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感想ブログ~演芸(落語・浪曲・講談)etc.~

2021年の演芸(私家版)

極私的で偏った自分の守備範囲内のみの内容です。
 演芸界全体のことは把握しておりません。

 

2021年はコロナウイルス感染者が全国で一桁台となり、
政府や東京都による制限が緩和された年であった。
多くの会場や寄席で50%に縮小されていた客席数が、感染
対策徹底を前提としつつほぼ100%に戻り、大入り満席が
叶うまでになった。

制限下の苦肉の策であったネット配信は、ライヴとのハイ
ブリッドや全国に届けられるという最大の利点を生かして
エンターテインメント供給の一手段として定着した。しか
し如何せんライヴに勝るものではない。大手新聞社等が主
催の場合は実際の木戸銭より安価でアーカイヴの期間も長
いが、諸事情があるだろうとは言え、チケット代がライヴ
と配信同額で、アーカイヴ期間が24時間という会はかなり
厳しい。最低3日間はほしい、というのは受け手側の我儘
でしかないのだろうか。

このまま終息の一途を辿るかに見えたコロナウイルスは、
新たに変異発生したオミクロン株の感染者がじわじわと
増えて来ており、予断を許さない状況である。



2021年は、演芸界で訃報が相次いだ年だった。
落語界では柳家小三治師、川柳川柳師、笑福亭仁鶴師、
三遊亭円丈師、立川らく朝師、元立川流桂文字助師。
三遊亭多歌介師はワクチンを拒否してコロナウイルス
に感染し若くして亡くなった。
講談界では八代目一龍齋貞山先生。
浪曲界では初代真山一郎先生、五月小一朗先生。
漫才界では正司歌江師、昭和こいる師。
自分の守備範囲の狭さで把握できない方々も。

最も辛い訃報は浪曲師の五月小一朗先生だった。
会に伺おうと思いつつ、なかなか機会を作れず
にいたところ、突然の逝去に吃驚した。
何故一度でも伺わなかったのだろう?悔やんでも
悔やみきれない。
心からご冥福をお祈りいたします。



2021年に拝聴拝見した演芸の席数は455席だった。
(一席1カウントで、視聴料を払った配信も数に入
れている)

浪曲214(うち150は玉川太福さん)
落語146
講談51
色物他44



浪曲

◉2021年は浪曲の寄席とも言える木馬亭50周年記念の
 会が多数行われたため、通常より木馬亭に足を運ん
 だ回数が多かった。他にも国本はる乃さんの年明け
 5周年の会、2021年限定の木馬亭「夜席」など、印
 象深い会も多数あった。
 名人師匠方の過去の音源を聴くことにも自分なりに
 力を入れ、特に玉川福太郎師匠、玉川桃太郎師匠の
 音源をできる限り聴いた。
 そして浪曲を「曲」としてみれば関西節が主流なの
 は確かだが、改めてやはり関東節が好きなのだな、
 と自認した。
 客として役割意識や使命感は持していない。浪曲
 落語同様にもっと一般受けすればいいと考えるが、
 ただ聴きたいから聴いている。
 その過程で少し深く知りたければ調べる。
 それだけだ。


◉今年も例年通り2017年以来緩く追いかけている
 玉川太福さんの会(寄席含む)に最も多く伺った。
 以下、内訳を記す(丸数字は聴いた回数、は印
 象深かった演目
)

『青龍刀権次一 「発端」』③
『青龍刀権次二 「召し捕り」』③
『青龍刀権次三 「爆裂お玉」』②
『青龍刀権次四 「血染めのハンカチ」』③
『青龍刀権次五 「美人殺しの真相」』②
『青龍刀権次六 「大団円・権次の改心」』②
清水次郎長伝 「次郎長出立」』①
清水次郎長伝 「石松三十石船」』⑤
清水次郎長伝 「石松代参」』①
清水次郎長伝 「代官斬り」』①
清水次郎長伝 「石松と都鳥一家」』①
清水次郎長伝 「石松と身受山鎌太郎」』①
清水次郎長伝 「石松の最期」』①
清水次郎長伝 「勝五郎の義心」』②
天保水滸伝 「繁蔵売り出す」』③
天保水滸伝 「鹿島の棒祭り」』③
天保水滸伝 「蛇園村の斬り込み」』②
天保水滸伝 「笹川の花会」』②
天保水滸伝 「平手造酒の最期」』①
天保水滸伝 「繁蔵の最期」』①
『祐天吉松 「飛鳥山親子対面の場」』②
不破数右衛門の芝居見物』④
『武林の粗忽(大石東下り)』②
愛宕山 梅花の誉れ』⑤
陸奥間違い』④
太閤記 長短槍合戦』③
阿漕ヶ浦』②
松坂城の月』①
梅ヶ谷江戸日記』②
阿武松』④
『茶碗屋敷』⑤
『忠治山形屋』①
中村仲蔵』②
天保六花撰 宗俊と直次郎』①
『死神』③
俵星玄蕃』①
『サカナ手本忠臣蔵1 「刃傷サンゴの廊下」』③
『サカナ手本忠臣蔵2 「赤穂城明け渡しと山科隠棲」』②
『サカナ手本忠臣蔵3 「オオイカ東下り」』④
男はつらいよ第一作 「恋する寅さん」』②
男はつらいよ第十一作 「寅次郎忘れな草」』①
男はつらいよ第十六作 「葛飾立志篇」』①
男はつらいよ第十七作 「寅次郎夕焼け小焼け」』③
男はつらいよ第十八作 「寅次郎純情詩集」』④
男はつらいよ第十九作 「寅次郎と殿様」』②
男はつらいよ第二十作 「寅次郎頑張れ!」』①
浪花節爺さん』①
『悲しみは埼玉に向けて』③ 
『任侠流れの豚次伝 「流山の決闘」』①
豆腐屋ジョニー』②
『地べたの二人 「十年」』②
『地べたの二人 「おかず交換」』①
『地べたの二人 「おかずの初日」』④
『地べたの二人 「湯船の二人」』③
『地べたの二人 「道案内」』①
『地べたの二人 「愛しのロウリュ」』②
『地べたの二人 「JAFを待ちながら」』②
三ノ輪橋とか、くる?』④
『自転車水滸伝~ペダルとサドル~』①
『銭湯激戦区』②
ああ、もう本当に本当に~良かったぁぁぁ』①
『サンバが正解』②
がらけぇ兄弟ぇ』②
『続・がらけぇ兄弟ぇ』①
『サウナの子』①
『コの字こわい』②
『宝毛』①
『緑の短いの』①
『付け根攻め』①
『悲しみの無線』①
『うーる』①

◎6月末に2日に渡り「青龍刀権次連続読み」公演が
 行われたが、後半~大団円の部分が自身で納得で
 きず、翌月初めの月例独演会で再演するという事
 態になった。決して出来が悪いとは思えなかった
 が、ご自身の芸に対する矜持を頼もしく思った。

◎『茶碗屋敷』を頻繁に掛けられていた理由は不明。

◎みね子師匠のお弟子さん鈴さんが成長著しい。

◎ラジオ番組TOKYOFM「ON THE PLANET」火曜日の
 パーソナリティを担当されているが、過去の名人の
 音源を流して解説する深夜3時の浪曲コーナーが、
 リスナーが浪曲作品を投稿する方式に変わったこと
 はけっこう大きな変化だと思う。
 深夜にリスナーの浪曲作品を即興で唸る苦労が偲ば
 れるが、毎週火曜深夜がハガキ職人以上に楽し苦し
 い日として定着した。


清水次郎長伝「勝五郎の義心」

 外伝めいた話だが、虎造先生でしか聴いたことが
 なく、太福さん版を初めて聴いた。

阿漕ヶ浦』は玉川一門で最初に師匠から習う前

  座浪曲(?)であるらしい。太福さんが一番最初に
  習ったのは『不破数右衛門の芝居見物』で、
 『阿漕ヶ浦』はその次だったそうなのだが、実に
  初めて拝聴して感慨深かった。つまり4年間か
  けていなかったということになる。

男はつらいよ」は第十七作~二十作の4作品が
  浪曲化された。名作の第十七作「寅次郎夕焼け
  小焼け」、続く第十八作「寅次郎純情詩集」も
  見事な浪曲化で、編集・脚色力に客ながら唸ら
  された。
  年末にネタおろしされた第二十作「寅次郎頑張
  れ!」は少し顔が似ている中村雅俊(ワット君)、
  落語『湯屋番』のごとき妄想大爆発ないわゆる
 「寅のアリア」の再現力は素晴らしく、節も場面
  場面に合致していた。今年も期待大である。

「サカナ手本忠臣蔵」。赤穂義士が魚介類、世界
  は海の底。何故?と問うのは野暮な勉強会。
  名前縛りで魚が全然出てこないのがツボ。
  その3「オオイカ東下り」はハマった感あり。
  とにかく真剣に遊ぶ凛々しさに若干の羞恥が
  垣間見えて眩しい限り。

三ノ輪橋とか、来る?』は初期作品で、昨年某席亭
  氏の勧めで久し振りにかけて以来、客受けが良いた
  めかけておられたが、ジェンダーコンプライアンス
  に抵触する部分がある。最近の新作『付け根攻め』
  でも思ったことだが、育ってきた環境や資質的に、
  ジェンダー観が古風な方なのだろうか。客(落語や
  浪曲を日常的に聴きに行く)受けが良いということ
  は、素直に笑えない私がマイノリティ野暮客とい
  うだけなのか…奇を衒わない新感覚のコントユニッ
  トダウ90000の方々が観たらどう思うかとても知り
  たい。

『銭湯激戦区』の電気風呂の場面に登場する「リッチ」
  のマスターが亡くなられたという悲しいご報告。
  しかしマスターはこの浪曲のなかで永遠に生きられ
  るのですね。

『サンバが正解』の1回は、太福さんがスタンダップ
  メディアン・俳優の清水宏さん主宰の「ひとり舞台
  フェスティバル」に出演した際のもので、太福さんは
  浪曲のルーツ話芸デロレン祭文を目論み法螺貝を手に
  登場して度肝を抜かれた。後日清水宏さんは月例独演
  会にゲストとして出演されたので、話芸の至芸にライ
  ヴで接することができたのも望外の喜びだった。

『死神』は落語で有名な圓朝噺だが、稲田和浩先生脚本
  により初めて浪曲化された。稲田先生の特異にして独
  自な視点が光る脚本、浪曲ならではのオチが切なく、
  節の配分も見事で、ネタおろしだが完成度がとても高
  く感じられた。恐らく太福さんの十八番として後世ま
  で唸り継がれていくのではないだろうか。

俵星玄蕃』も引き続き(翌日!)ネタおろしされた。
  歌謡浪曲がやや苦手な身にとっては、啖呵・節のみで
  構成されている方が聴き易い。これからどういう風に
  変化成長していくのか楽しみである。

『うーる』は創作話芸ユニットソーゾーシーの新ネタ。
  配信でしか視聴していないし詳細は書かないが、冒頭
  で涙ながらに爆笑してしまうので、ライヴで観たらど
  うなるのか、期待と不安が入り混じった気持ちでいる。
  そしてある場面でのみね子師匠の三味線が演出上アグ
  レッシ
ブで素晴らしい。


東家孝太郎さんにも注目した。
 4月と6月に行われた義士伝に特化した会は、稲田和浩先生
 が書かれた台本、
 『赤馬と殿様』(吉良方に光を当てた外伝)
 『原惣右衛門 早駕籠第二の使者』(老骨に鞭打つ義士の心
  情を描く義士銘々伝)
 『鍔屋宗伴』(浅野内匠頭の近習役だった侍が出奔して道具
  屋になる義士外伝)
 を中心とした公演で、稲田先生の視点の妙が冴え渡るとて
 も興味深く面白い内容もさることながら、孝太郎さんは登
 場人物の複雑な心情を的確に表現されていて素晴らしかっ
 た。大師匠が野口甫堂名義で書かれた、義士総出演の趣き
 の『討入り当夜 小林平八郎の最後』は問答無用のカッコ
 良さで痺れるのみ。
 10月には初の木馬亭独演会が開催され、期待に胸を膨らま
 せて伺い、得意の侠客物と「倍音トリオ」による倍音
 ショーで構成された盛りだくさんの内容を満喫した。

 今年も是非引き続き注目したい。




《講談》


◎講談は三大話芸のうち最も聴き始めて日が浅く、定席には
 未だ伺ったことがないくらいのにわか客だが、徐々に目当
 ての演者さんが特定されてきつつある。


神田松鯉先生
 夏は怪談、冬は義士伝の恒例末廣亭トリ興行。昨年暮は読
 まれる機会が少ない『鍔屋宗伴』の日があったので、満席
 に臆しつつ伺った。講談で聴くのは初めてで、滑稽噺的な
 要素が強いことが意外だったが、耳目が釘付けになる素晴
 らしい高座で、終演後万雷の拍手が暫く止まなかった。


宝井琴調先生
 暮れの恒例鈴本演芸場で行われる「琴調六夜」。一夜しか
 伺えず残念だったが、年末に拝聴する清貧伝(『富くじ千両
 当り』)は心身に沁みた。講談師に出囃子はないが寄席に出
 演する場合はあって、琴調先生は談志家元と同じ『木賊
 り』なので、つい動揺してしまう。


田辺凌鶴先生
 拝聴したいと思いつつなかなか機会がなかったが、木馬亭
 定席の講談席に出演されていて、一番拝聴したかった『玉
 川上水の由来』を聴くことができた。
 赤穂義士外伝『鍔屋宗伴』をネタおろしされると知りなが
 ら伺えなかったのが残念でならない。今年はもっと会に伺
 う機会を増やしたい。


一龍齋貞橘先生
 一昨年以来ひと月に一度行われる「講談貞橘会」に都合が
 つく限り伺っているが、今年印象深かったのは亡き師匠仕
 込み(?)の立体怪談形式の『西洋恐怖講談 ドラキュラ伯爵』
 だった(『勧進帳』じゃなくてすみません)。
 この会に前読みやゲストで出演される方が目当てになる場
 合があるので、そういう意味でも有難い会である。


宝井梅湯さん
 玉川太福さんとの二人会に毎回伺っているが、直近の会で
 の宝井琴星先生作『戸来村キリストの墓伝説』は出色最高
 だった。話そのものが空前絶後な面白さのうえ、太福さん
 の曲師鈴さんが三味線で伴奏をつけるという粋な計らいが
 功を奏し、愉し過ぎて動悸が激しくなってしまった。
 琴星先生の近代建築のような和洋折衷講談は本当に面白い。
 この会の前読みをつとめられていて二つ目に昇進された、
 凌鶴先生のお弟子さんの田辺凌天さんにも注目している。




《落語


◎昨年はコロナウイルス対策の一部が緩和され(席数50%→
 100%、アクリル板撤廃等)トリ目当てに寄席に行く機会
 が増えた。寄席はやはりトリがメインのチームプレーの
 面白さが際立つことを再認識した。


立川談春師匠

 2010年に初めて独演会に行って以来追いかけている。
 ファン歴12年目に突入したが、コロナ禍のためか、
 東京での独演会の数が激減した。
 昨年10月の弟弟子を意識したかのようなよみうり
 ホールでの会は、ネタ出し『死神』『らくだ』で、
 いずれも新解釈により進化した内容だったが、良席
 を買えたにも関わらず自分のコンディションが悪く、
 集中して聴けなかったのが残念極まりなかった。


三遊亭白鳥師匠
 秘かに「無意識のポストモダン落語家」と呼んでいる、
 新作創作落語の雄のお一人。ファンの方による新しい
 会が発足したり、無観客配信高座他、精力的に活動さ
 れている。
 その新・独演会でネタおろしされた『鬼灯渦巻草子』
 は、”未来の圓朝”たる本領発揮の傑作怪談噺だった。
 白鳥師の創作連続ものには普遍性があり、他の演者
 さんが多数演じている。「流れの豚次伝」「落語の
 仮面」然り。これは物語巧者である証拠だ。この怪談
 も連続物になる可能性を孕んでおり、
 「雲助師、喬太郎師、三三師にやってもらいたい」
 と仰るのを聞き、最初からそれを意識して作っている
 と知って感心し尊敬の念を抱いた。


春風亭百栄師匠
 同じく新作創作落語の雄のお一人で、独特の世界観を
 持した落語家さん。新しく発足した会での『状況説明
 窃盗団』は極め付けだった。『露出さん』はもう名作
 の域に達している。


蜃気楼龍玉師匠
 2018年当時まだ二つ目の松之丞さんとの二人会「大江
 戸悪人物語」で拝聴してファンになり、緩く追いかけ
 るようになった。松之丞さんとは過去に「殺人研究会」
 なる物騒な名称の、人殺し噺に特化した二人会をされ
 ていたが、その頃に出会いたかったと後悔すること頻
 りである。
 昨年10月に国立演芸場であった『女殺油地獄』(本田久作
 脚色)の会は、正夢を見ているようだった。御本人は嫌が
 られるかもしれないが、人としての実在感が希薄で、容
 易に異世界を現出させる魅力を持している。


立川笑二さん
 渋谷らくごの配信で視聴した『長短』が、驚天動地の
 面白さだった。師匠に連なる改作の雄、となるのだろ
 うか。他の噺も含め是非生高座を拝聴したいと思わせ
 られた。


三遊亭小とりさん
 演芸界ユニット全盛のなか、アンチテーゼのように一人
 ユニット(?)「孤鳥」を立ち上げた落語家さん。デザイン
 センスを生かして多数のグッズを販売するなど多才だ。
 今年は是非会に伺いたい。


林家正楽師匠、林家楽一さん
 毎年紙切りのお題を出して作品を頂きたいと思いつつ、
 勇気が出ずタイミングをはかれずにいる。
 昨年末の「琴調六夜」でヒザだった紙切りの至宝正楽師
 の、”クリスマスツリー”のお題に対する作品が大変素晴
 らしかったので記憶に残っている。
 お題を出した人にこだわりがあり、トナカイを2頭入れて
 ほしいという。正楽師はトナカイ2頭で象ったツリーを切
 られ、それがあまりにも見事だったので客席から歓声が
 上がった。自分も涙腺が緩むほど素晴らしい作品だった。
 今年も正楽師、またはお弟子さんの楽一さんに紙切り
 お題を出して作品を頂くのがひとつの目標である。