Impression>Critique

感想ブログ~演芸(落語・浪曲・講談)etc.~

玉川太福独演会 玉川 鈴すごく奮闘篇

2022年3月17日(木)

 

玉川太福独演会 玉川 鈴すごく奮闘篇」

 @神楽坂レンタルスペース香音里~kori~

 

玉川 鈴「ご挨拶」

玉川太福・玉川 鈴『阿武松

~仲入り~

太福・鈴「トーク他」

太福・鈴『明石の夜嵐』

 

 

みね子師匠のお弟子さん、鈴さんがオール奮闘する
太福さん独演会は7回目。場所を移してから活況化
が目覚ましい。

「ご挨拶」から、浪曲を介した太福さんとの結びつ
きが犇々と伝わってくる。
徐々に「家」を飛び出し、色々な浪曲師の曲師をつ
とめるであろう可能性と意欲が弾けそうで眩しい。

阿武松』(緑之助)は好きな演目のひとつ。
この会に限っては、曲師の「手」に意識を集中させ
がちになり、みね子師匠の「手」を想起したりもす
る。鈴さんの「手」はけっこうアグレッシブだ。

仲入り後の太福さんとのトークコーナーの充実度が
今までで一番すごかった。
三味線を多用し、「手」の違いの実演など、鈴さん
の才能が爆発して時を忘れた。

そのため『明石の夜嵐』が寄席サイズの時間しか残
らず、どうなるかと思ったが、さすがスーパー浪曲
師、何とか形をととのえて成立させたので客の立場
で感心して唸らされてしまった。
ということは寄席でもかけられるということだろう
か。東 武蔵が寄席でかけていたとしても、持ち時間
が15分ではなかっただろうし…

曲師の若き才能が成長する過程を見守ることができ
るうえ、普段と少し違う太福さんを見ることができ
る得難い会。次回も是非伺いたい。

玉川太福『男はつらいよ』全作浪曲化に挑戦!17

2022年3月13日(日)

 

玉川太福男はつらいよ
      全作浪曲化に挑戦!17」

 日本橋社会教育会館

 

玉川太福・玉川みね子

『祐天吉松「飛鳥山」』

~仲入り~

男はつらいよ第二十一作
      「寅次郎わが道をゆく』

 

 

珍しく日曜日夜の開催で、予習もできたし心にゆとり
を持って臨めた。
マドンナは木の実ナナ。ゲスト登場人物として、
武田鉄矢、竜 雷太(ほとんど台詞なし)。

映画を観た段階での感触は、それほどそれっぽさがな
武田鉄矢が意外に難しそう、ということと、華やか
な集団のレビューなど、視覚的要素が強い場面をどう
表現するのだろうか、などの懸念があったが、期待は
良い方向に裏切られて爽快だった。

節付け編集力、随所に散りばめられた工夫ー突然のレ
ビューダンス(表情>笑)、サイレント映画・コントによ
くある階段降りなどーが素晴らしく、時を忘れた。

「このバカチンが!」という台詞と耳に髪の毛をかけ
るしぐさだけでその人と分かる芸。
万人の想像力を喚起できるってすごい表現力だな、と
物真似芸の素晴らしさに改めて感心した。

そして結婚するからには踊りの道を諦めなければなら
ない時代の理不尽さに苦い郷愁を覚えた。

6月21日開催の次回第二十二作「噂の寅次郎」も予習
から実に楽しみだが、6月9日の記念すべき国立演芸
場での15周年記念独演会は何と山田洋次監督がゲスト
で、監督の御前で名作「寅次郎夕焼け小焼け」が披露
される。
比類なき”ハレ”の舞台に客として参加できるのは、恐悦
至極の喜びである。

 

 

三扇会(第24回)

2022年3月11日(金)

 

「三扇会」(第24回)

 @らくごカフェ

 

 

玉川太福・玉川みね子
『祐天吉松「飛鳥山」』

一龍齋貞寿『お富与三郎「玄冶店」』

林家たけ平『百年目』

 

 

今回のテーマは「華」。
それぞれ「飛鳥山の花見」「悪の華」「向島の花見」
を念頭に置いてネタ選びをされたようだ。

 

飛鳥山」は長講『祐天吉松』のなかの一節で、
「人情花吹雪」(作・小菅一夫)という独立した一
曲にもなっており、二代目広沢虎造、福太郎師匠
の音源がある。美しい詞の外題付けがとても好きだ。
この外題付けのなかにも「日陰に咲いた”悪の華”」と
いう詞がある。

太福師匠の声がとてもよく響いていた。
みね子師匠とのコンビネーションも抜群で、
聴いていて至極心地よかった。

当時飛鳥山の花見時期には「かわらけ投げ」遊びの
風習があり、吉松の息子七松がかわらけを売ってい
る設定だが、地語りの説明で「素焼きの陶器」とい
うのについ引っかかってしまう。

陶器も土器も同じく土から作られており焼成温度の
違いで間違いではないが、学術的分類から言えば土
器だ。かわらけは漢字で「土器」と書く。
素焼きの陶器の土器、って何?となってしまう。
かわらけは当時在地(江戸)で使い捨ての大量生産品
として作られており、研究者も多い奥が深い物だ。
陶器となればそれなりの火力の窯を必要とする、
さらに大量となると…などと考えるのは野暮かもし
れないが、イメージをすくわれる気がしてしまう。
そんなことを思うのは私だけだろう。すみません。


貞寿先生の『お富与三郎』は、お富さん♪の歌にも
なっている有名な場面が出てくる「玄冶店」。
機会があれば是非連続で拝聴したいと思った。


たけ平師匠『百年目』。言わずと知れた船場商家
が舞台の大ネタ。非常に濃い内容で、客席全体の
集中力の深度がすごかった。そのため、終演後客
席から複数の感嘆の吐息がもれるのが聞こえた。


三扇会、という演芸会の形式がいつからあるのか
不明だが、演者さんの所属元が違うため、普段寄
席にもない顔付けの番組を聴けるのは得難い機会
である。
私は主に太福師匠が目当てなのだが、柳亭市弥さ
んとの二人会でも思うことだが、他協会のあまり
高座に接する機会がない演者さんを聴くことがで
き、改めてその力量に接してうれしい驚きを覚え
る。

この御三方の三扇会は今席が24回目で、太福師匠
のブログの過去記事を参照すると2013年頃が発端
のようなので、来年10年目を迎える。けっこう積
み重なった時間がある会なのだな、と思わせられ
た。

立川談春独演会2022@戸田

2022年3月6日(日)

立川談春独演会2022」

 戸田市文化会館

 

立川春次郎『十徳』

立川談春厩火事

~仲入り~

    『御神酒徳利』

 

f:id:Vidroid-y:20220328013402j:plain

 

談春師が青春を過ごした地、埼玉県戸田市での
独演会は会館工事を経て4年振り。

噂の新弟子さん、春次郎さんを初めて観て聴いた。
こはるさんに続き無事に二つ目になられますように。
初高座の演目として『十徳』を選んだ理由は何だろう。

詳細は書かないが、落語界の現状と勢力図他を
世界情勢に喩えて洞察するマクラが非常に面白
かった。
さらには談春師の口からジェンダーコンプラ
イアンスめいた言説を聞けるとは思わなかった。
生来の勘と分析力で得た知見で、それが現実な
ら仕方がないが腑に落ちないといった様子では
あるが。

ハラスメントを考慮してたら落語なんかできな
い、と仰るが、当てる枠が違うのだと思う。
人間は記憶する生物であり、内容だけでなく、
枠そのものさえ記憶できるのだ。
それ故古びた枠を破壊しても何の問題もない。

そんなマクラからの『厩火事』。なるほど。
髪結いの亭主」は前近代的なのか現代的なのか。
わたしと古いだけのガラクタ、どっちが大事なの?
ってやつ。
スタンダードでは「瀬戸物」だが、談春師は独特の
拘りがあり、「青磁、破片」という設定。龍泉窯産
だろうか?
しかしこの設定とクスグリが妙に可笑しい。


『御神酒徳利』。最近よくかけておられるが、
新機軸の意図は感じられず、ごく普通に淡々と
語られている印象だ。それこそが目的なのかも
しれないが、うまく行き過ぎで予定調和な感じ
が拭えない噺なので、立川流噺家さんがかけ
る演目としてはやや物足りなく感じてしまう…
って偏見以外のなにものでもない>笑

恒例の三本締めで幕。


埼京線にはこの談春師独演会@戸田市に行く時
ぐらいしか乗らないのだが、「浮間船渡」とい
う駅名(歴史がありそうだが、どっこい埼京線
業と同じ1985年設置)と、趣が素晴らしい第一硝
子工場の煙突を見るのが小さな楽しみだ。
いつも写真を撮るのを忘れる。今回も忘れた。
次に乗るのはいつのことだろう。

玉川太福 サカナ手本忠臣蔵 前半3作リターンズの会

2022年2月25日(金)

 

玉川太福 『サカナ手本忠臣蔵
       前半3作リターンズの会」

 江戸東京博物館小ホール

 

玉川太福・玉川みね子
『サカナ手本忠臣蔵1「刃傷サンゴの廊下」』
玉川太福・玉川 鈴
『サカナ手本忠臣蔵2「赤穂城明け渡し~山科閑居』
~仲入り~
太福・みね子
『サカナ手本忠臣蔵3「オオイカ東下り」』
勉強タイム


f:id:Vidroid-y:20220227075738j:plain

f:id:Vidroid-y:20220227075854j:plain


昨年から始まった、玉川太福師による「サカナで
描く『忠臣蔵』」の会。主催はらくご@座、脚本
は@座・松田氏。終演後に客が感想やアイデア
メールで送り、太福師がそれを聞いて即座に反映
させる「勉強タイム」がある大変刺激的な会であ
る。

今回4回目は会場の江戸博が建て直し休館するに
伴い、復習的に練り直した3作を連続して一気に
聴くことができる、得難い会である。

話が積み重なるに従い自然と必然性が生まれ、
もはやサカナ(じゃなくてイカとか貝がメインだ
けど)以外は考えられなくなった。

話がつながっているうえ新たな工夫(燻された後水
風呂で「ととのう」等)も満載で面白さが格段に増
していた。
元が「仮名手本忠臣蔵」だから当然といえば当然
だが、オオイカ内蔵助のイカした動きに顕著なよ
うに、浪曲的要素(節、啖呵)と同じくらい芝居(歌
舞伎)を意識している印象を受けた。
多くの話芸は聴くだけで足りるが、落語の『蒟蒻
問答』と同じで視覚がかなり重要だ。

浪曲と芝居の融合の新しいかたちで、その意味で
も大変面白く刺激的である。

ここぞという駄洒落(芝居の見得や決めにあたるの
だろうか)のとき、「サカナ屋っ」という掛け声を
自ら掛けておられたが、確かに客(後方の客は現状
は無理そうだ)が掛け声をかければ盛り上がるに違
いない。その場合、「オオイカ屋っ」も加えて2音
節短縮で「なやっ」「いかやっ」という掛け声が掛
かれば面白いだろうな、と想像してしまった。

これから討入りまでの展開がどうなるか、とても楽
しみだ。
歌舞伎を敬遠しているとしても、講談や浪曲の義士
伝を聴いているし、往年の年末恒例連続ドラマを視
聴したり映画を観ていれば、だいたいの筋は分かる
し今はネットでいくらでも情報を得られる。
それに御本家の超訳パロディが面白くないわけがない。
この設定で「別れ」の悲しさまで伝わってきたら本当
に凄いと思う。

江戸博が休館するので代わりの会場を探していると
のこと。歌舞伎に暗い野暮客の意見などいらない、
と言われそうだが暫し考えた。
一番の理想はすみだ水族館であろうが、施設案内図を
見た限りではそういうスペースはなさそうだし時世的
にも無理そうだ。
近くのすみだ北斎美術館には講座室があるが、収容人
数がコロナ対策で30人に限定されているし、講座の内
容は葛飾北斎関連に限られている。
吉良邸跡がある両国を外せないとすれば、両国駅に近
い貸し会議室(レンタルスペース)を借りるのが現実的
ではないだろうか。
例えばこことか→

お粗末様でした。伝統芸能若輩者(実質は年輩ですが)に
はこれが限界です。
貧すれば鈍する。

講談協会定席 如月 広小路亭講談会

2022年2月23日(水祝)

 

講談協会定席 如月 広小路亭講談会」

 上野広小路亭

 

 

田辺一記『三方ヶ原軍記~五色備え』

一龍齋貞寿『祐天吉松「飛鳥山親子の出会い」』

田辺凌天『谷 文晁「名画の虎」』

宝井琴星八百屋お七

~仲入り~

神田菫花『西遊記金角大王銀角大王」』

田辺凌鶴『名刀捨丸』

 

 

実に初めて講談の定席に伺った。有難い。
永谷の演芸場の一つ、上野広小路亭には伺う機会を
逸していたが、今年に入ってから何度か伺う機会を
得ている。とても聴き易い演芸場だ。
開演前に前座さんが高座に上がるのは落語の寄席と
変わらない。一記さんの前にもどなたか上がっていた。
そう言えば浪曲定席にその慣習はない。

すべての出演者の振り(マクラ)が面白く、私小説短編講
談を聴いているようだ。

貞寿先生は木馬亭講談会にも出演されるので、早い出番
だったようだ。『祐天吉松』の飛鳥山親子出会いの場は、
浪曲でもお馴染みの話でよく聴いているが、当時王子の
飛鳥山の花見時に「かわらけ投げ」の遊びの風習があっ
たことを浪曲を聴いて初めて知った。

かわらけは素焼きの土器皿で仕事柄「遺物」として認識
しており、身近に考古学的に研究している人もいるがそ
の風習は知らず、実に奥が深い「もの」なんだな、と認
識を新たにした。

凌天さんの谷文晁の話は虎年に相応しく、講談らしい芸道
話。雲州松江松平出羽守もお馴染みの登場人物。

琴星先生の『八百屋お七』。あの振りからこの話になると
は>笑。琴星先生の面白さは多元的だ。

菫花先生は代演で、西遊記の講談版を初めて聴いた。

トリは凌鶴先生。『名刀捨丸』は浪曲版の『山の名刀』を
聴いたことがある。刀を芯にめぐる因果が切なく響き、聴
き応え十分だった。

講談も落語も浪曲も、寄席は至極愉しい場所である。
講談ニワカ客である私も往年の講釈場の復活を願う
一人だ。





座・高円寺寄席 講談、浪曲たっぷり!

2022年2月20日(日)

 

「第12回高円寺演芸まつり
 座・高円寺寄席 講談、浪曲たっぷり!

 @座・高円寺


神田伊織『五条の橋』

玉川太福・玉川みね子
男はつらいよ第20作「寅次郎頑張れ!」』

田辺銀冶『夢二 黒船屋』

~仲入り~

一龍齋貞寿『鎌倉星月夜』

玉川奈々福沢村豊子
『甚五郎旅日記「掛川宿」』

f:id:Vidroid-y:20220227081314j:plain




毎年恒例の高円寺演芸まつり。
講談と浪曲のみの会があるのが特徴的である。
今年は若手の講談師、浪曲師の会も新設され
たようだが、残念ながら伺えなかった。


話芸を聴くにあたり顕著なのは、まず芸に発
展しているからこその「音」「調子」「トー
ン」の心地よさである。
多分に体調の良しあしが関わってくるが、
睡眠不足だったり疲れていたりすると、
聴き惚れるような声で、
整ったリズムで、
語られたり唸られたり奏でられると、
全神経が鎮められてしまう。
まるで枯渇した心の泉になみなみと水が湛え
られるがごとく。
浪曲は大人の子守歌」とはよく云ったも
のである。
張扇で釈台を叩くパアン、という音、三味線
の超絶技巧な音に咎められて現実に引き戻さ
れる。話の筋が分からなくなるのでそれで構
わない。でも心地よさを手放したくない、と
いう思いが拮抗する。


睡眠不足は人類の敵だ(申し訳ございません)。


太福さんは何をかけられるのだろう、と期待
していた。最近寄席でもかけている「寅次郎
頑張れ!」の15分ぐらいのバージョンと仰る。

おや、持ち時間が寄席と同じくらいなのは寂
しい(高円寺「寄席」ではあるが)。
しかし好きなミュージシャンのライブでヒッ
ト曲を聴くように、節や登場人物の台詞が分
かってくるのは楽しい。博やワット君、幸子
が出ると「待ってました!」とばかりに客席
から拍手が起こる(勿論自分もする)。


銀冶先生は生高座自体を初めて拝聴する。
生粋の艶やかさ、華やかさと良い意味のした
たかさを感じる。
演目は竹久夢二が主人公の自作新作講談。
自分の野暮天ぶりが恥ずかしくなった。


貞寿先生の『鎌倉星月夜』は初めて拝聴。
一見現代もののような演題だが、鎌倉時代
恋物語だ。
貞寿先生は声そのものに説得力がある。


トリの奈々福師匠の「掛川宿」も初聴きだ。
国友 忠伝の甚五郎ものは軽快な展開で、
浪曲のスタンダード・ナンバーの趣き。
国友 忠の相三味線をつとめられていた豊子師匠
の三味線の音は、歴史の重さを感じさせつつも、
常に瑞々しい。


渋谷らくご的に通常は滅多に観られない顔付け
と番組で、得難い会だった。
来年も期待したい。