Impression>Critique

感想ブログ~演芸(落語・浪曲・講談)etc.~

神田松之丞銀座7DAYS

2018年7月27日
「神田松之丞銀座7DAYS
 連続講談ひとり『天保水滸伝』と。」
 五日目

 @銀座博品館劇場



神田松之丞
天保水滸伝 「潮来の遊び」』
真景累ヶ淵 「宗悦殺し」』
~仲入り~
『慶安太平記 「鐡誠道人」』

 

 

実力・才能ともに真打を凌駕する勢いの、未だ二ツ目
講談師。銀座博品館劇場(キャパ380席)、単独7日間口演
が、短期間で完売した。

 

講談師神田松之丞の口演に初めて接したのは昨年6月。
独演会の形式では、今回が実に初。

 

全公演に行きたかったが、物理的に不可能である。
ネタ出しされている二席のうち、以前TVで一部のみ
見ただけで戦慄を覚えた「宗悦殺し」を全編拝聴した
いと思い、この日を選んだ。

 

結果、最良の選択をしたようだ。
日替わりで作成されている贅沢なパンフレットの、
著名人による「神田松之丞を四文字熟語で」という
お題でのエッセイ、執筆者は高田文夫先生。最高だ。

 

「総て四文字で」表された神田松之丞。
「夏幽霊飯」とは、講談師は夏幽霊(怪談)で飯を食う、
ということだろうか。
「今宵も君を松之丞」で締める。ベタだが洒脱。

 

マクラ。「3時間しか寝てない」という牽制、昨日の
公演が如何に素晴らしかったかを力説。
2時間半ぐらいしか寝ていない睡眠不足の頭には、
「だから何?」という疑問符しか浮かばないが。


天保水滸伝 「潮来の遊び」』
古典落語明烏』に内容が酷似しているのは周知の通り。
しかし
いずれもその源流が18世紀末に実際に起こった、
吉原の遊女と呉服屋若旦那の心中事件を元にして、新内
として節付けされた『明烏夢淡雪』、
更には19世紀初頭
に成り、流行した艶笑小説『明烏後正夢』にあると知れ
ば納得がいく。

おぼこい男が遊女に「一人前のオトコ」に仕立ててもら
う微笑ましい艶笑噺。やはり遊郭は当時の男のファンタ
ジー実現の場、夢のワンダーランドだったのだろう。


真景累ヶ淵 「宗悦殺し』
言わずと知れた三遊亭圓朝作『真景累ヶ淵』の一節。
全容を拝聴してみて、深見新左衛門の狂気はきっちり恐
かったのだが、ほんの少しだけ、「手練れ」な部分が、
恐怖感を殺いでしまっているように感じられた。


この独演会は、ネタ出し二席(『天保水滸伝』一席、
「怪談」一席)と、仲入り後長講一席、という構成
だった。仲入り中、出来たてほやほやの新著
『神田松之丞 講談入門』(河出書房新社)を購入した。
版元のしくじりで、印刷後に誤植が幾つか発見され、
急遽訂正シールを貼ることで対応している状態のレア
な本。刷り直し後、交換してくれるということだが、
神田松之丞を好きである「ような」人間が、この事態
を甘受しないわけがない。


客席は「さあ、今日は一体何を読んでくれるんだ?」と
いう静かだが強い期待で緊張しているように見えた。


お出ましになり、「慶安太平記由比正雪…」と語りだす。
「!『鐡誠道人』だ!!」
『慶安太平記』は慶応四(1651)年、由比正雪、丸橋忠弥等
を首謀とし、幕府転覆を謀った「慶安事件」が元になって
いる。
『鐡誠道人』はその一節で、やや本流と外れるが、途轍も
なく凄惨な読み物である。3ヶ月前、どうしてもこの
『鐡誠道人』を読む「残酷な松之丞」を拝見拝聴したくな
り、チケットは完売していたが(蜃気楼龍玉師との会「大
江戸悪人物語」)、良心的なチケットサイトで購入して聴
きに行った、という経緯があった。
何と、その時よりもずっと前方の席で、『鐡誠道人』を拝
聴できる!


黒紋付をばっ、と後ろに脱ぎ、白(死に)装束になった瞬間、
素でぞく、と鳥肌が立った。
「残酷な松之丞」は客に息をつかせる間もなく、眩しいま
での「白い恐怖」を堪能させてくれた。


終演後、当然のごとく購入した書籍にサインを頂くべく、
長蛇の列に並んだ。「長蛇」は階段を使ってとぐろを巻
いていた。あと少し、という所で松之丞さんがこちらに
向かって何か言い、前に並んでいた客がこちらを一斉に
見たのだが、何を言ったのかは不明。

いよいよ順番が来た。
鳥肌ものの芸を披露した芸人さん
を前に、緊張と含羞で固まる私だが、

「どうも~」「お疲れ様でした」と声をかけて頂く。
その態度に、どんな物事にも、人にも、対象に対して
「絶対に失敗しない」という気概と、プライドを感じ取った。



談志が落語をそうしたように、講談を再び白日のもとに曝け
出した、若き天才講談師。
あとどれくらいその比類なき高座に接することが出来るだろ
うか。