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感想ブログ~演芸(落語・浪曲・講談)etc.~

第三回 立川流三人の会

2023年3月29日(水)

明治座創業150周年記念 高田文夫プロデュース
 『第三回 立川流三人の会』」(夜の部)

 @明治座

 

出演者全員「オープニングトーク
立川談春『お花半七(宮戸川)』
立川志の輔みどりの窓口
立川志らく文七元結
出演者全員「エンディングトーク

 

当会開催が告知された時、矢も楯もたまらない気持ち
になり、かなり動揺した。
明治座の抽選には外れたが、ローソンのプレオーダー
で辛うじてチケットを買えた。
とにかく参加できただけで有難い、夢のような会だった。

プロデュースされた高田文夫先生の、演芸史においても貴
重なブログ「高田文夫のおもひでコロコロ」によれば、
第一回は2005年、第二回は2008年に開催され、紀伊國屋
ホールで行われた第一回では客席に談志家元がおられた
という。
第三回は15年振りの開催ということになる。

 

実に初めての明治座である。普段と違い着物率が低く、
カジュアルスタイルにスニーカー、リュックサック率の方が
高そうだ。「常に”大衆芸能”を意識していた」(高田先生のブ
ログより)談志家元なら是として頂けるのではないかと願望を
込めて思う。
立ち見も出る盛況ぶりに納得。

      

       

ステッカーを頂いた

 

高田先生、志らく師、談春師、志の輔師の順でご登場。
舞台上に桜の木が設置され、時折ひらりひらりと花弁が舞い
落ちる至極美しい演出。
現役のラジオパーソナリティーである高田先生のトークやギャ
グ、突っ込みは最新の時事ネタも取り込み常に神がかっている。

 

しかし御三方同士のトークはなかなか噛み合わず、通訳が必要
なのが可笑しい。
御三方の間柄を喩えれば志の輔師が中心、向かって右が談春師、
左が志らく師のやじろべえのようなもので、ともすれば中心が
沈み、両端が一挙にあるいは一方だけ跳ね上がりがちである。
今日は右が跳ね上がっていたように見えた。

 

昼の部ではじゃんけんで出番を決め、負けた談春師がトリで
文七元結』をかけられたとのこと、時間を考慮した縮小版
だったようだが、そこは談春師のことだからポイントを決め
凝縮した聴き応え十分なものだったに相違ない。是非拝聴し
たかった。

 

夜の部でもじゃんけんの結果今度は志らく師が負けてトリで
文七元結』をかけることになった。負けず嫌いの三つ巴が
たまらなくスリルで可笑しい。

 

談春師『お花半七』。あまり聞いたことがないご自分が前座
二つ目時代の談志家元他立川流噺家さんとのエピソード満
載のマクラが涙ものだった。マクラに時間を割き軽めに、と
宮戸川』の前半部分『お花半七』をかけられたが、お婆さ
んがキャラ立ちしていて、お婆さんをさんざん腐すお爺さん
が「昔はすごい美人だった」「俺だって歳とったんだから人
のこと言えねえやな」などとコンプラ的に殊勝なことを言う
のが可笑しかった。楽しいの一言。

 

志の輔師『みどりの窓口』。鉄板中の鉄板、ただ耳目を任せ
て聴くのみ。客席全体が同じ空気で大いに沸いていた。

 

志らく師『文七元結』。実に初聴きである。出囃子がいつもと
違い、おや、談志家元と同じ…?と以前から気にかかっていた
出囃子だった。
後で志らく師のお弟子さん立川らく兵さんの御教示により、こ
の出囃子は落語では真打がトリの時、歌舞伎では上使など位の
高い役が出る時の「三下り中の舞」であることが分かった。
「中の舞」は能が出所のようだ。おかげで宝井琴調先生が鈴本
演芸場でトリにあがる時の出囃子が何故この「三下り中の舞」
なのかも理解できた(感謝致します)。
志らく師の「文七」は真骨頂であるスピード感に裏打ちされた、
明るい江戸噺だった。

 

エンディングトーク談春師が志らく師の「文七」を評して
「(十代目)馬生だね」と仰ったのが印象的で切なくなった。
志らく師は当初談志家元ではなく馬生に弟子入りするつもり
だったのだ。志らく師の著書『雨ン中の、らくだ』にその時
の心境の変化が詳述されている。

馬生は好きだが落語家になるつもりはなく、最後の高座を聴
いて弟子入りを決心したにも関わらず10日後に馬生が亡くな
り、愕然としつつ学生服で告別式に参列した後池袋演芸場
行き、そこで馬生の思い出だけを語る談志家元を見て心酔し、
追いかけるようになった。
(以下余談。食道癌に侵された馬生の最後の高座はほとんど聴
き取れず、志らく師はその気迫だけの高座に感動して弟子入
りを決心したそうだが、私が最後に接した談志家元の生高座は
正に同様だった。思い出すごとに涙を禁じ得ない)

志らく師が落語家になった背景を知っている談春師の言葉ゆえ
の切なさ。
それを聞いて驚いたと仰る志らく師演じる「文七」は映画『男
はつらいよ』を念頭におき役をあてはめて演じておられるようだ。

 

名残惜しさを拭いきれずそぼ降る雨のなか帰路に着いたが、記念碑
的なこの三人会、次を待たずにいられない。
高田先生には是が非でも長生きして頂きたい。
とは言え自分が生きているという確証はない。