太福たっぷり独演会(2024.8.23)
2024年8月23日(金)
「太福たっぷり独演会」
わ太/さと『青龍刀権次第一話「発端」』
太福/鈴『フジロックで唸ってきました物語』
~仲入り~
太福 テーマトーク「前座制度がない!?浪曲の
楽屋修業編」
太福/みね子『天保水滸伝「平手造酒の最期」』
オフィス10様主催の玉川太福さん独演会、今回で
初回から何回目になるのだろうか。
5年前の2019年7月が初参加だった。
現在は浪曲師太福さん一門、曲師みね子師匠一門
の合同会の様相を呈している。
開口一番のわ太さんは太福さんの一番弟子、さと
さんはみね子師匠の二番弟子だ。
わ太さんの長所は声の大きさと大師匠なみの高調
子で、『青龍刀権次』はその福太郎師匠の得意ネ
タだった。自分なりのクスグリを入れて、啖呵も
シャキシャキしているのでどんどん聴き易くなっ
てきているし最終話の大団円までどうなっていく
のか楽しみだ。
大師匠、師匠、弟子、と玉川の節が様々なかたち
で受け継がれていくのが客の立場としてとても嬉
しい。
太福さんの一席目は三度目くらいだが、途中で演
題が『清水次郎長伝』の「石松三十石船道中」を
もじった『フジロック唸り道中』になったので、
なるほど、曲師と一緒に石松よろしく敵陣(?)に
乗り込む道中記、となれば視点が定まって面白い
と思ったのだが、元の演題に戻ったのは何故だろ
う。「行って来ました物語」シリーズの一席とし
て統一したかったのだろうか。
出演されたのは例年鈴々舎馬るこ師匠がレギュラー
でご出演の「ところ天国」という青空寄席で、敵
陣というよりはロックフェスにおけるアジールAsile
(自由領域、避難所)のような場所だと思わされた。
今年のフジロックフェスはクラフトワークが来て
いたこともあり、行きたい気持ちはあったがやは
り無理だった。
仲入り後のテーマトークは太福さんの修業時代の話。
詳述は避けるが、落語や講談と異なり前座制度がな
い浪曲では定席に前座として通う習慣がなかったの
で、ほぼ同期の東家一太郎さんとともに自ら志願し
て木馬亭定席に毎日前座として入るようになったと
いうお話は以前どこかで伺った記憶があるが、賢明
なお二人ゆえ、浪曲師曲師の大看板大御所にリアル
に接して、苦労はあっただろうけれども芸事に大い
に有益な様々なことを吸収したに相違ない。
国本武春師匠もご存命だったのだから。
師匠のお着換え中、わ太き太のお弟子さん二人によ
る楽屋修業トーク。メインテーマはサウナ(笑)。
太福さん二席目は、事前にX(Twitter)で仰っていた、
「今日この日だから」のネタだが何だろう、と思っ
ていたが、会の冒頭で「今日はお見送りできません」
という言葉であっ!と察した。
そうだ「大利根河原の決闘の日」だ。史実では6日
のようだが。
浪曲版『天保水滸伝』は正岡容の脚色で玉川派のお
家芸。「平手造酒の最期」(駆け付け)は前段が講談
の「潮来の遊び」の段、ということは落語の『明烏』
のような場面から、さらに『文七元結』のような場
面を経て決闘へ、という流れだ。
太福さんはカン違いの節(ふし)を使われるが、激し
い戦闘場面の前だと嵐の前の静けさのような効果を
もたらして実に沁みてくる。啖呵のキレと格好良さ
は比類なく、最後に柝が打たれて決まった瞬間涙腺
が決壊した。
最近福太郎師匠の「平手の駆け付け」の音源を聴い
たこととテーマトークが影響したのかもしれない。
実に節と唸りは情を操る魔法だ。
余韻を引きずったまま帰りの電車でもまだ涙が止ま
らなかった。そして落ち着いてから考えた。ご本人
はネタおろし続きで多忙だし特別なことはやってま
せんが?という意識だったかもしれない。しかし今、
太福さんの唸りでみね子師匠の三味線で『天保水滸
伝』を聴けることの幸福を噛みしめた。
数十年後、この玉川のお家芸はどうなっているだろう。
太福さんの楽屋修業時代に現役だった大看板大御所
の浪曲師はほとんどの方が物故されてしまった。
今は落語の寄席で前座修行が出来るようになったと
は言え、それは浪曲の未来を考えるとき、避けられ
ない厳しい現実だと考える。
とっくの昔にいないお前などには関係ない、と言わ
れそうだが、その時、現役浪曲師が活躍する木馬亭
では、歴々たる浪曲師の残留思念ならぬ残留思”唸”
が渦巻いているのだろうか。