Impression>Critique

感想ブログ~演芸(落語・浪曲・講談)etc.~

立川談春独演会2017@狛江

2017年3月3日
立川談春独演会 2017」
 @狛江エコルマホール




立川ちはる「小噺」

~仲入り~
    『居残り佐平次』下



1月の品川プリンスでの『居残り佐平次』11日間興行。
私は談春師の素敵にデモーニッシュな「いのさん」に、
良い意味で戦慄し、『文七元結』以来の衝撃を受けた。
それは存在(実存)を脅かす「虚」そのものへの畏怖と、
焦燥だった。



そもそも何故「居残り」なのだろうか?
品川では「夏の噺以外の品川宿に纏わる噺」という
理由が立ったが、地方でも「居残りツアー」は続い
ており、さらに、ウォーミングアップ的な短い前座
噺はやらず、上・下で二時間半の長尺になっている
という。


是非ともあの「いのさん」に再会したいと思い、やや
無理をして、都心や埼玉よりは行き易い狛江に馳せ参
じたのだが…


小田急線の狛江駅に降りたのは、初めてである。
雛祭りだが北風が強く吹き、凍えるような寒さ。
駅前は東京らしからぬローカル感。


品川プリンスはフラットな会場で、後ろの方の席だっ
たため、あまり高座が見えなかったが、今回は前から
3列目真中寄り。大変高座がよく見える席。


地方ではあまり出ない様子の新弟子ちはるさん。
いつまで同じ「小噺」やらせるつもりなのか。
本日のマクラから察するに、まさか手前の身の回りの
世話をさせるために、好みの若いお姉ちゃんを囲って
るんじゃあるまいな、などと邪推してしまう。


そもそもマクラはあまりなく、解説的な部分が多い。
そのため「いのさん」は毒気が抜かれてしまい、単に
弁が立つ狡猾な人物にしか見えない。
「初生落語」「初談春」の客には必要かもしれないが、
解説が冗長に感じてしまう。


期待、というものは、裏切られるためにある。
何年生きても裏切られても分からない、自分が歯痒い。
夫婦愛、家族愛を重んずる、ごく「普通」の感性の持
ち主である談春師に、絶対的孤独の深淵だの、「虚」
の甘美さなどを期待しても始まらない。すべて幻想に
過ぎない。


仲入り中、「どうしよう。つまらないぞ」と独り言ち、
「帰ったろか」と思ったが、逆転(何のだ!)があるかも
しれない、と思い留まった。


仲入り後、出囃子『鞍馬』。お着物は、春らしい綺麗な
お色(「薄鼠色」だろうか)。
座布団に座った途端、「帰ったかと思った。俺も帰ろう
かと思った」と確かに言った。よくお分かりで。


「この頃は季節を女性の服装で感じるようになりまして」
「今日渋谷を歩いていたら、女の子の服装でそう思った
んですけど、どうです?でも、この会場はねえ…(苦笑)」
(ムカッ)(心の中)
「また寒くなったら、黒い服装に戻っちゃうんですかね
え」って私はその日カーキ色のウールのセーターの上に、
黒いニットワンピース、という服装だった。
3月とは言え寒いんだから仕方がない。
その後も妙齢の女性が云々、というような話題。
他人の加齢を嗤うというのはまったく頂けない。


「下」には品川プリンスの高座の残り香があった。
志ん朝と談志の十八番であった「居残り」。
帰りは仰せの通りに志ん朝大須演芸場での
「居残り」を聴きながら帰った(因みに時間は45分)。


お世辞を言うような義理もないので、感想を率直に
書いてしまうが、それだけ高座を真剣に、対峙する
ような意識で拝聴している、ということ。
ただ批判したいがためにわざわざ聴きに行くほどの
金も時間もない。


2011年3月11日。談春師は成城ホールで「アナザーワー
ルド」シリーズの独演会を行なっている期間中だった。
(そう言えば狛江は成城ホールがある成城学園前駅の隣駅)
私は10日のチケットを買っていたので問題なかった(因みに
その日の演目は『按摩の炬燵』『木乃伊取り』)。


もし当日は無理としても、翌日のチケットを買っていて、
談春師が中止と言わず、電車が動いていれば、確実に
行ったと思う。一週間後くらいに行なわれた志らく
銀座ブロッサムでの独演会には行っている。実際、
余震や人身事故で電車が止まり、普段より帰宅する
時間が1時間程度長くかかった。
そういった類の酔狂でバカな落語好き、と断じてもらって
構わない。


これからも落語家・立川談春を緩く追いかけていく所存
です。



※3月20日追記

思うに、談春師の「居残り」解説が冗長というわけでは
なく、この独演会の様態に拠るのかもしれない。


解説が入って上・下に分かれるまでに長尺となったのは、
地方公演からということからすれば、品川プリンスの
「居残り」はどちらかと言うと常連客向けだったという
こと。
つまり、解説不要な客は品川プリンスで満足しとけ、って
こと。
それなのに、わざわざ(地方じゃなくて一応都内だけど、
初めて独演会をやるホール、という意味合い)再度聴きに行
くなんざ、愚の骨頂ってやつなわけで。


品川プリンスで感動して、お終いにしとけばよかったもの
を。
あー頭が悪いことしでかしてしまった、と自省中。

「居残り」に拘る不思議…