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感想ブログ~演芸(落語・浪曲・講談)etc.~

太福・梅湯二人会(第十四回)

2022年12月10日(土)

 

玉川太福・宝井梅湯二人会」(第十四回)

@らくごカフェ

 

宝井梅湯『山本南龍軒~無心は強い』

玉川太福・玉川 鈴
男はつらいよ第二十作「寅次郎頑張れ!」』

~仲入り~

太福・鈴『大石東下り~武林の粗忽』

梅湯・鈴『赤垣源蔵徳利の別れ』

 

 

楽しみにしている不定期開催の二人会。前回は8月だった。

梅湯さんの「無心は強い」は祭文語りの大男が主人公の話
で初聴き。祭文語りと言えば浪花節の源流の話芸だ。いわ
ゆるデロレン祭文。
途中、びっくりした後爆笑する場面があるが、詳述しない。
実際に聴いてのお楽しみ。
最後は教訓めいて終わるのが講談らしくて面白い。

 

太福師の「寅次郎頑張れ!」はロングバージョン。
寄席バージョンを聴いて以来だったので新鮮に聴こえ、
唸りの力が凄くて胸が締め付けられた。爆笑場面は変
わらず生き生きとして爆笑。
幸子の叔父さんが歌う「菩提樹」を朗々と歌われてい
たのは客演主演された田中角栄が主人公のオペラ劇、
『ザ・スピーチ』の影響だろうか?
将来的に映画の出演者が忘れられ、風化してしまうの
ではないかと懸念されていたが、映画作品は普遍的で、
何より昔日への郷愁(ノスタルジア)は永遠に美しいので
心配は無用だと思う。
映画作品を一人で編集演出して演じる努力と才能に改め
て感心感動する。

 

仲入り後も太福師。トリの梅湯さんが本格義士伝ものな
ので、それを盛り上げる意味での義士伝らしからぬ滑稽
外伝「武林の粗忽」。
そういう気配りをされるところが心憎い。

 

そして梅湯さんは滅多にかけないという義士伝、定番中
の定番『赤垣源蔵徳利の別れ』。しかも鈴さんの伴奏付き。
この二人会では梅湯さんの高座に鈴さんの伴奏が付くこと
が恒例となったようだが、素晴らしい相乗効果となって今
の時期に相応しい義士伝を情緒たっぷりに聴くことができ
た。とても豊かな気持ちになった。

 

余談。この「徳利」は貧乏徳利とのことだが、どんな徳利
だったのだろうかと職業柄色々想像してしまう。
貧乏徳利は別名通い徳利といい、要するに酒屋の貸し徳利
で、江戸時代後期~昭和初期頃に流通しており、時代によ
り物が違ってくる。貸し徳利なので宣伝を兼ねて店の名前
が記されているが、その方法も時代によって異なる。
時代劇に出てくる鉄文字の徳利は本来明治以降にしか存在
しない。店の電話番号が記されているものは明らかに電話
が初めて東京・横浜で開通した1890(明治23)年以降である
ことは確実だ。
容量は五合か一升か。磁器に染付か陶器に釘書(釘で店名を
彫る。点の場合は点刻、線の場合は線刻という)か。
…などと考えるのが楽しいのは性分だ。

 

いつも楽しいこの二人会、客席が贅沢な空間であることが
多い。今席は何故か下手側に偏っていた>笑。
他に魅力的な会(主に寄席)がたくさんあることは確かだが、
実に勿体ないとしか思えない。

 

 

田辺凌鶴独演会「これも凌鶴あれも凌鶴」

2022年11月26日(土)

 

「田辺凌鶴独演会
    『これも凌鶴あれも凌鶴』」

 (第24回)

 @新宿道楽亭

 

 

田辺凌天『湯水の行水』

田辺凌鶴『杉野十平次

~仲入り~

凌鶴『仙石騒動「神田作十郎との別れ」』

  『島野 修』

 

凌天さんは久し振りのような気がする。
『湯水の行水』は季節もので、夏にかけては
いけないらしい。リアリティが出ないからだ
ろうか。

 

主催の道楽亭さんのフライヤーで、
「ネタのデパート」という称号を付されてい
るが、本当に凌鶴先生は引き出しを数多くお
持ちで、古典新作多種多彩だ。

 

義士銘々伝『杉野十平次』。俵星玄蕃が出て来
来ると暮れが迫っているのがリアルに感じられる。

 

「仙石騒動」は江戸時代の三大お家騒動のひと
つだが、背景がやや複雑だ。
連続物で、この「神田作十郎との別れ」はいわ
ゆる「神田作十郎、転(うたた)を救出する」の段
に該当するだろうか。
凌鶴先生に「仙石騒動」を読むきっかけを与えた
という、亡くなられた講談ファン(Twitterアカウン
トだと「まあ」さんだろうか?)のエピソードが切
なかった。

私には筋を追うのが難しかったので、村上元三
小説か漫画で読んで筋をつかんでから講談を聴い
た方が理解が深まるかもしれないと思った。

 

『島野 修』とは、プロ野球選手にしてスーツアク
ター。プロ野球球団のマスコット着ぐるみを着る人。
オリックス・ブルーウェーブのマスコット「ブレ―
ビー」「ネッピー」の”中の人”が島野 修だ。

私はあまり野球には興味がないが、着眼点が面白く、
なにもかもが新鮮だった。

 

願わくばもっと多くの人に聴いてほしいし聴かれる
べきだ。贅沢過ぎる空間で緊張してしまった。

チンと周防大島探訪2~落語と音楽と他いろいろ~

2022年11月17日(木)

 

「チンと周防大島探訪2~落語と音楽と他いろいろ~

 渋谷区文化総合センター大和田 伝承ホール

 

チン中村村井守トーク

柳家緑太『からぬけ』(落語&ラップ)

玉川太福伊丹明
男はつらいよ第23作「翔んでる寅次郎」』

~仲入り~

阿部海太郎&中村明珍「演奏(コラボ)」

立川談笑『猫と金魚』

 

 

中村明珍さんは元銀杏BOYZのギタリストで、現在は僧侶
周防大島町在住。周防大島探訪と銘打つからにはそこが
メインテーマなのだろうな、と漠然とした薄い予備知識で、
玉川太福さんが出演されると知り伺った。

渋谷伝承ホールは半年ぶりぐらいだ。
行ったことがある人は分かると思うが、伝承ホールに行く
場合、エスカレーターを使うと途中から階段になる。

私はいつもエレベーターではなくエスカレーターで行く
ので、階段を登ると終点に若い男性が座っている。
おやおや。そこは通り道で座るところではないぞ。
よく見ると、その男性は二度見するほどの美形で長身。
いわゆる”ダブル”でビョルン・アンドレセンに似ている。

開場時間が遅れており、外見はええとこのマダムっぽい
がにぎやかしい女性のグループが目立っている。
開場すると、あのビョルン君(勝手に命名)が入ってきた。
と、マダムグループのひとりが気がつき、
「あ、だいちゃん来た来た」と近付いていく。って。
よりによってだいちゃん!?そしてどういう関係?
頭がクラクラしつつ入場。

 

とにかく何もかもが予測不能。客層は若者多めだが傾向
はバラバラ。
ただ、何かを「観る」会場やホール等で、後方の客の視
界をさえぎるので帽子は脱ぐべき、という暗黙のマナー
は老若男女共通のもので世代は関係ないと思った(若い女
性が毛糸の高い帽子を終始かぶっていた)。

明珍さんがいきなり法螺貝を吹きながら登場。
太福さんのファンにとっては法螺貝といえばもちろん
「デロレン祭文」だ。秘かな笑い。

トークコーナーの村井守さんも元銀杏BOYZのドラマーで、
現在はTV番組他の制作会社でディレクターをされている
とのこと。さらに、中島みゆき(敬称略)の従弟だという。
三島由紀夫の「複雑な彼」を思い出す。表面だけでも面白
い人だ。独特な世界観をかもしだすトーク

緑太さんの高座はとても久し振りに拝聴。いわゆるイケメ
ン落語家さんだが落語ラップを持ちネタとされていること
を初めて知った。着物にサングラスは微妙だが、ラップが
洋の話芸だとすれば和洋折衷芸だろうか。斬新と言うより
懐かしい感じがした。

太福師は当然のごとく明珍さんの法螺貝をいじりつつ、何
をやろうかと考えて、地べたの二人の「愛しのロウリュ」
をやろうと思っていたが、男はつらいよの主題歌を作曲し
星野哲郎氏が周防大島町出身だと知り寅さんに、と…
この客層にどうウケるか?の方が気になってしまった。
勝手な推測だが、どちらかと言えば地べたの二人の方がウ
ケたのではないだろうか?久し振りにテーブル掛けのアウ
フグースを観たかった気もする。
明師匠の笑顔が太福師の「かおり」を引き立てていた。
太福師の浪曲を生でずっと観たくてたまらなかったという
明珍さんはどう思われたのだろうか。

楽家阿部海太郎さんは恥ずかしながら存じ上げなかっ
たが、静謐なピアノの音に明珍さんが僧侶の面目として木
魚や鈴(りん)?を挟み込みつつ、ギターをかき鳴らし始める
と、フリップ&イーノばりのコラボレーション音楽となり、
脳がトランス状態寸前になった。

そしてトリは談笑師。談笑師の生高座もとても久し振りだっ
たが、やはり立川流の『猫と金魚』は一味も二味も違う。

総じてカオスな異世界にトリップしたかのような不思議な
会でとても面白く刺激的な一夜を過ごした。

ガルロチ寄席~芸能よもやま話~

2022年4月26日(火)

 

「ガルロチ寄席~芸能よもやま話~」

@ガルロチ

 

稲田和浩「浪曲三遊亭圓朝

玉川太福(玉川 鈴)『死神』(脚本:稲田和浩)

~休憩~

稲田・太福・鈴「トーク

 

ガルロチとはスペイン語で「心」の意味らしい。
伊勢丹会館にある元フラメンコレストランで、
今はショウレストランとして営業している。
そのためステージがあり、音響設備が整っている。

 

ガルロチ寄席は演芸作家の稲田和浩氏が監修している
寄席のようだ。今回のテーマは浪曲三遊亭圓朝で、
玉川太福さんがゲスト出演。曲師は玉川 鈴さん。

 

稲田氏のお話は期待以上に興味深く面白い内容だった。
記憶の堆積と分析力は驚嘆に値し、良い意味で常軌を
逸する視点で創作された浪曲版の『死神』は、浪曲
しい実に切ない終わり方だ。

 

ネタおろし以来の『死神』。
太福さんは今までと少し内容を変えたと仰っていたが、
不気味さを強調したのがそのひとつだろうか。
ある落語家さん(遊雀師?)が死神は何故杖をついている
のだろう、という疑問を呈していたが、確かに、神的
存在であれば肉体的に衰えている必要性はない。
あるいは、杖は死神を表す記号なのだろうか。

 

唸りも三味線の音もとてもよく響いていた。
鈴さんの三味線はともすれば非常にアグレッシヴで、
今席も思わずうわ、と声なき声が出てしまうほどに
グルーヴィ―な音があった。

 

トークでは意外な話をたくさん聴けた。
百栄師が一般客として木馬亭に行かれていることを
初めて知った。いらしたら私服ですぐ分かってしま
いそうだ。

 

公演中、初めての場所のせいか緊張性の咳が出てし
まい、迷惑だったかもしれない。
『死神』は太福さんの十八番ネタとして、定期的に
拝聴したいネタのひとつになった。

温故知新(浪曲+落語+講談)

2022年4月23日(土)

 

「温故知新」(浪曲+落語+講談)

 須賀神社社務所

 

三遊亭好二郎『宗論』『二階ぞめき』

春風亭昇吉『牡丹燈籠』

昇吉&太福「トーク

玉川太福(伊丹 明)
清水次郎長伝「久六とおしゃべり熊」』

~仲入り~

柳家喬志郎『女百物語』より二席

 

 

小規模な会は主催者の個性が色濃く出る場合がある。
こちらの会はサロン的な雰囲気、ほぼ固定客で、
苦手な部類に入る。
あくまでも私個人の好みの問題で、そういう会の方
が好ましいと言う人もいるに違いない。
それが伝わるのか、主催者の態度は冷えていた。

 

しかし現時点で太福さんの次郎長伝連続読みを聴け
るのはこの会しかない。
今席ではいわゆるダレ場というか挿話じみている、
「久六とおしゃべり熊」が聴けると踏んで伺った。
昇吉師との妙な磁場が発生するトークを生で聴きたい
という心づもりもあった。

 

初めて伺った須賀神社社務所自体は畳敷きの居心地が
良い会場で安らかな雰囲気だ。
それがかえって異端者を際立たせるのだろうか。

落語は喬志郎師の「女百物語」が面白いと思った。
女性が主人公の擬古典新作シリーズ落語だが、男性
でありながら女性を主人公にした意図がやや不思議だ。
ハードルが一段高くなるのではないだろうか。
トークは期待したほど妙な磁場をダイレクトに感じられ
なかった。

 

そして「久六とおしゃべり熊」。虎造版の「久六の悪
だくみ」まで含まれるのだろうか。
普段滅多にかからない段、実に初めて聴けた!
「派」の縛りがあるとは言え、今このクオリティで次
郎長伝を演じられる浪曲師が他におられるだろうか。

 

これを聴けただけで有難い。もう何も言うまい。

第十七回玉川太福・柳亭市弥二人会

2022年4月18日(月)

 

「第十七回玉川太福・柳亭市弥二人会」

 @西新宿ミュージックテイト

 

柳亭市弥『千早ふる』

    『替り目』

~仲入り~

玉川太福・玉川 鈴
男はつらいよ第二十作「寅次郎頑張れ!」』

 

 

この日太福さんは末廣亭池袋演芸場と寄席の
かけもちで、池袋→末廣亭ならまだ良かったが、
末廣亭→池袋→西新宿、と行きつ戻りつになった
うえ、あいにく(お約束?)本降りの雨。

太福さん、鈴さんを待ちながら長めのマクラと、
軽妙で楽しくも直球の江戸落語を堪能。
市弥さんには独特のキラキラしたフラがある。
元々市弥さんの高座を拝聴する機会があまり
なかったが、太福さんとの当二人会で機会を得
て、スキルフルな高座に驚かされた。
(お前のようなうっすい客に言われたくない、と
叱られそうだが)

 

仲入り中、お二人が到着。ずぶ濡れで気の毒至極。
〽水もしたたる良い男~、と”太福のテーマ”の一節
が頭をよぎる。
今席の「寅次郎頑張れ!」はワット君幸子にスポッ
トバージョン。

この日のような「太福(・鈴)頑張れ!」な状況に接
すると、名状しがたい想いに駆られる。
端的に言えばいわゆる「推し」への、ファンゆえ
の切なさだ。

 

クレバーな大人ではないので自分が本当に興味があ
るものでなければ心は動かないし、ファンとして認
められたいがゆえにおもねることもできない。
ただ人間は死ぬまで成長する。演者のみならず、客
も何度も聴いているうちに変化するのは当然だ。
その変化が演者には伝わりにくいかもしれないが、
常に偽りはなく真剣だ。不快かもしれないが理不尽
と思えば理不尽と言ってしまう。よもやただの悪口
など言うはずもない。

イヤならやめろ、と右から左的に単純なことではない。
そのallusionが心臓を抉り、物理的な”不足"が絶望を生
んでいることなど、想像できないだろうけれど。

 

世迷言を書き連ねてしまったが、この二人会は市弥さ
んの真打昇進・小燕枝襲名に伴い8月が最終回とのこと。
目出度いが寂しい限りだ。

SWAクリエイティブツアー2022

2022年4月14日(木)

 

「SWAクリエイティブツアー2022」

 @新宿シアタートップス

 

柳家喬太郎『当世女甚五郎』

三遊亭白鳥日本海の英雄』

~仲入り~

林家彦いち『ごくごく』

春風亭昇太『ロマンス恋泥棒』

 

 

チケットをゲットしていたにもかかわらず、
仕事その他で2回行けず(リセールと正規譲
渡で無事行き先は決まった)、次は買えず、
で今回ようやく行けた。感慨無量。

 

小劇場の聖地と称される新宿シアタートッ
プスは初だったが、まったく意識したこと
がなかった。大変観易く聴き易い劇場だ。

 

今回のテーマは「秘密」とのこと。
開演前、終演後に流れるネタに因んだ映像
がとても楽しい。


白鳥師の「定吉」云々は酔っ払いの戯言と
ご自分で言うような直球下ネタだが、だい
ぶ前に故・赤塚不二夫がTVの密着ドキュメ
ンタリー番組か何かで、酔っ払って同じよ
うに”命名”して腹話術のような悪ふざけを
していたことを思い出した。一緒にいたお
仲間がひっくり返って爆笑していた。

何故記憶に残っているのか不明だが、おそ
らく疎外感を強く感じたからだと思われる。
老若問わず男性特有の連帯意識というのか
仲間意識に対して、子供の頃から二重の意
味で疎外感を感じるのだ。
人として、異性として。
下戸だから酔っ払いの”ノリ”も分からないし。

ホモソ―シャル、の一言では片づけられな
い強靭な結びつき。
今は女性にもシスターフッドという概念が
確立しているが、その領域はほとんど聖域
で近寄りがたいのだ。

ロックバンドに喩えればローリング・ストー
ンズのライブに行ったのと同じわけで、ただ
その場にいられただけで幸甚である。
強いて言えば最もテーマに沿って手堅かった
のは彦いち師だったと思う。
言わずもがなだが個人的見解だ。

次回は7月。果たしてチケット争奪戦に勝てる
だろうか?