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感想ブログ~演芸(落語・浪曲・講談)etc.~

東家孝太郎独演会「徳川天一坊を聴く会」

2022年3月21日(月・祝)

 

「東家孝太郎独演会
     『徳川天一坊を聴く会』」

 上野広小路亭

 

東家三可子・伊丹 明
『三日の娑婆』

東家孝太郎・伊丹 明
『徳川天一坊「老中屋敷」』

~仲入り~

孝太郎・明
『徳川天一坊「閉門破り」』

 

 

別件の先約があり、涙を飲んで諦めていたが、
先約が中止になったため奇跡的に伺えた。
とにかく凄かった。

前読みの三可子さんは、最近拝聴する機会が
多い。外見も声も透き通るように綺麗なのだ
が、かけるネタが啖呵がごつい渡世人や侠客
が主人公のことが多いような気がする。
今席は罪人…笑。
『三日の娑婆』は伊丹秀敏師匠が浜乃一秀名
義でよくかけられるネタとのこと。
初心者が生意気を言うようだが今席は明師匠
の三味線の音にすごく奥行きが感じられた。

そしていよいよ主役の孝太郎さん。
練習のし過ぎで喉を傷められたとのこと。
浦太郎師匠へのリスペクトが強く窺えるが、
孝太郎さんはホーメイの素養があり倍音に定
評がある。一門の伝統を重んじつつ自らの個性
を出す、唯一無二の個性的な浪曲師の方だ。

浪曲版「天一坊」の台本の作者は大師匠にあた
る野口甫堂。
『老中屋敷』の超絶長いセメの節と、続く大名
の名前の言い立てが凄過ぎて眩暈を覚えた。
永遠に終わらない打ち上げ花火かジェットコー
スターか?素晴らしい!

仲入り後の『閉門破り』は雰囲気が一転、滑稽
味が強い展開。
浪曲は節がすべてをかっさらう。節が良ければ
すべて良し。カッコ良くも楽しかった。

次回が楽しみでならない。

第四十八回玉川太福”月例”木馬亭独演会~十五年前夜祭

2022年3月4日(金)

 

「第四十八回玉川太福”月例”木馬亭独演会

            ~十五年前夜祭」

 @浅草木馬亭

 

三門 綾・玉川みね子『鳥追恋慕笠』

玉川太福・玉川 鈴
男はつらいよ第1作「恋する寅さん」』

笑福亭智六・中田まなみ
『ノミニケーションブレイクダンス徒然草より』

~仲入り~

立川志ら門・玉川太福・玉川みね子・笑福亭智六
浪曲公開稽古『明石の夜嵐』」

太福・みね子『任侠流れの豚次伝「流山の決闘」』

 

 

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3月5日に芸歴十五年目を迎える太福さん。ちょうど
”月例”木馬亭独演会開催日と重なっていた。
ということで本日3月4日はその前夜祭。

ゲストが御二人。盟友(?)智六さんと、目下浪曲
稽古をつけているという志ら門さん。
志ら門さんは落語ではなく公開稽古とのこと、「祭」
に相応しい賑やかな夜だった。

しかしながら申し訳なくもお恥ずかしいことに、
寝不足の上仕事後の疲れやメンタルの不調により、
半分ぐらい半覚半睡の状態だった。

智六さんの高座は、徒然なるままの聖なる酔っ払い
が座して語るシッティング・コメディといった風情。
斬新だ。聴きながら酩酊に同調してしまった。

志ら門さんの公開稽古は本格的で、みね子師匠が曲師。
自身の独演会で一席唸る演目は『明石の夜嵐』。
寄席読みの名人東武蔵の十八番で、福太郎師匠も持っ
ておられ、最近太福さんもネタおろししたばかりの演
目だ。初唸りの演目としては超難物だと思うのだが。
フィギュアスケートで例えれば、初心者がいきなりト
リプルアクセルに挑むようなものではないだろうか。
ともあれ実演⇔指導のやり取りは真剣で緊張感がダイ
レクトに伝わってきた。

現在聴ける東武蔵の音源は、東武蔵が舞台に立たなく
なってから周囲に懇願されて録音されたものと知った。
台本作者は誰なのか、東武蔵自身なのか、『伊勢音頭
恋寝刃』の”前段”とは前日譚の意か、講談の『古市十
人斬り』との関係性他不明な部分が多いので、古典(大
衆)芸能研究畑の方に一度お話を伺ってみたい。


太福師匠のトリネタは超久し振りの「任侠流れの豚次伝」。
そうと分かった瞬間ほぼ気絶していた。
しかし決して聴くのがイヤなわけではない。久し振りに
拝聴できてむしろうれしかった。

某番組の投稿コーナーに自尊心をズタズタに自傷して
オマージュ浪曲を投稿した。採用されたら勝ちや!勝負!
などと勝手に挑戦したつもりでいたが、まさか採用して
頂けるとは思わなかった。
御自分の矜持であるネタを、オマージュとは言え歪めてい
るにも関わらず唸って頂けるとは…!
完敗だ。わたしまけましたわ。

天保水滸伝の侠客の身震いするような格好良さと、「ブヒ」
の滑稽さが同居している奇跡。
挑めばすなわち負け戦。

どうなる本祭。

玉川太福独演会 玉川 鈴すごく奮闘篇

2022年3月17日(木)

 

玉川太福独演会 玉川 鈴すごく奮闘篇」

 @神楽坂レンタルスペース香音里~kori~

 

玉川 鈴「ご挨拶」

玉川太福・玉川 鈴『阿武松

~仲入り~

太福・鈴「トーク他」

太福・鈴『明石の夜嵐』

 

 

みね子師匠のお弟子さん、鈴さんがオール奮闘する
太福さん独演会は7回目。場所を移してから活況化
が目覚ましい。

「ご挨拶」から、浪曲を介した太福さんとの結びつ
きが犇々と伝わってくる。
徐々に「家」を飛び出し、色々な浪曲師の曲師をつ
とめるであろう可能性と意欲が弾けそうで眩しい。

阿武松』(緑之助)は好きな演目のひとつ。
この会に限っては、曲師の「手」に意識を集中させ
がちになり、みね子師匠の「手」を想起したりもす
る。鈴さんの「手」はけっこうアグレッシブだ。

仲入り後の太福さんとのトークコーナーの充実度が
今までで一番すごかった。
三味線を多用し、「手」の違いの実演など、鈴さん
の才能が爆発して時を忘れた。

そのため『明石の夜嵐』が寄席サイズの時間しか残
らず、どうなるかと思ったが、さすがスーパー浪曲
師、何とか形をととのえて成立させたので客の立場
で感心して唸らされてしまった。
ということは寄席でもかけられるということだろう
か。東 武蔵が寄席でかけていたとしても、持ち時間
が15分ではなかっただろうし…

曲師の若き才能が成長する過程を見守ることができ
るうえ、普段と少し違う太福さんを見ることができ
る得難い会。次回も是非伺いたい。

玉川太福『男はつらいよ』全作浪曲化に挑戦!17

2022年3月13日(日)

 

玉川太福男はつらいよ
      全作浪曲化に挑戦!17」

 日本橋社会教育会館

 

玉川太福・玉川みね子

『祐天吉松「飛鳥山」』

~仲入り~

男はつらいよ第二十一作
      「寅次郎わが道をゆく』

 

 

珍しく日曜日夜の開催で、予習もできたし心にゆとり
を持って臨めた。
マドンナは木の実ナナ。ゲスト登場人物として、
武田鉄矢、竜 雷太(ほとんど台詞なし)。

映画を観た段階での感触は、それほどそれっぽさがな
武田鉄矢が意外に難しそう、ということと、華やか
な集団のレビューなど、視覚的要素が強い場面をどう
表現するのだろうか、などの懸念があったが、期待は
良い方向に裏切られて爽快だった。

節付け編集力、随所に散りばめられた工夫ー突然のレ
ビューダンス(表情>笑)、サイレント映画・コントによ
くある階段降りなどーが素晴らしく、時を忘れた。

「このバカチンが!」という台詞と耳に髪の毛をかけ
るしぐさだけでその人と分かる芸。
万人の想像力を喚起できるってすごい表現力だな、と
物真似芸の素晴らしさに改めて感心した。

そして結婚するからには踊りの道を諦めなければなら
ない時代の理不尽さに苦い郷愁を覚えた。

6月21日開催の次回第二十二作「噂の寅次郎」も予習
から実に楽しみだが、6月9日の記念すべき国立演芸
場での15周年記念独演会は何と山田洋次監督がゲスト
で、監督の御前で名作「寅次郎夕焼け小焼け」が披露
される。
比類なき”ハレ”の舞台に客として参加できるのは、恐悦
至極の喜びである。

 

 

三扇会(第24回)

2022年3月11日(金)

 

「三扇会」(第24回)

 @らくごカフェ

 

 

玉川太福・玉川みね子
『祐天吉松「飛鳥山」』

一龍齋貞寿『お富与三郎「玄冶店」』

林家たけ平『百年目』

 

 

今回のテーマは「華」。
それぞれ「飛鳥山の花見」「悪の華」「向島の花見」
を念頭に置いてネタ選びをされたようだ。

 

飛鳥山」は長講『祐天吉松』のなかの一節で、
「人情花吹雪」(作・小菅一夫)という独立した一
曲にもなっており、二代目広沢虎造、福太郎師匠
の音源がある。美しい詞の外題付けがとても好きだ。
この外題付けのなかにも「日陰に咲いた”悪の華”」と
いう詞がある。

太福師匠の声がとてもよく響いていた。
みね子師匠とのコンビネーションも抜群で、
聴いていて至極心地よかった。

当時飛鳥山の花見時期には「かわらけ投げ」遊びの
風習があり、吉松の息子七松がかわらけを売ってい
る設定だが、地語りの説明で「素焼きの陶器」とい
うのについ引っかかってしまう。

陶器も土器も同じく土から作られており焼成温度の
違いで間違いではないが、学術的分類から言えば土
器だ。かわらけは漢字で「土器」と書く。
素焼きの陶器の土器、って何?となってしまう。
かわらけは当時在地(江戸)で使い捨ての大量生産品
として作られており、研究者も多い奥が深い物だ。
陶器となればそれなりの火力の窯を必要とする、
さらに大量となると…などと考えるのは野暮かもし
れないが、イメージをすくわれる気がしてしまう。
そんなことを思うのは私だけだろう。すみません。


貞寿先生の『お富与三郎』は、お富さん♪の歌にも
なっている有名な場面が出てくる「玄冶店」。
機会があれば是非連続で拝聴したいと思った。


たけ平師匠『百年目』。言わずと知れた船場商家
が舞台の大ネタ。非常に濃い内容で、客席全体の
集中力の深度がすごかった。そのため、終演後客
席から複数の感嘆の吐息がもれるのが聞こえた。


三扇会、という演芸会の形式がいつからあるのか
不明だが、演者さんの所属元が違うため、普段寄
席にもない顔付けの番組を聴けるのは得難い機会
である。
私は主に太福師匠が目当てなのだが、柳亭市弥さ
んとの二人会でも思うことだが、他協会のあまり
高座に接する機会がない演者さんを聴くことがで
き、改めてその力量に接してうれしい驚きを覚え
る。

この御三方の三扇会は今席が24回目で、太福師匠
のブログの過去記事を参照すると2013年頃が発端
のようなので、来年10年目を迎える。けっこう積
み重なった時間がある会なのだな、と思わせられ
た。

立川談春独演会2022@戸田

2022年3月6日(日)

立川談春独演会2022」

 戸田市文化会館

 

立川春次郎『十徳』

立川談春厩火事

~仲入り~

    『御神酒徳利』

 

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談春師が青春を過ごした地、埼玉県戸田市での
独演会は会館工事を経て4年振り。

噂の新弟子さん、春次郎さんを初めて観て聴いた。
こはるさんに続き無事に二つ目になられますように。
初高座の演目として『十徳』を選んだ理由は何だろう。

詳細は書かないが、落語界の現状と勢力図他を
世界情勢に喩えて洞察するマクラが非常に面白
かった。
さらには談春師の口からジェンダーコンプラ
イアンスめいた言説を聞けるとは思わなかった。
生来の勘と分析力で得た知見で、それが現実な
ら仕方がないが腑に落ちないといった様子では
あるが。

ハラスメントを考慮してたら落語なんかできな
い、と仰るが、当てる枠が違うのだと思う。
人間は記憶する生物であり、内容だけでなく、
枠そのものさえ記憶できるのだ。
それ故古びた枠を破壊しても何の問題もない。

そんなマクラからの『厩火事』。なるほど。
髪結いの亭主」は前近代的なのか現代的なのか。
わたしと古いだけのガラクタ、どっちが大事なの?
ってやつ。
スタンダードでは「瀬戸物」だが、談春師は独特の
拘りがあり、「青磁、破片」という設定。龍泉窯産
だろうか?
しかしこの設定とクスグリが妙に可笑しい。


『御神酒徳利』。最近よくかけておられるが、
新機軸の意図は感じられず、ごく普通に淡々と
語られている印象だ。それこそが目的なのかも
しれないが、うまく行き過ぎで予定調和な感じ
が拭えない噺なので、立川流噺家さんがかけ
る演目としてはやや物足りなく感じてしまう…
って偏見以外のなにものでもない>笑

恒例の三本締めで幕。


埼京線にはこの談春師独演会@戸田市に行く時
ぐらいしか乗らないのだが、「浮間船渡」とい
う駅名(歴史がありそうだが、どっこい埼京線
業と同じ1985年設置)と、趣が素晴らしい第一硝
子工場の煙突を見るのが小さな楽しみだ。
いつも写真を撮るのを忘れる。今回も忘れた。
次に乗るのはいつのことだろう。

玉川太福 サカナ手本忠臣蔵 前半3作リターンズの会

2022年2月25日(金)

 

玉川太福 『サカナ手本忠臣蔵
       前半3作リターンズの会」

 江戸東京博物館小ホール

 

玉川太福・玉川みね子
『サカナ手本忠臣蔵1「刃傷サンゴの廊下」』
玉川太福・玉川 鈴
『サカナ手本忠臣蔵2「赤穂城明け渡し~山科閑居』
~仲入り~
太福・みね子
『サカナ手本忠臣蔵3「オオイカ東下り」』
勉強タイム


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昨年から始まった、玉川太福師による「サカナで
描く『忠臣蔵』」の会。主催はらくご@座、脚本
は@座・松田氏。終演後に客が感想やアイデア
メールで送り、太福師がそれを聞いて即座に反映
させる「勉強タイム」がある大変刺激的な会であ
る。

今回4回目は会場の江戸博が建て直し休館するに
伴い、復習的に練り直した3作を連続して一気に
聴くことができる、得難い会である。

話が積み重なるに従い自然と必然性が生まれ、
もはやサカナ(じゃなくてイカとか貝がメインだ
けど)以外は考えられなくなった。

話がつながっているうえ新たな工夫(燻された後水
風呂で「ととのう」等)も満載で面白さが格段に増
していた。
元が「仮名手本忠臣蔵」だから当然といえば当然
だが、オオイカ内蔵助のイカした動きに顕著なよ
うに、浪曲的要素(節、啖呵)と同じくらい芝居(歌
舞伎)を意識している印象を受けた。
多くの話芸は聴くだけで足りるが、落語の『蒟蒻
問答』と同じで視覚がかなり重要だ。

浪曲と芝居の融合の新しいかたちで、その意味で
も大変面白く刺激的である。

ここぞという駄洒落(芝居の見得や決めにあたるの
だろうか)のとき、「サカナ屋っ」という掛け声を
自ら掛けておられたが、確かに客(後方の客は現状
は無理そうだ)が掛け声をかければ盛り上がるに違
いない。その場合、「オオイカ屋っ」も加えて2音
節短縮で「なやっ」「いかやっ」という掛け声が掛
かれば面白いだろうな、と想像してしまった。

これから討入りまでの展開がどうなるか、とても楽
しみだ。
歌舞伎を敬遠しているとしても、講談や浪曲の義士
伝を聴いているし、往年の年末恒例連続ドラマを視
聴したり映画を観ていれば、だいたいの筋は分かる
し今はネットでいくらでも情報を得られる。
それに御本家の超訳パロディが面白くないわけがない。
この設定で「別れ」の悲しさまで伝わってきたら本当
に凄いと思う。

江戸博が休館するので代わりの会場を探していると
のこと。歌舞伎に暗い野暮客の意見などいらない、
と言われそうだが暫し考えた。
一番の理想はすみだ水族館であろうが、施設案内図を
見た限りではそういうスペースはなさそうだし時世的
にも無理そうだ。
近くのすみだ北斎美術館には講座室があるが、収容人
数がコロナ対策で30人に限定されているし、講座の内
容は葛飾北斎関連に限られている。
吉良邸跡がある両国を外せないとすれば、両国駅に近
い貸し会議室(レンタルスペース)を借りるのが現実的
ではないだろうか。
例えばこことか→

お粗末様でした。伝統芸能若輩者(実質は年輩ですが)に
はこれが限界です。
貧すれば鈍する。