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感想ブログ~演芸(落語・浪曲・講談)etc.~

ガルロチ寄席~芸能よもやま話~

2022年4月26日(火)

 

「ガルロチ寄席~芸能よもやま話~」

@ガルロチ

 

稲田和浩「浪曲三遊亭圓朝

玉川太福(玉川 鈴)『死神』(脚本:稲田和浩)

~休憩~

稲田・太福・鈴「トーク

 

ガルロチとはスペイン語で「心」の意味らしい。
伊勢丹会館にある元フラメンコレストランで、
今はショウレストランとして営業している。
そのためステージがあり、音響設備が整っている。

 

ガルロチ寄席は演芸作家の稲田和浩氏が監修している
寄席のようだ。今回のテーマは浪曲三遊亭圓朝で、
玉川太福さんがゲスト出演。曲師は玉川 鈴さん。

 

稲田氏のお話は期待以上に興味深く面白い内容だった。
記憶の堆積と分析力は驚嘆に値し、良い意味で常軌を
逸する視点で創作された浪曲版の『死神』は、浪曲
しい実に切ない終わり方だ。

 

ネタおろし以来の『死神』。
太福さんは今までと少し内容を変えたと仰っていたが、
不気味さを強調したのがそのひとつだろうか。
ある落語家さん(遊雀師?)が死神は何故杖をついている
のだろう、という疑問を呈していたが、確かに、神的
存在であれば肉体的に衰えている必要性はない。
あるいは、杖は死神を表す記号なのだろうか。

 

唸りも三味線の音もとてもよく響いていた。
鈴さんの三味線はともすれば非常にアグレッシヴで、
今席も思わずうわ、と声なき声が出てしまうほどに
グルーヴィ―な音があった。

 

トークでは意外な話をたくさん聴けた。
百栄師が一般客として木馬亭に行かれていることを
初めて知った。いらしたら私服ですぐ分かってしま
いそうだ。

 

公演中、初めての場所のせいか緊張性の咳が出てし
まい、迷惑だったかもしれない。
『死神』は太福さんの十八番ネタとして、定期的に
拝聴したいネタのひとつになった。

温故知新(浪曲+落語+講談)

2022年4月23日(土)

 

「温故知新」(浪曲+落語+講談)

 須賀神社社務所

 

三遊亭好二郎『宗論』『二階ぞめき』

春風亭昇吉『牡丹燈籠』

昇吉&太福「トーク

玉川太福(伊丹 明)
清水次郎長伝「久六とおしゃべり熊」』

~仲入り~

柳家喬志郎『女百物語』より二席

 

 

小規模な会は主催者の個性が色濃く出る場合がある。
こちらの会はサロン的な雰囲気、ほぼ固定客で、
苦手な部類に入る。
あくまでも私個人の好みの問題で、そういう会の方
が好ましいと言う人もいるに違いない。
それが伝わるのか、主催者の態度は冷えていた。

 

しかし現時点で太福さんの次郎長伝連続読みを聴け
るのはこの会しかない。
今席ではいわゆるダレ場というか挿話じみている、
「久六とおしゃべり熊」が聴けると踏んで伺った。
昇吉師との妙な磁場が発生するトークを生で聴きたい
という心づもりもあった。

 

初めて伺った須賀神社社務所自体は畳敷きの居心地が
良い会場で安らかな雰囲気だ。
それがかえって異端者を際立たせるのだろうか。

落語は喬志郎師の「女百物語」が面白いと思った。
女性が主人公の擬古典新作シリーズ落語だが、男性
でありながら女性を主人公にした意図がやや不思議だ。
ハードルが一段高くなるのではないだろうか。
トークは期待したほど妙な磁場をダイレクトに感じられ
なかった。

 

そして「久六とおしゃべり熊」。虎造版の「久六の悪
だくみ」まで含まれるのだろうか。
普段滅多にかからない段、実に初めて聴けた!
「派」の縛りがあるとは言え、今このクオリティで次
郎長伝を演じられる浪曲師が他におられるだろうか。

 

これを聴けただけで有難い。もう何も言うまい。

第十七回玉川太福・柳亭市弥二人会

2022年4月18日(月)

 

「第十七回玉川太福・柳亭市弥二人会」

 @西新宿ミュージックテイト

 

柳亭市弥『千早ふる』

    『替り目』

~仲入り~

玉川太福・玉川 鈴
男はつらいよ第二十作「寅次郎頑張れ!」』

 

 

この日太福さんは末廣亭池袋演芸場と寄席の
かけもちで、池袋→末廣亭ならまだ良かったが、
末廣亭→池袋→西新宿、と行きつ戻りつになった
うえ、あいにく(お約束?)本降りの雨。

太福さん、鈴さんを待ちながら長めのマクラと、
軽妙で楽しくも直球の江戸落語を堪能。
市弥さんには独特のキラキラしたフラがある。
元々市弥さんの高座を拝聴する機会があまり
なかったが、太福さんとの当二人会で機会を得
て、スキルフルな高座に驚かされた。
(お前のようなうっすい客に言われたくない、と
叱られそうだが)

 

仲入り中、お二人が到着。ずぶ濡れで気の毒至極。
〽水もしたたる良い男~、と”太福のテーマ”の一節
が頭をよぎる。
今席の「寅次郎頑張れ!」はワット君幸子にスポッ
トバージョン。

この日のような「太福(・鈴)頑張れ!」な状況に接
すると、名状しがたい想いに駆られる。
端的に言えばいわゆる「推し」への、ファンゆえ
の切なさだ。

 

クレバーな大人ではないので自分が本当に興味があ
るものでなければ心は動かないし、ファンとして認
められたいがゆえにおもねることもできない。
ただ人間は死ぬまで成長する。演者のみならず、客
も何度も聴いているうちに変化するのは当然だ。
その変化が演者には伝わりにくいかもしれないが、
常に偽りはなく真剣だ。不快かもしれないが理不尽
と思えば理不尽と言ってしまう。よもやただの悪口
など言うはずもない。

イヤならやめろ、と右から左的に単純なことではない。
そのallusionが心臓を抉り、物理的な”不足"が絶望を生
んでいることなど、想像できないだろうけれど。

 

世迷言を書き連ねてしまったが、この二人会は市弥さ
んの真打昇進・小燕枝襲名に伴い8月が最終回とのこと。
目出度いが寂しい限りだ。

SWAクリエイティブツアー2022

2022年4月14日(木)

 

「SWAクリエイティブツアー2022」

 @新宿シアタートップス

 

柳家喬太郎『当世女甚五郎』

三遊亭白鳥日本海の英雄』

~仲入り~

林家彦いち『ごくごく』

春風亭昇太『ロマンス恋泥棒』

 

 

チケットをゲットしていたにもかかわらず、
仕事その他で2回行けず(リセールと正規譲
渡で無事行き先は決まった)、次は買えず、
で今回ようやく行けた。感慨無量。

 

小劇場の聖地と称される新宿シアタートッ
プスは初だったが、まったく意識したこと
がなかった。大変観易く聴き易い劇場だ。

 

今回のテーマは「秘密」とのこと。
開演前、終演後に流れるネタに因んだ映像
がとても楽しい。


白鳥師の「定吉」云々は酔っ払いの戯言と
ご自分で言うような直球下ネタだが、だい
ぶ前に故・赤塚不二夫がTVの密着ドキュメ
ンタリー番組か何かで、酔っ払って同じよ
うに”命名”して腹話術のような悪ふざけを
していたことを思い出した。一緒にいたお
仲間がひっくり返って爆笑していた。

何故記憶に残っているのか不明だが、おそ
らく疎外感を強く感じたからだと思われる。
老若問わず男性特有の連帯意識というのか
仲間意識に対して、子供の頃から二重の意
味で疎外感を感じるのだ。
人として、異性として。
下戸だから酔っ払いの”ノリ”も分からないし。

ホモソ―シャル、の一言では片づけられな
い強靭な結びつき。
今は女性にもシスターフッドという概念が
確立しているが、その領域はほとんど聖域
で近寄りがたいのだ。

ロックバンドに喩えればローリング・ストー
ンズのライブに行ったのと同じわけで、ただ
その場にいられただけで幸甚である。
強いて言えば最もテーマに沿って手堅かった
のは彦いち師だったと思う。
言わずもがなだが個人的見解だ。

次回は7月。果たしてチケット争奪戦に勝てる
だろうか?

浪曲浪漫~奈々福・太福姉弟会的な~

2022年4月9日(土)①

 

「渋谷に福来る2022SP
  ~奈々福・太福姉弟会的な~」

@渋谷大和田伝承ホール

 

奈々福・太福「おしゃべり」

奈々福・美舟『天保水滸伝「鹿島の棒祭り」』

太福・みね子『天保水滸伝「笹川の花会」』

~仲入り~

太福・みね子『浪曲偉人伝』

奈々福・美舟『シン・忠臣蔵』(作・柳家喬太郎)

 

 

「渋谷に福来たる」では初登場の浪曲姉弟会。

 

様々な理不尽に苦しみなかなか眠れず、不覚にも寝坊した。
開演時間が午前11:00というのもネックだった。
そのため残念ながら「おしゃべり」には間に合わず、
奈々福師匠の途中から。

 

玉川のお家芸天保水滸伝プチリレー読み、「笹川の花会」
はいつ聴いても素晴らしいが、太福さんは湯呑みを忘れた
とのことで、代用のマジック書き家紋が施された紙コップ
にどうしても笑ってしまう。

そして奈々福師匠の『カマ手本忠臣蔵』を聴けたのは収穫
だった。
アナクロニズムな演題を改めたのはさすがだ。
ゲイを笑うパロディではなく、よしながふみ『大奥』に対
するのと同じく、人間同士の美しい情愛の物語として真剣
に楽しく拝聴した。
演者さん自身も性別を超越した一人の浪曲師に見えた。

稀なる浪曲姉弟会、来年も期待したい。

 

蜃気楼龍玉・神田春陽二人会

2022年4月9日(土)②

 

「蜃気楼龍玉・神田春陽二人会」(第4回)

@らくごカフェ

 

田辺一記『阿茶局

神田春陽天保六花撰「丸利の強請」』

蜃気楼龍玉『鰍沢

~仲入り~

龍玉『ぞろぞろ』

春陽『復讐奇談「安積沼」』

 

 

この日は本来なら行くべき所があったはずなのだ
が、理不尽な理由でかなわなかった。
自分の感情(嫉妬その他)の問題ではない。
そのためどうしても他に行くべき所を探さなけれ
ばならなかった。
するとあまり時間は被らないが、願ってもない会
があることを知った。
招かれざる客になる可能性は否定できないが。
第4回にして初めて知った二人会。

 

「安積沼」は『小幡小平次』の原典的な話。
春先の怪談はねっとりとからみつくように怖かった。
そして何と言っても龍玉師の『鰍沢』。
後席が『ぞろぞろ』だったので、逆では?と思った
が。
コアなファンなら何度も聴いているネタだろうけれ
ど、私は生で聴くのは初めてだ。ずっと体感したかっ
たがようやく叶った。
らくごカフェの高座と客席の距離は、異空間の現前を
可能にしていた。
雪の白さ冷たさのリアリティに震え、お熊が構える銃
の鋭さが心に刺さった。
ずっと縷々血を流し続けている心に。

田辺凌天の会(第2回)

2022年4月8日(金)

 

「田辺凌天の会」(第2回)

 @らくごカフェ

 

田辺凌天『○○○○』

田辺一記『神子上典膳 甕割試合』

~仲入り~

凌天『染井桜の物語』(作:浦野とと)

 

 

凌天さんの勉強会第2回。
ネタおろしが不安なので前読みの前読みで、
と奥ゆかしい凌天さん。
その㊙ネタは以前師匠である凌鶴先生の口演
を拝聴したことがある。
明治時代の西洋寓話風のとても面白い話。

前読みとして一記さんを拝聴する機会がとて
も多く、講談にわか客が不遜なことを言うよ
うだが力の付き方が耳覚ましい。

『染井桜の物語』は浪曲版の『ソメイヨシノ
縁起』を玉川奈々福師匠の口演で拝聴したこ
とがある。同原作者の講談版もあると知った。
浪曲には節の強みがあり、講談には語りの強
みがあることがとてもよく分かる。

㊙ネタおろしに関してツイートをしくじり、
ご迷惑をおかけしてしまった。
謝罪してご容赦頂いたが癒えない傷になって
しまったかもしれない。
SNSにおいても”沈黙は金なり”。