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感想ブログ~演芸(落語・浪曲・講談)etc.~

玉川太福独演会~新生道楽亭にようこそ~

2022年2月1日(火)


玉川太福独演会
  ~新生道楽亭にようこそ~」

 @新宿道楽亭

 

玉川太福・玉川みね子
浪曲偉人伝』
『明石の夜嵐』
~仲入り~

『死神』



クラウドファンディングで700万円以上の資金を
集め、会場をリフォームした道楽亭様。
極微力だがクラファンに参加させて頂いた。

リフォーム前はみね子師匠のお弟子さん鈴(りん)さん
をフィーチャーした太福さん独演会で伺うのみだった
が、コロナ禍(下)になり龍玉師、百栄師の独演会を配
信で視聴する機会も増えていた。

内装はどう変わったのだろうか。楽屋とキッチンが広
くなったらしいことは聞いていた。客席にも変化が望
まれるが…
以前の慣例に従い整理券をもらったが、まったく意味
を成さず番号に構わず後から来た客が先に入っていく。
予約した名前を言うが必ず聞き返される。私だけでは
ない。今回はさらにひどい対応をされたので、思わず
タメ口をきいてしまった。

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やや既視感。

道楽亭の会で曲師がみね子師匠なのは久し振りだ。
客席と演者さんの距離に変化がない方が道楽亭ら
しいという意向なのかもしれない。

太福さんはこの日木馬亭定席、国立演芸場定席、
道楽亭独演会、深夜ラジオと超ハードスケジュール
だったようだ。


浪曲偉人伝』
先月28日に木馬亭で開催された「シネマ浪曲大公開in
木馬亭」にてネタ下ろしされた、修業時代のエピソー
浪曲。その時は演題がなかったが、今席からこの演
題がついた。
木村若友、五月一朗、先代東家浦太郎他先生方のやや
尾籠な話を含むエピソードの数々が矢継ぎ早に繰り出
される。浪曲が好きであれば面白くないわけがない。


『明石の夜嵐』
談志家元が贔屓にしていた寄席読みの名人東 武蔵の
十八番で、福太郎師匠も持っておられた。
寛政8(1769)年に伊勢の油屋で実際に起こった殺傷事
件(「油屋騒動」)を題材にした歌舞伎の演目『伊勢音
頭恋寝刃』が元ネタらしく、その根拠は東 武蔵自身が
音源の終いで「伊勢音頭~の抜き読みでございます」
と言っていることだと考えられるが、歌舞伎の粗筋を
読んでも該当する部分が見当たらない。

先月29日に、会場を高田馬場に新しくできた「ばばん場」
に移したこちらも新生?「鍛耳會」でネタおろしされた。
「伊勢音頭~」の前段と仰っていたが、いわゆる前日譚
とかエピソード0(ゼロ)みたいなことなのだろうか。
今まで太福さんの口演では聴いたことがない声節、三味線
の手の場面があり、心の中でおお!と気持ちが高揚した。

後日、もしかして歌舞伎ではなく講談が元ネタなのではな
いのだろうかと思い立ちまず検索してみたところ、講談は
『古市十人斬』が該当することが分かった。
国立国会図書館のデジタルコレクションで速記本が公開さ
れており、著者は米川求女という講釈師らしき謎の人物で、
図書館側でも情報を求めている様子だ。
その速記本は読めていず、章題を見る限りでは「明石の夜
嵐」は見当たらない。
しかしある筋から、宝井梅湯さんが近年『古市十人斬』連
続読みの会を行い、全十三話のなかに「明石の夜嵐」とい
うそのものズバリ(古語)の項があることが分かった。
是非とも梅湯さんの「明石の夜嵐」を拝聴したいと願わず
にいられない。推測だが、浪曲がお好きな梅湯さんが独自
に作られた項である可能性がありそうだ。どうだろうか。
妖刀村正、青江下阪など「刀剣もの」としても老若男女問
わず刀剣ファンにうけそうな話で、その上節付きの浪曲
なれば格別ではないだろうか。



『死神』
昨年11月に圓朝ものしばりの「三扇会」でネタおろしさ
れた。脚本は稲田和浩先生。
死神と主人公の男の機縁が語られる独自の展開、浪曲
らではのオチ。
今席はこのオチが特に沁みて色々こみ上げてきて涙腺が
緩んだ。落語と浪曲の幸福な出会い。改めて太福さんに
似つかわしい素晴らしい作品だと思った。


三席ともネタおろしから日の浅い演目というのは珍しい
のではないだろうか。とても楽しい番組だった。


大ホールの会ではない場合、席亭やスタッフの方が帰る
客を見送ることがあるが、その際「ありがとうございま
した」と言う客と言わない客を区別することがある。
打ち上げ込みの常連客や人を見て判断して言うことが多
い気がするが、やはり言わないでもよい客と判断される
のは一抹の寂しさを感じる。
私が席亭やスタッフだったら、必ず全員に「ありがとう
ございました」と言う。何故なら親しくない、むしろ不
得手な客にこそ礼を言わなければいけないと思うからだ。