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感想ブログ~演芸(落語・浪曲・講談)etc.~

浪曲定席木馬亭令和4年4月

2022年4月2日(土)

 

浪曲定席木馬亭令和4年4月」(2日目)

 @浅草木馬亭

 

 

三門 綾・馬越ノリ子『楽屋草履』

国本はる乃・沢村美舟『牛若と弁慶』

東家孝太郎・玉川みね子
あたま山』(脚本:稲田和浩)

澤 順子・沢村美舟『一妙麿』

~仲入り~

玉川太福・玉川 鈴
『悲しみは埼玉に向けて』
(作:三遊亭円丈)

神田真紅『面の餅』

玉川福助・玉川みね子
天保水滸伝「鹿島の棒祭り」』

三門 柳・沢村美舟『石田三成

 

初めて聴く外題、読み物が多く盛り沢山な内容。

 

はる乃さんはいつ聴いてもすごい。心臓をつかまれて
身動きできなくなるような素晴らしい声節。
うら若い女性なので啖呵の勢いが落ちそうだが、バラ
ンスよく遜色がない。

 

孝太郎さんは季節柄の『あたま山』。落語で有名なネ
タで、内容にひと捻りあるので誰の脚本かと思ってい
たが、稲田先生作と知り納得。声節の強みが加わり、
とても楽しめた。定席でみね子師匠とのコンビで聴く
のは初めてかもしれない。


太福さんから偶然寄席のような流れになり、真紅先生
のお住まいが「悲しみは~」の舞台北千住だったり(致
命的だ…)、姉弟福助さんの「鹿島の棒祭り」には少
しだけ千住の小塚原が出てくるので(こじ付けか?)、わ、
面白い、と思った。

 

トリの柳先生の戦国物でビシリと決まって終演。

 

常に思うことだが内容に木戸銭が見合っていない。
しがない労働者には有難いことではあるが。

 

 

第五十回 玉川太福”月例”木馬亭独演会

2022年4月1日(金)

 

「第五十回 玉川太福”月例”木馬亭独演会」

 @浅草木馬亭

 

玉川太福「デロレンご挨拶」

東家三可子・玉川みね子
『江藤新吉と芸者お鯉』

玉川太福・玉川 鈴

『サカナ手本忠臣蔵「サンゴの廊下」』

三遊亭萬橘『マイク タイソン物語』

~仲入り~

太福・みね子

『祐天吉松 飛鳥山

 

 

 

記念すべき第五十回。ゲストは満を持して萬橘師匠。
まずはひとりフェスティバルで使用した法螺貝を有
効活用、なデロレンご挨拶。エイプリル・フール
かけたのだろうか(ホラ吹きだけに)。

 

最近色々な浪曲会で前読みをされている三可子さん。
透き通るような外見とお声にはそぐわないネタばか
り聴いている気がする。しかし啖呵はけっこう鋭い。
今席は琴路師匠リスペクトのネタ。
斬首後晒し首の写真を土産物として売られてしまっ
た幕末明治の政治家江藤新平が主人公の恋情もの。


『サカナ手本忠臣蔵 「サンゴの廊下」』。
演題から何故か”刃傷”がなくなった。
このネタに関しては前の記事でも書いたが、演者
及びネタが成長発展するのと同様、聴いている客
も回を重ねて聴けば当然成長発展する。
当初うまく受け入れられなかったとしても聴いて
いるうちにその”ノリ”がつかめて楽しめるように
なる。

聴く前から受け入れ態勢万全で問答無用の全肯定
は、グルメリポートに喩えれば口に入れる前から
美味しいと言っているに等しい。
当初戸惑い気味だったからと言って、「お前みた
いな野暮天には分からないだろうよ歌舞伎も知ら
ないんだろ?」と切り捨てられるのは大変残念だ。
それが同じ客である場合以ての外で、立場をはき
違えているとしか言いようがない。

これは「男はつらいよ」の浪曲化にも言えること
だ。当初はあまり馴染みがなくうまく乗れなかっ
たとしても、映画を観て面白さが分かり、浪曲
する偉業に気づかされる客も少なからずいるはず
で、自分もその一人だ。それ故楽しみにする気持
ちに偽りもおもねりも一切ない。
人は死ぬまで成長する、と水木しげる先生も仰っ
ておられる。

 

閑話休題

 

萬橘師。どこか挙動が怪し気。上手側固定で話し
ているように見えたのは気のせいか?
そしてまさかの落語ではないネオ落語?の『マイ
ク タイソン物語』。大入りの客全員の期待を豪快
にかっ飛ばす破壊神降臨だ。ある意味爽快。

呆気に取られて、仲入り中に買おうと思っていた
サトリデザインさん製太福グッズ限定5点セット
を買うのを忘れ、あっという間に完売(涙)。
萬橘師のせいにすることで(ひどい)自分をなだめ、
3点グッズを購入。

 

 

『祐天吉松 飛鳥山』。
花見の季節にふさわしいネタなので直近で何度か
聴いている。
福太郎師匠は別題『人情花吹雪』という一曲とし
て口演されていたようだ。その題で二代目虎造先
生の音源もある。
かわらけが「素焼きの陶器」なのは小菅一夫の脚
本がそうなっているからだ。
七松が「お願いだからチャンと言って」と泣く場
面で微笑ましい的笑いが起こっていたが、私は少
し涙腺が緩んだ。

 

そして太福さんは令和三年度花形演芸大賞・銀賞
を受賞された。
おめでとうございます。

 

講談貞橘会(第115回)

2022年3月26日(土)②

 

「講談貞橘会」(第115回)

 @らくごカフェ

 

田辺一記『小野次郎右衛門 神子上典膳』

一龍齋貞橘『太閤記「矢矧橋」』

神田織音源平盛衰記「青葉の笛」』

貞橘『赤穂義士本伝「赤穂城評定」』

~仲入り~

貞橘『幡随院長兵衛「芝居の喧嘩」』

 

 

都合がつく限り伺っている講談会。
講談初心者にも軟着陸しつつ、内容が濃い。
満席だった。

 

講談会に行く回数が少なく場所がやや限られてい
るので、前講が一記さんであることが極めて多い。
そのため成長目(耳)覚ましいことが講談にわか客に
も分かる。

太閤秀吉の手堅い話の後、助演の神田織音先生の
しなやかかつ凛々しい「青葉の笛」を初めて拝聴。
平敦盛の見方によっては耽美的な最期は、唱歌
謡曲はあるが、浪曲はないようだ。
朧気ながら想像するだけでも外題付けから美しそ
うで、ぜひ聴いてみたい。

仲入り後はお馴染み幡随院長兵衛の鯔背な「芝居
の喧嘩」。今まで何度か拝聴しているので、お好
きなのだろうかと想像する。

そして貞橘先生に弟子入り志願者が現れたとのこと。
目出度き春。

太福たっぷり独演会

2022年3月26日(土)①

 

「太福たっぷり独演会」

 なかの芸能小劇場

 

玉川太福・玉川みね子
『北の国へ’22』

玉川太福・玉川 鈴
『青龍刀権次第二話「召し捕り」』

~仲入り~

太福・みね子
『サカナ手本忠臣蔵「オオイカ東下り」』



 

朝10:00開演がやや試練だったこの会は、
あと3回で区切りとのこと。
そうと知ると寂しいような気がする。
土曜日のことが多く、前日の仕事の疲れ
から起きられず、チケットを無駄にして
しまったこと数回。勿体ないことをした。

 

『北の国へ'22』はソーゾーシーでネタ
おろしをしたエッセイ浪曲
現代浪曲においてこの”エッセイ浪曲”とい
うジャンルを確立したのは太福さんだと言
えるだろう。
リア充家族の微笑ましさ、水風呂ならぬ雪
原へのダイブ描写が生き生きと表現される。
「サウナの口(体)になってる」というフレー
ズに爆笑。

 

『青龍刀権次第二話「召し捕り」』は、CD
玉川太福の世界~古典編~」に収録されて
いる。ライブで拝聴したのは久し振りだ。
花見の季節が舞台なので、時節柄ということ
もあるのだろうか。
権次が吉原で花魁とやり取りする際の花魁の
台詞「ねえいもうと女郎がおちゃひいてるん
だけどぅ」などが、コケティッシュで良い。
いつも思うが、太福さんが演じる女性には男
性演者によくある違和感があまりない。理由
は分からない。
立川談春師もそうなのだがそれはまた別の話。


『サカナ手本忠臣蔵「オオイカ東下り」』。
このシリーズは一旦休止中だが、7月に再開
するとのこと。

出世魚のように進化し、水物だけに(?)良い
意味で掴みどころがないのが「サカナ手本忠
臣蔵」の魅力だが、SNSの感想ツイートを参
照すると、半信半疑で受け入れ難い、という
意見も少数だがみられる。
私自身は当初は探り探りだったが、客として
感想を述べることで参加し、話が進んで色々
な場面が積み重なるに従い、今ではもうサカ
ナ以外には考えられなくなった(魚ではなくイ
カとか貝だけど)。
昨今流行りの言葉で言えば、その積み重ねが
エビデンスになったということだ。

一方で、とにかく無条件に全肯定の態度はあ
る特定の客と演者の関係性を保つうえで必要
なことであろうけれども、演者と客が一体感
を得ることと、ただ馴れ合うことは意味も質
もまったく違う。

ひとえの迎合は、何であれ対象を温め過ぎて
駄目にしてしまわないだろうか?
…などと浪曲にわか客の分際で不遜なことを
言っているが、このサカナ手本~の会は、客
席でいつも同じ何某が同じ何物かをあたため
ているのでだいぶ海水が温くなってきた印象
があり、7月に再開する会も客席が同じ状況
なら疑念が強まる。

水風呂はキンキンに冷えているのが至上では?

浪曲という話芸そのものが好きなうえでファン
なのであり、腐すのが目的で会に通う程バカで
も物理的余裕もないし、断じて芸以外の何かの
方を重んじているわけでもない。

(あ。最近理不尽なことが重なって心が焦げ付い
ているので余計なことを書いているという自覚
があるけど客観的に見て間違ったことを述べて
いるとも思えない)


何はともあれ、マクラで話された浪曲協会理事
復帰の朗報は、本当に喜ばしいことと思いまし
た。ファンですみません。

終演後帰る際、赤いジャンパーを着た男性が楽
屋に入って行くのを見て、おっ弟子入り志願者
か?と思ったが、後で目下『明石の夜嵐』を習っ
ている立川志ら門さんだと分かった。

第四十九回玉川太福”月例”木馬亭独演会~十五年祭

2022年3月5日(土)

「第四十九回玉川太福”月例”
      木馬亭独演会~十五年祭」

 @浅草木馬亭

 

東家千春・玉川みね子『秀吉の母』

玉川太福・玉川 鈴『北の国へ’22』

太福・みね子『地べたの二人「十五年」』

~仲入り~

太福・みね子『紺屋高尾』

 

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そして15周年本祭。写真を見るだけで明らかに何かが違う>笑
木馬亭は幸福感、期待感が充満していた。


『北の国へ’22』はソーゾーシーでおろしたネタを発展させた
ものらしい。矢継ぎ早に繰り出される爆笑エピソードに客席が
破裂せんばかりにウケまくっていた。
雪上の「裸印」で、縄文時代の陥し穴に無数に付いた鹿等の獣
足の跡を想起した。落ちた動物が暴れるから無数の穴があくわ
けです>笑


『地べたの二人「十五年」』。この日のための特別バージョン。
太福さんの口演を初めて聴いたのが2017年の夏。約5年前。
それ以前の十年を思い、感慨深く聴いた。


最後の三席目は?
「滅多にやらない」と言い置き、「傾城の…」と語り始められ
たのを聴き、無意識に目を閉じマスク越しに口を押えた。
うれしくて心臓が飛び出しそうだった。

『紺屋高尾』はとても久し振りに聴く。落語の高尾は苦手だが、
浪曲の高尾はとても好きだ。節だけでカタルシスが成立するが
ゆえに。

何故このネタを選ばれたのか。前日にゲスト出演した志の輔
の会で、師がかけられていた影響か、それとも”来年「3月」15
日”だからだろうか。或いはみね子師匠がお好きだから?
そのすべてが理由だろうか?

いずれにせよ、ずっと聴きたいと思っていたので、泣けるほど
うれしかった。感無量だった。

願わくば、古式ゆかしさを纏う関東節の”カン違いの節”が、
絶えることなく受け継がれていきますように。


前夜祭が「豚次伝」で本祭が『紺屋高尾』。
格好良さと滑稽さをどちらも究極的に演じられるのが、
太福さんの最大の魅力だと思う。

侠客の格好良さと滑稽キャラが同居している状態は、
奇蹟的だ。


東家孝太郎独演会「徳川天一坊を聴く会」

2022年3月21日(月・祝)

 

「東家孝太郎独演会
     『徳川天一坊を聴く会』」

 上野広小路亭

 

東家三可子・伊丹 明
『三日の娑婆』

東家孝太郎・伊丹 明
『徳川天一坊「老中屋敷」』

~仲入り~

孝太郎・明
『徳川天一坊「閉門破り」』

 

 

別件の先約があり、涙を飲んで諦めていたが、
先約が中止になったため奇跡的に伺えた。
とにかく凄かった。

前読みの三可子さんは、最近拝聴する機会が
多い。外見も声も透き通るように綺麗なのだ
が、かけるネタが啖呵がごつい渡世人や侠客
が主人公のことが多いような気がする。
今席は罪人…笑。
『三日の娑婆』は伊丹秀敏師匠が浜乃一秀名
義でよくかけられるネタとのこと。
初心者が生意気を言うようだが今席は明師匠
の三味線の音にすごく奥行きが感じられた。

そしていよいよ主役の孝太郎さん。
練習のし過ぎで喉を傷められたとのこと。
浦太郎師匠へのリスペクトが強く窺えるが、
孝太郎さんはホーメイの素養があり倍音に定
評がある。一門の伝統を重んじつつ自らの個性
を出す、唯一無二の個性的な浪曲師の方だ。

浪曲版「天一坊」の台本の作者は大師匠にあた
る野口甫堂。
『老中屋敷』の超絶長いセメの節と、続く大名
の名前の言い立てが凄過ぎて眩暈を覚えた。
永遠に終わらない打ち上げ花火かジェットコー
スターか?素晴らしい!

仲入り後の『閉門破り』は雰囲気が一転、滑稽
味が強い展開。
浪曲は節がすべてをかっさらう。節が良ければ
すべて良し。カッコ良くも楽しかった。

次回が楽しみでならない。

第四十八回玉川太福”月例”木馬亭独演会~十五年前夜祭

2022年3月4日(金)

 

「第四十八回玉川太福”月例”木馬亭独演会

            ~十五年前夜祭」

 @浅草木馬亭

 

三門 綾・玉川みね子『鳥追恋慕笠』

玉川太福・玉川 鈴
男はつらいよ第1作「恋する寅さん」』

笑福亭智六・中田まなみ
『ノミニケーションブレイクダンス徒然草より』

~仲入り~

立川志ら門・玉川太福・玉川みね子・笑福亭智六
浪曲公開稽古『明石の夜嵐』」

太福・みね子『任侠流れの豚次伝「流山の決闘」』

 

 

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3月5日に芸歴十五年目を迎える太福さん。ちょうど
”月例”木馬亭独演会開催日と重なっていた。
ということで本日3月4日はその前夜祭。

ゲストが御二人。盟友(?)智六さんと、目下浪曲
稽古をつけているという志ら門さん。
志ら門さんは落語ではなく公開稽古とのこと、「祭」
に相応しい賑やかな夜だった。

しかしながら申し訳なくもお恥ずかしいことに、
寝不足の上仕事後の疲れやメンタルの不調により、
半分ぐらい半覚半睡の状態だった。

智六さんの高座は、徒然なるままの聖なる酔っ払い
が座して語るシッティング・コメディといった風情。
斬新だ。聴きながら酩酊に同調してしまった。

志ら門さんの公開稽古は本格的で、みね子師匠が曲師。
自身の独演会で一席唸る演目は『明石の夜嵐』。
寄席読みの名人東武蔵の十八番で、福太郎師匠も持っ
ておられ、最近太福さんもネタおろししたばかりの演
目だ。初唸りの演目としては超難物だと思うのだが。
フィギュアスケートで例えれば、初心者がいきなりト
リプルアクセルに挑むようなものではないだろうか。
ともあれ実演⇔指導のやり取りは真剣で緊張感がダイ
レクトに伝わってきた。

現在聴ける東武蔵の音源は、東武蔵が舞台に立たなく
なってから周囲に懇願されて録音されたものと知った。
台本作者は誰なのか、東武蔵自身なのか、『伊勢音頭
恋寝刃』の”前段”とは前日譚の意か、講談の『古市十
人斬り』との関係性他不明な部分が多いので、古典(大
衆)芸能研究畑の方に一度お話を伺ってみたい。


太福師匠のトリネタは超久し振りの「任侠流れの豚次伝」。
そうと分かった瞬間ほぼ気絶していた。
しかし決して聴くのがイヤなわけではない。久し振りに
拝聴できてむしろうれしかった。

某番組の投稿コーナーに自尊心をズタズタに自傷して
オマージュ浪曲を投稿した。採用されたら勝ちや!勝負!
などと勝手に挑戦したつもりでいたが、まさか採用して
頂けるとは思わなかった。
御自分の矜持であるネタを、オマージュとは言え歪めてい
るにも関わらず唸って頂けるとは…!
完敗だ。わたしまけましたわ。

天保水滸伝の侠客の身震いするような格好良さと、「ブヒ」
の滑稽さが同居している奇跡。
挑めばすなわち負け戦。

どうなる本祭。