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感想ブログ~演芸(落語・浪曲・講談)etc.~

遊雀式スペシャル

2018年11月13日
遊雀スペシャル~遊雀・太福・
                        松之丞三人会~」
  @深川江戸資料館小劇場





玉川太福・玉川みね子
不破数右衛門の芝居見物』

神田松之丞『中村仲蔵
~仲入り~
三遊亭遊雀『淀五郎』



忠臣蔵ゆかりのはなし」で三扇会、がコンセプト
のようだったが、義士が出てくるのは最初の『不破
数右衛門の芝居見物』のみで、あとの二席はどちら
かと言えば芝居(役者)がテーマの演目である。


三席とも生で拝聴するのは初めてで、特に太福さん
は何席も拝聴しているにも関わらず、この演目は初
である。会の流れとして仕方がないとは言え、松之丞
さんより先輩である太福さんがトップ(膝代りかのよう
な)である、ということに忸怩たる思いの「大丈夫だよ
ぉ…!」(ⓒ太福の娘)


不破数右衛門こと不破正種(まさたね)は赤穂浪士四十七
士の一人で、討ち入り時最も活躍した人物とされるが、
粗忽者だった。芝居見物に出かけ、主君浅野長矩を「本
物」と勘違いしてしまう、というのが主題。落語で言う
ところの「粗忽・滑稽もの」。


節(抑揚・調子)の一部がいつもと異なって聴こえたが、
恐らく気のせい?聴き分けられる程には浪曲耳は成長
していない。余談だが不破数右衛門は、討ち入りの翌
年元禄16(1703)年、荒川十太夫介錯切腹を遂げ
ている。


そしていよいよ念願の松之丞さん『中村仲蔵』。
冒頭のトークで「今日は泥試合でグダグダ」な仲蔵、
とのこと。してやったりで予想に違わぬ展開である。


時間にして約40分。仲蔵のおかみさんが出て来ない
のはデフォルト?そう言いながらも換骨脱胎な感じ
でそつなくまとめて聴かせどころは外さない。
ひとつ気になったのは、斧定九郎が銃で撃たれる場
面、「全身真っ白」で、
口の中に卵の殻に入れて仕
込んだ血糊を噛み、その白装束が血で染まる、的な
展開だったが、落語では煮しめたようなてかてかの
羊羹色の紋付き袴だったと記憶している。因みに落
語の『中村仲蔵』を生で拝聴したのは雲助師、
志の輔師、志らく師で、太福さんの浪曲は別格で素
晴らしい。無性に拝聴したくなってしまった。


泥試合でグダグダな『中村仲蔵』、初めて生で拝聴
したので他と比べる
べくもないが、これで本気(今日
だって手を抜いているわけではないだろうが)になっ
たら一体どんな「形」になるのか。是非拝聴したい
ものである。


遊雀師『淀五郎』はネタ下ろしで、馬石師に教わった
とのこと。何故雲助師に教わらないのか、との問に、
「いや下から穴掘って(雲助師を)越えようと思ってな」
という返しも素晴らしい。
30年後、名人となった栄屋(仲蔵)が、淀五郎に手を差
し伸べる。それ程高座を拝聴してはいないが、
遊雀
の柔軟さが際立っているものとみた。

主君、師匠、演者、客、人に対する「義」というもの
を考えさせられた、とても贅沢な三扇会、堪能させて
頂きました。


終演後、ぞろぞろ客が帰っている時、楽屋と思しき部
屋から松之丞さんが私服で出て来たのだが、あ、と躊
躇った感じでまた入ってしまった。
何を見て臆したの
だろうか。


(またしても太福さんをお笑い担当みたいに言っていた
のが許し難い)