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感想ブログ~演芸(落語・浪曲・講談)etc.~

第十四回玉川太福”月例”木馬亭独演会

2018年12月1日
「第十四回玉川太福”月例”木馬亭独演会」
 @浅草木馬亭



玉川太福・玉川みね子
『青龍刀権次「発端」』
澤孝子・佐藤貴美江
『徂徠豆腐』
〜仲入り〜
太福・みね子
中村仲蔵

 


太福さんは古典二席だったのだが、いずれも師匠
二代目玉川福太郎の十八番であり、澤孝子先生に
配慮された選択なのでは、と思わせられた。
『青龍刀権次(一)「発端」』は、先日発売したCD
古典編の一席、『青龍刀権次(二)「召し捕り」』に
繋がる。


澤孝子先生『徂徠豆腐』。講談、落語にもある演目
で、志の輔師の高座を拝聴して以来である(2013年
立川流談志まつり)。柔和な表情から繰り出される濃
密な節回しに圧倒された。

いくら忠義に則っていようとも、法に則らなければ
尊い志も徒花となる。
「武士の大刀は敵を斬るため
に、小刀は自らを斬るためにある」。先ず自らを斬
れない者は武士に非ず。至極冷徹だが、世の理(こと
わり)の切なさをも含む言葉である。

この段にきて耐え切れず涙腺が緩んで涙が二筋三筋
と頬を伝った。


曲師の佐藤貴美江師匠も初聴きだった。浪曲につい
ては(も)俄かのど素人だが、はっきりと三味線の音
に艶めかしさと深さが感じられ、陶然としてしまった。
総じて、終始澤孝子先生の何ものをも撥ねつける存在
感、声、節、啖呵に耳と目が釘づけとなった。


太福さんは開演後早々のマクラで、仲入り後、皆澤孝子
先生の余韻を失わじ、とばかりに抱えて帰ってしまい、
つ離れぐらいしか客が残ってないんじゃないか、と仰っ
ていたのだが、いや、そんなことはないでしょう御冗談
を、と思っていたが、あながち間違いではなかった。


しかし仲入り後、衝立が外れてみね子師匠のお姿が拝見
できる状況、噺家スタイルで座布団に見台、で「名題
というのは…ときてえ?まさか『中村仲蔵』?忘我の境
に突入。初めて太福さんとみね子師匠の口演に接した時
のことを想起し、暫し感慨に耽った。


中村仲蔵』もまた、落語、講談にもある演目だが、
浪曲には確実に他の芸能とは異なる「快感原則」が存在
する。節、啖呵、三味線の音の三種の快楽が。望外なる
濃密で幸福な時間、堪能させて頂きました。