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感想ブログ~演芸(落語・浪曲・講談)etc.~

2022年の演芸と私

2022年の演芸と私

※極私的な偏った内容です。演芸界全体のことは把握しておりません。

 

2022年は昨年に引き続きコロナウイルスが収束することはなく、
12月31日の東京都の新規感染陽性者数は約1万2千人となっている。
ワクチンやマスクが鉄壁であるとは限らないが、感染確率の可能
性を減らすことは確実だと考えて実行している。

寄席や各会会場は依然として入場時の検温、マスク着用、飲食禁
止を徹底しており、今の所クラスター感染は発生していない。
自分自身も有難いことに感染することなく済んでいる。油断大敵だ。
一連の過程で「主催者」(席亭)にスポットが当たった年でもあった。
クラウドファンディングに成功して再開存続したり、惜しくも休業
を余儀なくされたり悲喜こもごもだが、なかでもオフィス10の主催
者の方の訃報には驚かされた。心よりご冥福をお祈りいたします。

 

2022年に拝聴した浪曲・落語・講談の席数は以下の通りだった
(配信視聴分は数に入れていない)。

 

浪曲…300席(うち185席は玉川太福師)

落語…208席

講談…80席

色物他…49席

 

 

浪曲

浪曲界での大きな出来事は、何と言っても5月8日に二代目東家浦太郎
師匠、同月21日に澤孝子先生が逝去されたことだろう。二つの巨星が
間を置かず落ちた現実に愕然とした。浪曲を聴き始めて日が浅いから
かもしれないが、現実感が希薄だ。
浦太郎師匠は病床に伏されて定席を休んでいらして口演に接すること
がほとんどなかった。痛恨である。現役時に是非口演を拝聴したかっ
た。
澤先生は木馬亭定席正月興行にトリで出演され、”蟹”などを聴けるの
ではないかといまだに思ってしまう。
そしてもうお一人、年頭に訃報を伺ったのは浪曲協会参与でいらした
天津妃祥(ひずる)さんだった。
衷心よりご冥福をお祈り申し上げます。

澤先生のお弟子さん澤勇人さんが10月15日開催の第55回豪華浪曲大会
において三代目広沢菊春を襲名されたことも大きな出来事だった。
澤先生はその晴れ姿をご覧になれなかったが、襲名されることは承知
されていたわけである。
個人的には初めて豪華浪曲大会に参加できたことがとても嬉しかった。

現役曲師の玉川祐子師匠が10月1日に100歳になられて、百寿のお祝い
の会が開催されたことも印象深い。曲師としてではなく、浪曲師とし
て口演されたのが驚異的だ。この会だけではなく、5月の木馬亭定席
企画公演でもトリをとられ同じく『越の海勇蔵』を浪曲師として口演
されている。5月にしては暑い日で満席の客席の熱気が半端なく、客
の方も熱中症で倒れるのではと危ぶまれるなか、最後まで演じ通され
て感動的だった。いずれも曲師は玉川みね子師匠で、終始祐子師匠に
寄り添う音と掛け声が素晴らしかった。
杉江松恋氏筆による伝記本も出版された(『100歳で現役!女性曲師の
波乱万丈人生』光文社2022)ので、浪曲界の生ける宝としてもっと世
間に周知されてほしいと願う次第である。

新宿末廣亭12月中席で初めて「浪曲交互枠」が設けられたのも画期的
歴史的な出来事だった。主任の神田伯山先生の計らいだ。
元々芸協に所属している玉川太福師は勿論、その姉弟玉川奈々福
のみならず、国本はる乃さんが含まれていたのが望外の喜びだった。
恐らく伯山先生が木馬亭定席講談の出番の日にはる乃さんの口演を聴
いての判断ではないだろうか。流石だ。
残念ながら末廣亭デビューには立ち会えなかったが、このまま浪曲
互枠が存続することを願ってやまない。そしていずれ太福師がトリを
取る浪曲メインの寄席興行を切望する。

引き続き東家孝太郎さんにも注目している。10月に開催された、
「温故知新」と銘打たれた木馬亭での独演会は、まさにその名にふさ
わしい盛りだくさんな内容だった。新テーブル掛け披露もあり、倍音
弾き語り浪曲は孝太郎さんにしかできない唯一無二の舞台だ。
ホーメイを筆頭に”音”に比重がおかれた浪曲は孝太郎さんの強みだと
思う。

玉川一門では玉川みね子師匠の若きお弟子さん玉川鈴さんの成長ご活
躍が目覚ましい。曲師の立場で勉強会を主催し、浪曲師をゲストにお
呼びして毎回才能の花を咲かせている。何故か太福師主導の道楽亭で
の会から参加皆勤である(望まれてないのに>笑。何故かタイミングが
合うんです)。今までのゲストはイエス玉川師、東家孝太郎さん、
玉川奈々福師、天中軒景友さんと錚々たる方々で、楽し過ぎる濃い内
容だった。次回もとても楽しみである。


2023年は大利根勝子師匠が引退を表明されて、2月25日に引退興行が
行われることが決定している。残念至極である。万難を排して馳せ参
じようと思う。
過去の名人の音源も含め今年も浪曲に親しんでいきたい。


2017年に初めて口演を拝聴して感激して以来緩く追いかけている
玉川太福さん。今年は去年より口演に接する機会が減ったと思っ
ていたが、あにはからんや増えていた。コロナ禍で中止になって
いた会がいくつか再開したからかもしれない。
以下、生き甲斐すなわちraison d'êtreの記録。

2022年の出来事を抽出。

①3月、芸歴15周年を迎え、木馬亭月例独演会で記念の会を開催
     7年講師を務められた新潮講座最終回
             MCの一人だったTOKYO-FM「ON THE PLANET」終了(涙)
②4月、テーブル掛け5点セット他を贈られる
➂6月、国立演芸場で初独演会。ゲストはなんと山田洋次監督!
     令和3年度花形演芸大賞銀賞受賞式
④8月、一番弟子のわ太さん命名
⑤9月、浪曲日本橋亭初主任。木戸にいらしてたじろぐ
⑥10月、わ太さん初舞台、定席デビューは2023年2月7日に決定。
    その頃二番弟子さんお披露目?
    劇団★ポラリス主催のオペラ劇『THE SPEECH』に主演。
    2023年3月再演決定。
⑦杉並区区政施行90周年記念事業の一環として杉並の偉人である
 『内田秀五郎一代記』を創作、各イベントで口演した。
⑧にわかに激増した”二人会”。神田松鯉先生との二人会は無論至
 極素晴らしく、好きな落語家さんの一人春風亭百栄師との初め
 ての二人会も楽し過ぎた。百栄師とご近所住まいということも
 初耳だった。
⑨創作話芸ユニットソーゾーシーとしての活動は、2020年、2021
 年に実施したクラウドファンディングを成功させての全国ツアー
 を2022年は実施しなかった。恐らく特に個人の活動に力を入れ
 たいメンバーの意向ではないかと”ソーゾー”する。
 

 

(丸数字は聴いた回数、は印象深い演目)

<古典>

清水次郎長伝「石松三十石船」』①
清水次郎長伝「久六とおしゃべり熊」』①
清水次郎長伝「次郎長と法印大五郎」』①
清水次郎長伝「勝五郎の義心」』①
清水次郎長伝「お蝶の焼香場」』①
清水次郎長伝「次郎長の計略」』①
清水次郎長伝「石松代参」』③
清水次郎長伝「本座村為五郎」』①
清水次郎長伝「代官斬り」』①
清水次郎長伝「石松と身受山鎌太郎』①
天保水滸伝「鹿島の棒祭り」』①
天保水滸伝「笹川の花会」』⑥
天保水滸伝「繁蔵売り出す」』②
天保水滸伝「蛇園村斬り込み」』①
天保水滸伝「平手造酒の最期」』①
『青龍刀権次第二話「召し捕り」』②
天保六花撰「河内山と直侍」』①
寛永馬術 梅花の誉れ』②
陸奥間違い』②
『祐天吉松 飛鳥山』④
阿武松』①
『茶碗屋敷』①
阿漕ヶ浦』①
『不破数衛門の芝居見物』④
『松阪城の月』①
中村仲蔵』①
『大石東下りより「武林の粗忽」』②
『忠治山形屋』③
『明石の夜嵐』⑥
『権三と助十』①
『誉の三百石』①
『紺屋高尾』③
原敬の友情』①
『若き日の大浦兼武』②
『死神』(脚本:稲田和浩)③

<新作>
『地べたの二人「おかずの初日」』⑤
『地べたの二人「十五年」』①
『地べたの二人「脱衣所の二人」』①
『地べたの二人「湯船のレボン」』④
『地べたの二人「おかず交換」』②
『地べたの二人「道案内」』①
『地べたの二人「十年」』①
『地べたの二人「湯船の二人」』①
『地べたの二人「愛しのロウリュ」』①
男はつらいよ第一作「恋する寅さん」』③
男はつらいよ第八作「寅次郎恋歌」』①
男はつらいよ第十一作「寅次郎忘れな草」』①
男はつらいよ第十五作「寅次郎相合傘」』①
男はつらいよ第十七作「寅次郎夕焼け小焼け」』⑤
男はつらいよ第二十作「寅次郎頑張れ!」』⑩
男はつらいよ第二十一作「寅次郎我が道を行く」』②
男はつらいよ第二十二作「噂の寅次郎」』④
男はつらいよ第二十三作「翔んでる寅次郎」』⑧
男はつらいよ第二十四作「寅次郎春の夢」』①
『サカナ手本忠臣蔵1「サンゴの廊下」』③
『サカナ手本忠臣蔵2「赤穂城明け渡し~山科閑居」』①
『サカナ手本忠臣蔵3「オオイカ東下り」』②
『サカナ手本忠臣蔵4「赤エイ源蔵徳利の別れ』①
『サカナ手本忠臣蔵5「岡野キンキ門絵図面取り」』②
『サカナ手本忠臣蔵6「魚士討入り」』①
『任侠流れの豚次伝「流山の決闘」』(作:三遊亭白鳥)①
『任侠流れの豚次伝「豚次誕生秩父でブー!」』②
『任侠流れの豚次伝「雨のベルサイユ」』③
『任侠流れの豚次伝「天王寺代官斬り」』①
『任侠流れの豚次伝「男旅牛太郎」』①
『任侠流れの豚次伝「上野掛け取り動物園」』①
『J島S伝』②
浪曲偉人伝』⑥
『サウナ探訪#1』①
『北の国へ’22』③
『悲しみは埼玉に向けて』(作:三遊亭円丈)➂
東海大学落語研究部物語』②
『祐子のセーター』②
『楽しい旅の思い出♪』①
『自転車水滸伝~ペダルとサドル~』②
『問わず唸りの玉川太福』④
『祐子のスマホ』⑮
『小山に行って来ました物語』①
浪花節爺さん』(作:稲田和浩)②
『ご当せん』①
内田秀五郎一代記』①
佐渡へ行って来ました物語』①
『銭湯激戦区』①


清水次郎長
現在月に一度の連続読み続行中。次郎長伝はいわゆる”ダレ場”
もとても面白いがなかなか聴ける機会がない。「久六とおしゃ
べり熊」はダレ場というより外伝じみた話だが、実に初めて
聴くことができて感慨無量だった。
「代官斬り」は次郎長伝の山場のひとつだが、意外にあまり
聴く機会がない。柳家小せん師との二人会でのトリの一席は
客が集中する重力を犇々と感じる熱演で、素晴らし過ぎた。
終演後、自分も含め皆放心状態で帰ったのを覚えている。

任侠流れの豚次伝
5月に道楽亭で五夜連続独演会を開催。次郎長伝と交互に口演
するという偉業だった。配信視聴者200人越え、しかし…?
6月には原作者である三遊亭白鳥師が池袋演芸場主任の際、日
替わりで異なる落語家さんがトリをとる豚次伝連続興行を行い、
奇しくも豚次伝祭り月間となっていた。
豚次伝は極個人的な理由で苦手(内容ではない)だったが、普遍
的な物語性の素晴らしさに遅ればせながら気づかされた。
バカバカしさ(褒め言葉)と任侠の格好良さが同居する奇跡。さ
らに太福師は本家の次郎長伝も演じることが出来る。究極のバ
カバカしさと格好良さを両方演じることができる浪曲師、素敵
過ぎないだろうか?
2023年は「豚次伝の年」で広島で全話連続読み口演を開催する
とのことだが、是非東京でも開催して頂きたいし、演者さんに
とってはかなりの負担になるだろうけれども本格的な次郎長伝
とのダブル連続読みも期待したい。

明石の夜嵐
玉川福太郎師匠の持ちネタで、立川談志家元がお好きだった
浪曲師の一人、東武の十八番だった。歌舞伎の『伊勢音頭
恋寝刃』が元ネタでその前段とのことだが、詳細は不明。
ネタおろし後一時期頻繁に聴いたが徐々に聴かなくなった。
講談の『古市十人斬り』にその段があり、宝井梅湯さんが連続
読み公演をされていたが残念ながら聴く機会に恵まれなかった。

権三と助十』『誉の三百石
6月の浪曲映画祭での口演で、非常に久し振りにかけられたとい
う二題。『誉の三百石』はほぼ講談の『荒川十太夫』にあたる。
とにかく聴けただけで嬉しかった。

紺屋高尾
落語の「高尾」は男性のファンタジー要素が強く感じられて苦手
だが、太福師の「高尾」はとても好きだ。節が自ずとカタルシス
に導いてくれるからだろうか。
十五周年記念の会、誕生日(偶然)、3年振りのペニーレイン寄席
で聴けてことのほか嬉しかった。

男はつらいよ第二十三作「翔んでる寅次郎」
当初は「男はつらいよ」シリーズの良さに気付けなかったが、
太福師がライフワークとして全浪曲化に取り組まれているお
かげで映画を観るうちに気づくことが出来て感謝している。
寅さんの音楽のような台詞の素晴らしさと同時に、「語らな
い」人情の機微が切なく胸に響く作品だ。
中村雅俊大竹しのぶがはまった第二十作「寅次郎頑張れ!」
を頻繁にかけられていたが、桃井かおり布施明の第二十三作
はどんどんデフォルメされていく桃井かおり布施明の歌が肝
だった。いずれも寅さんは脇役じみていたが、2023年初回の第
二十五作は浅丘ルリ子演じるリリーがマドンナの「ハイビスカ
スの花」なので大いに期待できる。

サカナ手本忠臣蔵
手探り状態で始まり終わった?感があるが無事に大団円を迎え
た。とにかくネタおろし口演後の勉強会が至極楽しい会だった。
色々な意見、指摘に感心させられたし感想への反応がすぐ返っ
てくるのが有難かった。
5「岡野キンキ門絵図面取り」のリサイタル展開に度肝を抜かれ、
6「魚士討入り」大団円のまさかの客参加型に爆笑。勉強会でそ
のことを「白鳥師っぽい」と指摘されて不本意な「つーん」顔に
更なる爆笑。「エイエイ魚(うお)ー!」と叫んで一緒に討入る展
開楽し過ぎました。是非通し公演をお願いしたい>らくご@座様

祐子のスマホ
玉川祐子師匠百寿記念、および暮の花形演芸会ネタ出し口演に
向けて頻繁にかけられていた。結果、トータルで15回拝聴しま
した>笑。フルだとカン違いの節が入るのが意外で面白かった。
令和四年度花形演芸会金賞または大賞を受賞されることをお祈
り申し上げます。

忠治山形屋
いつ聴いても素晴らしいが、今秘かに勝手に一番拝聴したいと
思っているのは太福師による国定忠治全編連続読みである。
「忠治唐丸駕籠破り」
「火の車お萬」
「赤城の血煙り」
山形屋乗り込み」
「名月赤城山
を通しで聴く…想像するだけで楽しみ過ぎて眩暈がする。
私が死ぬまでに叶うだろうか?



 

 

《落語》

 

◉2022年も名だたる落語家が物故されたが、なかでも9月に
亡くなった六代目三遊亭圓楽師逝去は印象深かった。
◉チケットをゲットしていたにもかかわらず二度見送ってい
SWAの公演にやっと行けた(チケットは無駄にしたわけでは
なくリセールと譲渡した)。
五街道雲助師一門の会「師弟四景」に初めて伺い、雲助師
の『浪曲社長』を拝聴できたのは望外の喜びだった。
◉11月21日、立川談志家元のご命日に3年振り開催の立川流
志まつりに参加できた。談春志らく師が同じ舞台に立つのを
久し振りに観られて感慨無量だった。
 

<立川談春師>
2010年に初めて生高座に接して以来緩く追いかけている。
2022年は近年かけていなかったネタを積極的にかけている印象
を受けた。『猫定』、慶安太平記、『妲己のお百』『うどん屋
など。
黄金週間に浅草公会堂で連続独演会を行うことが恒例となった
ようだが、全日馳せ参じられなかったのは不徳の致すところで、
妲己のお百』や慶安太平記ネタを聴けなかったのは痛恨。
また、従来のネタの改作に挑み、『死神』『芝浜』はシン・~
と付けたくなるほど改編されていた。ここにきて”闘う談春”再び、
の感がある。
2023年は大河ドラマ出演、弟子のこはるさん真打昇進(小春志
改名)など、注目度が高まることが予想される。何故か九州から
始まる柳家三三師との圓朝噺しばりの二人会も興味深い。続いて
追いかけていきたい。
(中世じゃあるまいし祓わないでほしい)

 

<三遊亭白鳥師>
未来の圓朝と言われ、密かに「無意識のポストモダニスト落語
家」と呼んでいる白鳥師。
6月の池袋演芸場主任の際、異なる演者さんが日替わりで「流れ
の豚次伝」をかける特別興行をプロデュースし、連日立ち見が
出る盛況だった。私は三三師「悲恋かみなり山」の日にしか行
けなかったが改めて白鳥師のストーリーテリング力に感心させ
られた。
11月の鈴本演芸場主任興行では「落語の仮面」まつりを開催。
久し振りに聴く「二人の豊志賀」は楽し過ぎて苦しくなるほど
笑った。
コアなファンの方々が立ち上げたらしい、かつての「ヨチヨチ
スワン」に通じるネタおろしメインの「白鳥の巣」の会はいつ
も刺激的で楽しいのでこれからもできる限り伺いたい。

 

<蜃気楼龍玉師>
オンライン高座はご多分にもれずあまり乗れないのだが、龍玉師
に限ってはリアル高座に比べさほど遜色なく視聴できるのが不思
議だ。恐らく龍玉師のフィクショナルな存在感が理由だと思う。
客席と高座が近くとも現実感が希薄で、容易に虚構世界に入って
いけるうえ、逆説的にフィクションにリアリティを感じることが
出来る。
シブラクで十八番の『豊志賀の死』を配信視聴したが、1時間越え
の熱演で素晴らしかった。
8月の本田久作氏脚色による「牡丹燈籠」3夜連続興行は心が震えた。
恐ろしさ、美しさ、艶めかしさが真に迫ってきて陶然となった。
50歳となり円熟味を増す龍玉師にこれからも注目していきたい。


 

 

《講談》

 

2022年は木馬亭講談会に一度、一龍齋貞橘先生の貞橘会には二度
しか行けなかったことが心残りで宝井琴星先生をもっと拝聴した
かった。宝井梅湯さんが2024(令和六)年春に真打昇進決定とのこと、
お目出度い。

 

<神田松鯉先生>
9月、分不相応なクローズドな会にお声がけ頂き、松鯉先生の貴重
芸談随談と『男の花道』を拝聴する機会に恵まれて非常に有難かっ
た。改めて先生の人物の大きさ奥深さを実感し、その人間性が滲み出
る『男の花道』の気高い報恩の情に涙した。とにかく御声に説得力が
あり過ぎる。
9月28日は先生のお誕生日で、十月大歌舞伎で先生の『荒川十太夫
が歌舞伎化される記念と合わせて、お弟子さんの神田伯山先生と歌
舞伎座で親子会の快挙となった。講談師が歌舞伎座の舞台に立つの
は97年ぶりとのことである。
松鯉先生は過去に歌舞伎役者の時代を過ごされているので何ら遜色
がなかった。人間国宝でいらっしゃるのだから当然かもしれないが。
私はひねくれたワーキングクラス意識で歌舞伎を敬遠しているので、
演芸界の演者さん@歌舞伎座というと、2008年の談志家元と談春
の親子会か、イエス玉川師匠の年明け披露興行(?)の方を身近に感じ
てしまう。
それはともかく先生が主任の夏の怪談興行、冬の義士伝興行にはこ
れからもできる限り伺いたい。


<田辺凌鶴先生>
なかなか会に伺える機会がなく残念至極だが、”ネタのデパート”と称
されるほど古典新作縦横無尽にネタをお持ちで、5月に拝聴した『東
京大空襲』、9月に拝聴したお使いのシェアハウスにお住いの方の実
話を元に創作された『満月の猫』は余韻が残る感動的な講談で、後者
は是非シリーズ化して頂きたいと思った。そしてもっと多くの人に聴
かれるべきで心底勿体ないとも思う。今年はもっと伺える機会が増え
ることを切に願う。