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感想ブログ~演芸(落語・浪曲・講談)etc.~

スペース・ゼロ 新春寄席vol.30

2022年1月31日(月)

 

「スペース・ゼロ新春寄席vol.30~
       笑って楽しい旅噺~」

 @こくみん共済coopホール


桃月庵あられ『饅頭こわい』

三遊亭わん丈『矢橋舟』

玉川太福・玉川みね子
清水次郎長伝 「三十石船道中」』
桂 枝太郎『浅草の灯』
~仲入り~

林家楽一「紙切り」(藤井聡太、豆まき猫、
          パンダ3兄弟、ピーポくん)
柳家三三『万両婿』


「旅噺」しばりのホール落語会。顔付けに惹かれて伺った。
「スペース・ゼロ寄席」は大衆芸能脚本家・作家の
稲田和浩先生が監修されているらしい。

太福さんの石松三十石船以外は初めて聴く噺ばかりだった。
『万両婿』は講談では聴いたことがあるが、落語として聴く
のは初めてだ。


わん丈さんの『矢橋舟』は上方落語で、道中噺『伊勢参宮
神乃賑』の一編。実にわん丈さんの生高座を聴くこと自体
が初めてである。
米朝の持ちネタで、鳴り物入りで舟上での客同士のやり取
りがとても愉しい。

後半部分で徳利の代わりに尿瓶を用いて酒を飲む場面がある。
この噺の実年代は不明だが、幕末~明治頃だとしたら、尿瓶
は徳利の代わりになるような形態だっただろうか、とふと考
えてしまった。

明治時代以前の時代を舞台にした時代劇などで、その時代に
はあり得ない物(道具)があると嬉々としてしまう性分なので、
噺の都合だからそんなんどうでもいいだろう面倒臭いな、と
言われようとつい考えてしまう。携帯用の尿瓶だろうか?


太福さん、曲師はみね子師匠で道中ものとして鉄板中の鉄板。
都銀以上の絶大な信頼感があった。


楽一さんの「ピーポくん」。個人蔵になるのが残念なほどの
素晴らしい出来だった。意外なのは、「ピーポくん」を切る
のは初めてだったらしいこと。今まで一度もリクエストした
人がいなかったとは。


三三師の高座は久し振りだった。『万両婿』は琴調先生伝の
伯山先生の高座が記憶に新しいが、内容の生半可な古び具合
と演者の年代及び芸風に齟齬があるように感じた。
この噺は落語の方が生きるな、と思ったし三三師なら安心し
て聴ける。三三師は講談、浪曲を好まれるので勘を弁えてお
られる。


客いじりも芸のうち、というのは話芸界の定説かどうか定か
でないが、誰も笑わずつまらないのであれば、芸とは言えず、
単なる誹謗中傷でしかない。
公衆の面前で見ず知らずの他人に対して侮辱的な言葉を吐き
捨てる。芸人である前に人としてどうなのか。

国本武春師匠が後輩の若手浪曲師に遺した言葉、

浪曲師は素晴らしい芸人である前に素晴らしい人間であれ!」

武春師匠が浪曲師になりたての頃、松平国十郎先生に言われた
言葉であるという。

浪曲師を落語家に、すべての芸人にかえられる。いや芸人でな
くてもよい。すべての境遇の人間にあてはまる。素晴らしくな
くても何の落ち度もない他人を侮辱する行為が愚かであると分
かればそれで良い。
もちろん私だってロクな人間ではないが、公の場で他人を侮辱
するようなことはしない。

そもそも他人を侮辱するなんて面白くも何ともない。