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感想ブログ~演芸(落語・浪曲・講談)etc.~

Sous le masque

大震災から2カ月以上経過したが、依然として全てが
「途上」にある。しかし、首相が東海の浜岡原発を全面
停止させたのは意外だった。支持率も少しだけ上がって
いるという。



東京電力の傲岸さは不変だ。福島第一原発は結局「メルト
ダウン」していたという。過剰反応するのは得策ではない。
この前代未聞の事態について、断言できる人間など恐らく
一人も存在しない。だが「責任」の所在は明らかだ。



この大地震の影響で、プレートにひずみが生じ、いつ何が
起こるか分からない状況にある。日本沈没あるいは断裂を
フィクションとして眺めてはいられなくなった。だからと
言って外国に逃げるわけにはいかない。それが良くも悪く
も日本人なのだと思う。まあ外国に住んでいる日本人がい
るから絶滅するということはないでしょうし。



そんな薄氷を踏むような日常の中でストレスを溜めつつ、
落語を聴きに行く。



rakugoオルタナティブvol.1『落語の中の女
5月14日草月ホール。主催:ぴあ、制作:立川企画。


落語にも「オルタナ」があったとは知りませんでした。経緯は
よく分からないが俳優の池田成志氏が落語をやる(これが初めて
ではないようだ)というのがメインの企画らしい。


そして、かかる噺は男女関係が基調にあるもの。昼の部と夜の
部があり、通し券(女性通し券、とのことですが、割引だった
のでしょうか)を買ったので両方拝見しました。



開口一番は立川志らく師匠の御弟子さん、立川らく兵
さんで『出来心(間抜け泥棒)』
この日は池田成志氏ファンの人も観客だったので、プログ
ラムを見てこの噺の題名が「開口一番」だと思ってしまっ
た人がいたっぽいです。けっこうウケていました。
後で志らく師匠が「前座がウケるなんて前代未聞だ」と
仰っていた。



そして池田成志『紙入れ』。不倫(姦通)・艶っ
ぽい噺。
池田氏は、大昔にNHKの朝ドラに出ていた印象しかなく、
つい最近まで意識していませんでしたが、「第三舞台
出身の役者さんだったのですね。昨年はずいぶん不遇だっ
た、という枕。せっかく日清製粉のCM決まったのに降ろ
されたとか、舞台でアキレス腱切れて降板、など。
素直に笑わせられました(笑うのが礼儀とも言える)。
声が良いので、大変聴き易い。緊張がこちらにもダイレク
トに伝わってくる。



立川志らく師匠厩火事。髪結の妻と「髪結の亭主」
の噺。多分どこの国でやっても大いにウケそうな、良い意味
でスタンダードな噺であり、その意味では本当に噺家の技量
が試されると思われる(などと偉そうに言ってみた)。



仲入り後志らく師匠『紺屋高尾』。この日これを最も楽しみ
にしておりました。談春師匠の十八番をですよ。志らく師匠
がどう演るか、いやが上にも期待が高まり放題なわけです。



最後に昼の部出演者座談。何か突然おじさんが司会だと言って
出てきて、「ぴあ」の戸塚と名乗る。そう言えば、「ぴあ」は
廃刊になってしまったのですよね。隔週刊の時、毎号買ってい
た時期があり、情報誌として活用していました。寂しいけれど
(ってだいぶ昔に購読するのやめておいて何を今更、だが)、
ネット時代に生き残っていくのは至難の業だと想像します。



「今日は池田さんのファンと志らく右翼が客だ」と志らく師匠。
すみません。またただの落語好きが紛れ込んでます。
やはり志らく師匠が池田氏の稽古をつけていたのですね。所々
師匠っぽい所が散見されるように思えたのです。特に旦那に喰
われる悪夢を見る箇所。一番笑った所でもありますが(って違っ
てたらこっ恥ずかしいですが)。


役者が落語をやると、いかにもその「人」になり切ろうとする
のは駄目、と志らく師匠。歌うように演らなければ、と。
確かに、落語という表現形式でその人物(という枠)をいちいち
被ったり脱いだりするわけにはいきませんものね。

 



夜の部。この草月ホールは落語の会場として適っていると
感じる。関係ないけれどシートの色が好みです。



古今亭菊六さん『転宅』。初めて拝聴。二ツ目の方。
外見は、寺でお務めされていそうな感じ。噺は、間抜けな
泥棒と、騙すお妾さんの噺。



池田成志『紙入れ』。ファン、というわけではないの
で同日に二度目は少々辛い。一度目より更に緊張感が増して
いたように見受けられた。



橘家文左衛門師匠『子別れ』。初めて拝聴。
一門会での談志家元の鬼気迫る様子がまだ脳裡に残って
いるが、子供(「亀」)が妙に可愛い。子は鎹、と言うが
鎹がどういうものか、今は知らない人もいるのではない
だろうか。後で座談(立ちっぱだったけど)の時、
文左衛門師がバツイチで、ある時本当に別れた奥さんの
所に行った子供とばったり会い、「鰻食べたい」と言わ
れて食べさせたという、噺を地で行く出来事があった旨
の驚愕の事実が明かされる。



仲入り後、柳家三三師匠『橋場の雪』
昨年の相模原(だったか記憶が曖昧)の高座以来、久し振り
に拝聴…何だか更に痩せられたような。非常に失礼な表現
だが、尖らせ過ぎた鉛筆みたいです。「もうお腹いっぱい
だと思いますが」との御言葉通り、少々疲れて来てしまった。
夢オチの噺だからって寝オチしてはかなわん、と懸命に目を
開けて踏ん張る。



最後に座談だが、場所が狭いので立談に。昼と変わらずすっ
とこどっこいな司会の「戸塚さん」。強面キャラの文左衛門師、
もう座るっ、と演台に腰かけて両足をぷらんぷらんさせる。
可愛らしい。多分そのギャップが魅力なのですね。



この「rakugoオルタナティブ」シリーズ、面白いので暫く月一
で通うことになりそうです。



それにしても、BL(ボーイズ・ラブ)の落語家設定は、個人的に
は認められない。無粋だと思います。



強靭な「仮面」が欲しい今日この頃。