに談志家元のファンになり、
ようやく自分で稼いだお金で落語会に行けるようになった時には談志
家元は病に侵されていた。まず談春師の独演会に行き、志らく師の独
演会にも行くようになった。
2011年の東日本大震災発生直後の独演会にも命がけ(当時はそんな気構
えだったが大袈裟かもしれない。寄席は翌日から興行していたわけだし)
で行き、談志家元を継ぐかたちの年末のよみうりホールでの独演会も7
回までは皆勤だった。
しかしいつしか志らく師の独演会には足を運ばず、談春師の独演会に集
中するようになった。
本音を言えば志らく師の演劇熱にはまったく興味をもてず、落語にも身
内(家庭)の影が濃く見えるようになったからだ。
それ故第三章で、演劇に夢中になり落語が疎かになっていたと自覚し、
高田先生(酩酊されていたのは照れ隠しだろうか?)に諭されたと書かれ
ていたのが意外であり、自分の感覚が間違っていなかったことが分かっ
て不思議な安堵感を覚えた。
高田先生の小言は朝まで続いた。
ようやく解放されたとき、私は人気のない銀座の町にたたずみ、
泣いた(p177)
このくだりを読み、涙を禁じ得るはずもなかった。
志らく師の独演会に足を運ばなくなってから暫く後の5年前、久し振り
に三鷹の独演会に行き、初めて志らく師の『黄金餅』を拝聴した。
かけること自体が珍しいのではないだろうか。凄まじい、心が打ち震え
る高座だった。特に願人坊主の西念があんころ餅に銭をねじ込んで呑み
くだす場面は、鬼気迫る凄さで客全体が呆気に取られ硬直する程だった。
その様子は内なる何かと闘っているようにも見えたが、内なる談志家元
と見るのは穿ち過ぎだろうか。
いずれにせよ、この時志らく師の軸足が演劇ではなく落語に置かれてい
たことは確かだ。
志らく師と談春師の関係は複雑怪奇だ。アイドル並みだったという立川
ボーイズの延長としての連帯関係もあるだろうが、志らく師が本書で何
度か談春師を「かわいらしい」と言っているのが印象的だ。
好敵手にして談志家元の血を分けた兄弟分としての余裕だろうか。
談春師が何年か前の独演会のマクラで「志らくがいなければ談春は存在
しない。談春がいなければ志らくは存在しない」と言っていたことを思
い出す(うろ覚えだが主旨は違っていないはず)。
師匠談志家元は、お二人をどう見ていたか。
この二人、最低線(いまのまま)でも充分喰える。けど、
家元という原点(もと)が居なくなったとき、それを自評
するセンスだけが心配であるが、これとて仕方あンめぇ、
人生成り行きでござんす…。
高校生の談春、大学生の志らくも、大人の歳ンなった。
月並みだが人生は速い。「充分に生きろ」である。
(『芸談 談志百選』中央公論社 2023 p306)
限りなく親切な師匠、談志家元を裏付ける文章が『談春 古往今来』
(新潮社 2014)にある。
師匠はよく言っていました。
「偉くなると大変なのは、良いも悪いも善悪も全部、
自分で判断しなければならないことだよ。
その自分の判断の良否も、また自分で考えなきゃ
いけない」
(p134)
談志家元が師匠小さんは心のなかにいる、と言っていたように、
お二人の心のなかに今も師匠談志はいるのだろうか。
談志家元が現実に存在するかしないかの差があるが、『師匠』の
最後は『雨ン中の、らくだ』と同じような場面で終わる。これは、
意図的にしたことのように思える。
本書は落語家に限らず師匠と弟子の秘密の情(錠)を解く鍵であり、
滅法面白い鎮魂の書である。
玉川太福五夜連続独演会2023
2023年5月22日(月)~26日(金)
@新宿道楽亭
道楽亭での五夜連続独演会は今回で四度目とのこと。
今回も五月の第四週、玉川福太郎師匠のご命日が含
まれる日程である。
今年は十七回忌にあたり、例年全日曲師はみね子師匠
だったがご命日当日をはさむ三日間は山形に帰省され
るためお休みだった。
の二人』二席プラス日替わりテーマの二席、昨年の三
回目は『任侠流れの豚次伝』連続口演で、私は二回目
から参加したが、五日間連日ではなかった。
今回初めて五日間通して参加できたわけだが、振り返
れば二回目の「地べたの二人」シリーズは短尺とは言
え一日四席を五日間連続でこなしていたのだから、
太福師もみね子師匠も相当タフである。
一年後の今回は太福師に二人、みね子師匠に一人お弟
子さんがいて一門会の様相を呈していた。前三日間の
前読みは一番弟子のわ太さんで曲師は鈴さん、後二日
間の前読みは二番弟子のき太さんで曲師はみね子師匠
という布陣そのものが感慨深く期待が高まった。
「浪曲は一人一節」といわれる。ややコンパクトなこ
の会場では、網目の差が顕著に身体に直接伝わってく
る。節は空間と時間を支配するが、その支配の有り様
は実に様々だ。例えば天中軒雲月師匠は小波大波を自
在に操るがごとく、大利根勝子師匠は雷鳴か巨星降る
がごとく。
太福師の『天保水滸伝』を筆頭とする古典の節は、聴
いていると固まった時間がゆるりと解けて滔々と流れ
ていくような感覚を覚え、いつの間にかその流れに吞
まれていることに気づく。近年はさらに耳や腹をビリ
ビリ震わせる迫力がある声に加え、滋味深い声、揺ら
ぎの声等のヴァリエーションが増えて、聴いていてと
ても心地よい。
今年は五日間その感覚をじっくりと味わうことができ
るうえ、”侠客づくし”で啖呵も堪能できるという大盤
振る舞いだ。
しかし大入りの予想に反してこの贅沢な空間は何故な
のか?
昨年の豚次伝では実現場はまだしも配信の方は五日間
のトータル200人越えと伺ったが此は如何に…
他の主催者による『青龍刀権次』連続読みは満席だっ
たと聞いたので、太福師の古典に人気がないわけでは
ない。すぐ近くの寄席で夜トリを取っていたのがお仲
間の某師だったとか、複合的な理由があったのかもし
れない。
『天保水滸伝』は玉川派のお家芸とされている。
浪曲界には他派の持ちネタ(特に連続もの)を演じては
ならないという不文律があるようだが、浪曲という話芸
を後世に繋いでいくためにはもっとオープンにして誰で
も着れる着物にした方が良いのではないだろうかと客の
分際ながら思ってしまう。お家芸としての格はそのまま
で、手綱をゆるめて広範囲動けるようにすれば浪曲界そ
のものが活況を呈して後継者の問題もなくなるのではな
いだろうか。
伝統芸能であるからには、派としての格が大事であるこ
とは確かだしそれが魅力のひとつだと思う人もいるだろ
う。素人の勝手な思い込みだが特に木村派の後継者が現
れることを願ってやまない。言っても詮無いことだが、
もし自分が今20代、せめて30代だったら木村勝千代さん
に弟子入りしたかった(受け入れて頂けるかどうか分から
ないが)。
いずれにせよ、現時点で侠客ものの真髄としての『天保
水滸伝』を聴けるのは太福師の口演以外にはないと思う。
しかも至近距離で真正面から浴びることができるのは、
滅多にない好機である。
5月22日(第一夜)
わ太/鈴『阿漕ヶ浦』
太福/鈴『清水次郎長伝「石松代参」』
~仲入り~
太福/鈴『天保水滸伝「繁蔵売り出す」』
「侠客づくし」と銘打つ今年は古典のみ十席。
第一夜、わ太さんは玉川一門に入門したら最初に習う演目
『阿漕ヶ浦』。正直何度も聴いているので覚えてしまい、
唸れるのではないかと思うほどだが、わ太さんはだいぶ馴
染んで独自のクスグリなども入れ、深みが出て来た。
ただ、声量が過多で節も啖呵も同じ声量のため、会場が声
で満杯になり破裂しそうな感じになってしまい、やや辛かっ
た。
後で師匠からの指導があったが、この経験により会場の面積
によって声量を加減することを実地で学んだことになる。
師弟のやり取りを垣間見て、その場で演者さんの成長を見守
れるのも客としては得難い経験だ。
「石松代参」は玉川版の道中付けがあるもので、節付けが楽
しいこちらの方が断然好きだ。
「繁蔵売り出す」は芝清之の脚色。太福師が古典を演じる際、
必ず時代背景や内容に関する面白いエピソードをピンポイン
トで説明して頂けるので物語世界に入り易い利点がある。
それは同時に太福師の浪曲師としての個性でもある(或いは使
命?)。
福太郎師匠の外題付けを思い出して涙腺が緩んだが、無論
太福師の節は太福師独自の節だ。最後の「実るほど 首を
垂れる 稲穂かな」でまざまざと稲穂の姿が脳裡に浮かんだ。
節は耳から映像と感情を生み場を潤す。
〽人というもの ままならず
5月23日(第二夜)
わ太/鈴『不破数右衛門の芝居見物』
太福/鈴『梅ヶ谷江戸日記』
~仲入り~
太福/鈴『天保水滸伝「鹿島の棒祭り」』
太福師の師匠、みね子師匠の伴侶玉川福太郎師匠のご命日。
昨年は前日が日曜日だったので墓参に行けたが、今年は前
々日で体調が思わしくなかったため行けなかった。
この日に玉川のお家芸『天保水滸伝』を生声で聴ける喜び。
わ太さんは太福師が何故か『阿漕ヶ浦』より先に一番最初
に習った「不破数右衛門」。師匠の教えに従い今日の声量
は良い意味でセーブされ、前職でのプレゼン力が生きたで
あろうクスグリもバッチリ決まっていた。
『梅ヶ谷江戸日記』は福太郎師匠の得意ネタだった。何度
でも言うが、福太郎師匠に間に合わなかったことは一生悔
やんでも悔やみきれない。
梅ヶ谷関の「お大名でもおこもさんでも、梅ヶ谷を贔屓に
しようという心にかわりはない」という言葉は、美しい心
の在り様を率直に表しているが、結局おこもさんは火消し
の頭新門辰五郎で、千両箱を馬に載せてやってくる。
梅ヶ谷関が本心からそう言っているがゆえの摂理なのだ。
多分。
仲入りの時間は鈴さんとわ太さんによる浪曲会の宣伝コー
ナーとなり、日増しに上達して勢いを増していくのが可笑
しくも感心させられた。
「鹿島の棒祭り」。往時は子供も口ずさめたという外題付
けは、過去の音源も含め数えきれないほど聴いているが、
何度聴いても飽きないし詞の美しさと節の流麗さに心を奪
われ、利根の川に出でて幕末に颯爽と運ばれる心地がする。
その後の平手造酒を中心とする活劇の楽しさ。『天保水滸
伝』は講談より断然浪曲の方が好きだ。節はそれだけでカ
タルシスを約束する。
突然の”犬婆”と白いむく犬登場の不思議な可笑しさ。
それにしても「曲斬り」とはどういう斬り方なのだろう?
5月24日(第三夜)
わ太/鈴『寛永三馬術 愛宕山 梅花の誉れ』
太福/鈴『明石の夜嵐』
~仲入り~
太福/鈴『天保水滸伝「笹川の花会」』
「梅花の誉れ」は福太郎師匠の場合、間垣平九郎の前の挑
戦者が石段から転落する場面でとても可笑しいクスグリが
入るが、わ太さんは虎造版「石松代参」のごとくあっさり
終わる。太福師も福太郎師匠はこうやっていた、と説明す
るのみだ。福太郎師匠そっくりそのままではない独自のク
スグリがあったら面白そうだと思うのは素人の浅はかな考
えだろうか。
曲師が鈴さんだと馬術らしくより軽快に聴こえる。
『明石の夜嵐』は立川談志家元が贔屓にしていた浪曲師の
一人、寄席読みの名人東武蔵の十八番ネタで、福太郎師匠
の持ちネタでもあった。
寄席読みの浪曲は通常よりテンポが速いと仰っていたが、
東武蔵の口演を聴くと確かにテンポが速いと言うかとても
リズミカルだ。メロディのない節語りキッカケがとても多
く、啖呵はスタッカートじみてタッタカしている。
【スタッカート】本来の音価(ある音<休止>に与えられた楽
譜上の長さ)よりも短く演奏すること。
ということは、無意識に尺を速めているのだろうか。
東武蔵が酒を注ぐときに舌を鳴らしててってってっ、と出す
擬音(ザ・ぼんちのおさむちゃんのアレ)がすこぶる愉しく軽
快だ。
キッカケと言えば、浪曲師港家小ゆきさんのyoutubeチャン
ネル「浪曲音楽部」(音楽界から浪曲界に入った浪曲師、
小ゆきさん、東家孝太郎さん、天中軒すみれさん、東家志乃
ぶさんがメンバー)の「節」に関する考察動画で、キッカケが
西洋音楽の歌唱法”レチタティーヴォrecitativo"(話すような独
唱)に似ていると指摘されており、確かにそうだ、と膝を打っ
た。
話自体は侠客ものの残酷さのなかに滑稽味が混在しており、
動きも多く太福師の持ちネタとして適確のように思える。
歌舞伎の『伊勢音頭恋の寝刃』の前段ということだが、副
題が「祟る妖刀」なので刀にまつわるエピソードゼロ、と
いったところだろうか。
芝居ネタとなると視覚的要素が重要になりそうだが、浪曲
には節という最強の情景描写がある。
講談の『古市十人斬り』にこの段があり、昨年宝井梅湯さ
んが連続読み公演をされていたが、残念ながら拝聴する機
会に恵まれなかった。この段だけでなく全編拝聴してみた
い。
鈴さんわ太さんによる仲入りの告知漫才(?)タイムも今日が
最終日でヒートアップし、まるで姉弟コンビのようだった。
そして太福師の湯呑みはご愛用のいつもの湯呑みではなく、
林家たけ平、三遊亭萬橘両師を主とする新生”にっぽり館”
の湯呑みだった。昼のオープン記念公演にゲスト出演した
流れのようだった(同じく宣伝告知の意図)。
「笹川の花会」は太福師の古典持ちネタ十八番と目される
一席であり、いつどこで聴いても不満に思ったことはない。
特に啖呵の凄味、迫力、緊張緩和の加減が絶妙だ。
侠客のスターが一堂に会する豪華で張り詰めた景色のなか
に流れる美しい義侠心。今席も素晴らしかった。
5月25日(第四夜)
き太/みね子『阿漕ヶ浦』
太福/みね子『国定忠治 山形屋』
~仲入り~
太福/みね子『天保水滸伝「蛇園村斬り込み」』
この日から曲師はみね子師匠、前読みは二番弟子のき太さん
になった。
そしてBS朝日の「自分流」というTV番組の密着取材が入ると
いう。極力映りそうもない場所に座ると決めていた。
き太さんは来月6月の試験に受かれば定席デビューが叶うとの
こと、客としては見守ることしかできない(後日、合格して8
月の定席デビューが決まった)。
『国定忠治 山形屋』。玉川版忠治はこの「山形屋」しか聴い
たことがないが、太福師によれば全十話あるという。自分が
生きているうちに拝聴できるだろうか。諧謔と侠気の格好良
さが交々あらわれる、これもまた太福師の芸風を象徴する古
典ネタで、今席も聴き応え十二分だった。
「蛇園村斬り込み」。TVカメラの影響もあったかもしれない
が、斬り込みの場面が超絶素晴らしかった。客の見えない熱
視線の束をはっしとつかみ、縦横無尽に振り回すがごとくの
熱演。客席全体が陶然として、私は胸の内でひゃーひゃーと
声なき声を叫んでいた。たまらなかった。
これぞ浪曲侠客ものの極点の一つだ。
5月26日(第五夜・千穐楽)
き太/みね子『阿漕ヶ浦』
太福/みね子『天保水滸伝「平手の駆け付け」』
~仲入り~
太福/みね子『天保水滸伝「繁蔵の最期」』
とうとう第五夜千穐楽。
き太さんは一歩一歩前進している。みね子師匠が導く音は
盤石だ。
「平手の駆け付け」は大師匠三代目勝太郎師匠の流れを汲
むものとのこと。正岡容の脚本で序盤~中盤は講談の「潮
来の遊び」に似ている。ということは落語の『明烏』にも
似ているわけだ。一天にわかに掻き曇る式に大利根河原の
決闘場面となり、息を呑む展開が続き平手死す。何度聴い
ても素晴らしい。
「繁蔵の最期」は初代東家浦太郎の流れを汲むもので、玉
川版の『天保水滸伝』にはなく、講談の『三浦屋孫次郎の
義侠』にあたる。出所は同じ講談本なのだろうか。
侠客の義侠心を謳いあげる節はやはり最強のカタルシスを
現出する。大団円。
実に濃密な至福の五夜だった。
道楽亭での五夜連続独演会は今回で最後とのこと。
甚だ残念だが、玉川の清き流れが脈々と続くことを願っ
てやまない。
玉川太福師の口演で初めて浪曲を生で聴き、話芸観が
一変したのが2017年、6年前のことだ。太福師のファン
になり浪曲そのものに魅せられて今に至るが、太福師が
常に”一推し”である理由を改めて考えてみると、着実に
芸を高めつつも常に黎明にいて動いているからだと思い
至った。
初めて聴いたのは自作新作(『銭湯激戦区』)と古典(『中
村仲蔵』)一席ずつで、当初は古典に傾いていたが徐々に
自作新作にも面白さを見出せるようになった。
太福師自身、一時期はソーゾーシーの活動がメインで元々
歴史に興味がなく古典はどうでもいい、という意識だった
ようだが、何がきっかけかは不明だが新作と古典の両輪を
回していく、という考えに変わったようだ。
それに呼応するように私自身も変化していった。客も成長
するのだ。しかし太福師が新作のみで古典を捨てるとなれ
ばファンでいられる自信はない。もちろん有り得ないこと
だが古典のみでも然りで、新作のみしか聴かないという人
もいるかもしれないが私は両輪あっての太福師に浪曲師の
raison d' être(存在理由<価値>)を見出している。創作物以
外の「実況浪曲」「ルポ浪曲」などの新機軸浪曲も画期的
だ。
浪曲に興味がなくなるということは生涯ないし、一人の演
者さんを推しているからといって他を否定することにはな
らない。取り込まれているのは浪曲そのものだからだ。
花は”人”を定めぬものなり。